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『雑草ラジオ』と自然界-協生農法を通じて見えたもの

コトモファーム会員 瀬戸さん 藤沢市在住

『雑草ラジオ』とは?-自然界とラジオの不思議な結びつき

瀬戸義章と申します。本業はフリーライターをしておりますが、最近『雑草ラジオ』というタイトルの本を英治出版から出版させていただきました。
 
雑草というと、草木に関係がある本なのかなと思われますよね。でも雑草とラジオの組み合わせってかなり?マークが浮かぶんじゃないでしょうか。まずはどういった内容の本なのかという所から紹介させていただきます。

『雑草ラジオ』はこちらから購入できます https://www.amazon.co.jp/雑草ラジオ――狭くて自由なメディアで地域を変える、アマチュアたちの物語-瀬戸義章/dp/4862763286


上記URLにて、コトモファーム代表小島の推薦文も掲載させていただいております

基本的には防災に関する本です。例えば阪神淡路大震災とか、スマトラ沖地震といった大災害をきっかけに、小さなラジオ局を立ち上げた人々の物語です。ラジオの力によって、コミュニティを豊かにして活性化させていく取り組みですね。私自身もその取り組みに参加して、体験したこと、考えたことをまとめた本になっています。
 
ラジオといっても、数キロしか電波が飛ばないような小さなラジオです。全国で聴けるような大きなメディアとは違って、一般にコミュニティラジオと呼ばれるような、村単位・町単位でしか聴けないラジオだと思ってください。

FMわいわいにて(2015年)

このようなコミュニティラジオは、大きな災害が発生した場所で重要な役割を担っています。被災地では一体何が起きているのか。家族や親戚は無事だろうか、どこで食料や水は手に入るのか、どこの道路が無事に通れるのか。あるいは罹災証明書はどのように提出するのか、義援金はどうやってもらえるのか。
様々な不安を抱えて困っている被災者に対して、小さなラジオは情報を届ける手段として活躍していました。
 
被災地が復旧から復興に移行していく過程で、このラジオはただ単に情報を伝えるだけのものではなくなりました。
行政、市民、被災地を訪れる学者やNPOの方など、いろいろな人が混ざり合って、お互いに交流しコミュニケーションを図る必要性が生まれたんですね。
これからこの街をどうやってもっと良くしていくのか、議論できる場所としてラジオ局の役割が広がっていきました。

雑草の種は各地に蒔かれて、芽を張り巡らせて、土壌の栄養を支えて豊かにしています。
小さなコミュニティラジオ局と、雑草の種はどこか似ているように思いました。
ラジオが様々な地域に広がって、そこに根を下ろすことで、自然界における雑草のような役割を担うことができるのではないか。
マスメディアのような大木ではなくても、小さな雑草として、その地域に住む人々を幸せにできるのではないだろうか。
『雑草ラジオ』というタイトルにはそのような意味が込められています。


インドネシアコミュニティ放送協会でのアンテナ設置実験

畑の中で生態系を作る―体験農園コトモファームで協生農法を実践


 現在私は体験農園コトモファームの会員として、自然栽培専用の第3農園で協生農法という変わった育て方をしています。ここからは協生農法について紹介しつつ、『雑草ラジオ』との結び付きについて説明させていただきます。

※瀬戸さんが実践されている協生農法に関しては、下記インタビュー記事でもご紹介させていただいています。(2019年)
協生農法で複雑なものにアプローチ 野菜の森をつくる|えと菜園コトモファーム|note

協生農法というのは、ソニーの研究所に勤めている数学者の方が提唱している農法です。
具体的には、特定の野菜だけを管理して育てるのではなくて、人間にとって有用な植物で生態系を作ることを目指しています。生態系の力によって草木がやがて森になっていくように、お互いが協力しながら栄養価を高めていって、全体として豊かになっていく。そのような畑を作ろうという農法です。

協生農法を実践されている瀬戸さんの畑(全体図)

私の畑をご覧になった方は、「これって畑なの?」と首をかしげる方が多いと思います。
中には畑と気づかずに通り過ぎる方もいるかもしれない、それくらい不思議な畑にはなっていると思います。
ただこの畑では、野菜、ハーブ類、山菜、食べられる野草などが常に何十種類も生きていて、移り変わっています。

(左側)ブルーベリーの樹を中心に、レモングラス、ローズマリー、いちごなど多数


(右側)ゆずの樹を中心に、自然薯、アスパラガス、ミントなど多数

大きく左右に分けて、それぞれ中心に樹が生えている構造になっています。左サイドはブルーベリー、右サイドはゆずの樹です。
果物はそれ自体が畑の肥料になります。果物を人間が全部食べずに、地面に落とすことで、土壌に栄養を与えますし、鳥や獣が果物を食べて糞をして、さらなる栄養をもたらしてくれます。そのような生態系の仕組みを発動させるために、果物の樹を中心に据えています。
 
