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子供の頃から四十歳手前まで、一貫して同じ美容室に通っていた。かれこれ三十年ほどになる。…
夕方に鳴る五時の鐘は、遊び盛りの子供にとって憂鬱な響きだった。どんなに夢中になって遊ん…
「かつてはその人の膝の前に跪(ひざまづ)いたという記憶が、今度はその人の頭の上に足を載…
久しぶりに会った旧友と、二人で飲みに出かけた。雑居ビルの狭い通路に赤提灯の並ぶ、おでん…
中学生のときの国語担当はA先生という中年女性だった。下膨れのした巨大な顔面を化粧で真っ…
理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生…
ドラッグストアで買いものをしていると、にわかに騒々しい雰囲気を感じました。そのほうを見ると、男の子が母親に駄々をこねていました。男の子の駄々は悲壮で鬼気迫るものでした。母親は困ったような、怒ったような顔で、ひとりで先へすすんで買いものをしていました。取りのこされた男の子は地べたに座りこみ、力いっぱい泣きわめきました。 そこへ買いものカゴをさげた年配の女性が通りがかりました。女性は男の子をなだめはじめました。けれど男の子に女性の声はとどきません。男の子は床に寝転んでしまっ
駅前に立つ一本の大樹のもとにハトが集まっていた。あるものはせわしく土をついばんで、ある…
子供のころ、実家は自営業を営んでいた。熱帯魚関係の仕事だった。店舗で魚を売っていた訳で…
ゴトー君は中学時代の同級生でした。運動神経の良い子でしたが、寡黙で他人と交わることはほ…
中学校での掃除の時間は昼休みにありました。給食を終えてから校内放送で合図がかかると、私…
高校時代のクラスメイトAと落ち合って居酒屋へ向かった。 「M子さん、熱が出たんだって…
漫画に登場する犬はたいてい骨をくわえているけれど、ほんとうに犬は骨なんぞを好んで食べる…
小学校のお友達と二人で近所の川へ釣りに出かけました。私たちが糸を垂れたのは、街道と東名高速道路の交わる地点でした。自動車の往来が絶えない場所だけれど、堤を下って川のほとりにしゃがみこむと、とたんに喧騒が遠のいて遁世の趣を催すのでした。 土手はゆるやかなカーブを描いて桜並木が遠くまでつづいています。春になって満開のあかつきには花見客であふれ、水面にはうすくれないの花筏がゆっくりと流れていくおだやかな川辺です。ところが私たちが赴いたその日といえば、季節感のない退屈な時期でし