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例文トレ#12 本日のお題「ちゃんと」

今月のMs. Hidari’s Eye、例文トレーニングのお題は「ちゃんと」です。これまた一言では英語にしにくい、というか英語だと色々な言い方が考えられる言葉ですね。

「ちゃんとちゃんとの味の素」なんてコピーもありましたね。これって「きちんと」じゃないんですよね〜。今月も講師の皆さんから日本人が普段使っている自然な言い方の文(日本語教育用にコントロールされていない文)を集めました。まずは“鳥の目”で例文を見てみましょう。例文はコトハジメのHPをご覧ください。

「ちゃんと」についてちゃんと考えてみた

娘:やばっ。明日提出のプリントがないっ!ちゃんとやったのに〜
母:え〜、またぁ?机の上、ちゃんと見た?いつもちゃんと片付けないからそうなるのよー
・・・ガサゴソガサゴソ・・・ 
娘:あったー! 
母:あーもう、ちゃんとしてちょうだい!!!

「ちゃんと」のざっくり感たるや、よくある家族の会話です。上の会話文だけでも色々なニュアンスがありますね。今度は“虫の目”で見てみます。

① ちゃんと

「ちゃんと」の使用場面トップは、やはり子どものしつけに関してですね。親が言う「ちゃんとしなさい」「ちゃんとした格好」「ちゃんとしている人」は世間体を気にしたものなのでしょう。話者がこの語彙を使う背景には、「~べき」論、つまり社会的・観念的模範に見合った行動や態度を「しなければいけない」という考え方がありそうです。

② きちんと

その中でも「きちんと」を使えば、その「~べき」状態が目に見えるもの(質量のあるもの)、「部屋をきちんと片づける」→「あるべきものをあるべきところに」、「きちんと座る」→「まっすぐな姿勢で」、「日本の電車はきちんと時間通りに来る」→「定刻通り、正確に」「きちんとした格好」なら「ジャケットとネクタイで」といった具合に、状態が少し具体的に想像できますね。

③ しっかり

「しっかり」は重量や強度を形容する副詞であるように感じますが、いかがでしょうか。「登山に行くならしっかりとした格好でね」→「防寒対策バッチリのイメージ」、「しっかり者」→「頼れる人」、「しっかり準備」→「ぬかりなく」、「しっかりとしたつくりの机」→「丈夫で立派な机」。「しっかり」には、ぬかりなくやった上での信頼と安心感が感じられます。

ちなみに

語彙の定義に関して考察する方法はいろいろありますが、外国人への日本語教育という観点に立って考えた場合、私がよく参考にするのは他の言語(ここでは英語)に何と訳されているかという視点です。

今日はここで、私が愛用しているその手の辞書『会話作文英語表現辞典』を見てみましょう。そこでは「ちゃんと」が以下3つの意味に分けてあります。

①「確かに(確実に)」ex.)ちゃんと準備した。手紙はちゃんと届いた?
②「きちんと」ex.)へやをちゃんと片づける。ちゃんと座る。
③「立派な」ex.)ちゃんとした職業、ちゃんとした病院

『会話作文英語表現辞典』

まとめ

この3つ、どれも同じような意味の言葉です。というか、「きちんと」も「しっかり」も「ちゃんと」で済ませようと思ったら、済ませてしまえます。私たちネイティブは「ちゃんと」で物足りないと感じる場合に「きちんと」「しっかり」を使うんでしょうね。

ということで、「ちゃんと」はざっくりした言葉なんですね。それゆえ、けっこう都合よく使ってしまいがち。「みなまで言わせるな、わかるよね、私の言いたいこと」といった感じで、ハイコンテクストで日本語らしい表現です。そもそも「ちゃんと」の中身は人・家庭・国などによって違うもの。中身をちゃんと(具体的に)言ったほうがミスコミュニケーションは避けられそうです。

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