手前にはレモングラス、ローズマリーなどのハーブ類やミントをいろいろ植えています。ハーブ類は手間がかからずに丈夫に育ちますし、量も少ないので収穫の楽しみを得やすいので植えています。今は毎週日曜日お昼ごろに来て、ハーブ類を採って、お湯を沸かしてお茶にして飲んで楽しんでいます。
 
他の自然栽培もそうかもしれませんが、協生農法で育てている野菜はどこか透き通った味がすると感じます。野菜自体に臭みがなくて、味の切れの良さを感じます。例えば大根は、水気があってシャキシャキしていて少しの甘みがあって、梨に近いなと思いました。

それ以外だとアスパラガス、自然薯、茗荷、蕗などを育てていますし、収穫し忘れたジャガイモや植えっぱなしのイチゴが勝手に生えてきたりします。多年生のものは勝手に増えていくのでいいですね。
さすがに夏場は雑草を取りますが、基本的には手は加えず、人間にとって役に立つ植物の肩を持つ気持ちでいます。
 
区画を整理せずに混ざり合うようにして、いろいろなものが一緒に生きている、そんな畑を目指しています。特定の品種だけ並べていると虫や病気のリスクが高まると思いますが、テントウムシとか蜘蛛とか、虫を捕食する天敵も来やすい環境を意識しているので、トータルとしてバランスは取れているのかなと思います。

あえて品種間の境界を曖昧にして、お互いに助け合う環境を目指されています

自然について知るほどに、複雑な社会に目を向けて、対峙できる


『雑草ラジオ』との繋がりに話を戻します。私はラジオの防災活動をする前から、発展途上国や日本の社会問題に対して、何かできることを探して実践してきました。その中で感じるようになったのが、問題を解決しようという意識そのものが、別の問題を生み出しているのではないかという疑問です。
 
例えば沖縄県ではかつて、毒蛇のハブを退治するためにマングースを輸入して育てていました。今だと笑い話のようですが、輸入されたマングースはハブを狙わずに、貴重な鳥類であるヤンバルクイナを狙うようになって、生態系にとって良くない結果になったんです。
 
そのような例はいくらでもあると思います。私たちは何か問題が発生したときに、原因が何かをまず探りますよね。原因を解決するためにはどうすればよいかを考えがちだと思います。でも社会はもっと複雑に絡み合っていて、その問題の文化的背景・社会的背景まで目を向ける必要があるのではないでしょうか。
 
数学界ではカオスとか、複雑系とか呼ばれていて、世の中には予測や計算が不可能なものがあると何十年も前から言われています。それならば実際に、複雑で先の見通せない社会を味わって、自分の肌で感じるべきではないかと考えました。自然の持つ訳のわからなさや、思い通りにしようとしても全然うまくいかない事を体得できる場所として、協生農法の畑をこれまで5年近く続けてきました。
 
自然ってコントロールできないんだなと、当たり前かもしれないですけど、私はこの畑で強く実感しました。都市生活をしていると、家の中でエアコンがあって、冷蔵庫で物が冷やせて、蛇口を捻ればいつでも飲める水が出てきます。それらの生活が当たり前になっていると、自然って思い通りにならないことばかりなんですね。温度調節もできないし、「なんでこの種を蒔いたのに違うものが生えてくるの?」とか。
 
コントロールを一旦手放すと、勝手に野菜が生えてくることに感動します。自分では何も世話していないし、肥料や水もあげていません。でも丸々と太った大根や甘いサツマイモが収穫できたり、びっくりすることの連続ですね。
自然の力強さを知ること、コントロール不可能でも物事は悪い方向に行くばかりではないこと、畑はたくさんの気づきをもたらしてくれる場所です。

畑を発信地にして、自然について学ぶ場を生み出す


もちろん、協生農法のような取り組みは自分が初めて実践したわけではありません。これまで数多くの方が自然から得た学びを知識や知恵に転換してきたでしょう。
 
これからは、協生農法で得られた気づきをまずは仲間内で共有したいです。先人の歴史から学ぶために、今は小さな読書会を始めました。自分自身の考えをもっとかみ砕いて伝える場や、実際に体験してもらうようなワークショップなども考えています。
自然という、複雑で訳のわからないものに接するための作法や思想について、これから皆さんと一緒に体得できればと思います。

コミュニティラジオのカンファレンスでバックパックラジオを紹介

(2023年2月19日)

体験農園コトモファームのHPはこちらからご覧になれます。
https://www.eto-na-en.com/cotomo-farm/
お問合せ先 TEL:070-6556-5300
      メール:cotomofarm@eto-na-en.com

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