104. 60分間の近視性単性直乱視の焦点ずれによって黄斑部の脈絡膜の肥厚が起こるが,近視性単性倒乱視の焦点ずれでは肥厚しない(逆に菲薄化する)

Astigmatic Defocus Leads to Short-Term Changes in Human Choroidal Thickness

Hoseini-Yazdi H, Vincent SJ, Read SA, Collins MJ. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2020 Jul 1;61(8):48. doi: 10.1167/iovs.61.8.48. PMID: 32729913; PMCID: PMC7425733.


目的:短期間の近視性単性with-the-rule(WTR:直乱視)およびagainst-the-rule(ATR:倒乱視)デフォーカスに対する脈絡膜厚(choroidal thickness:ChT)の反応を,球面のみの近視性デフォーカスおよびclear visionを対照条件として検討すること。

方法:28±6歳の健康な成人18名の左眼を,右眼を最適に矯正しながら,ランダムに4回の条件,clear vision,+3D球面近視デフォーカス,+3D×180WTR,+3D×90ATRデフォーカスに60分間曝露した。20分,40分,60分のデフォーカスの前後で,黄斑部ChTを垂直・水平経線に沿ってOCTで測定した。

結果:デフォーカス60分後,ChTは球面近視デフォーカスでは+8±5μm増加したが(P < 0.001),近視性単性乱視デフォーカスでは乱視軸によって変化し(P < 0.001),WTRでは+5±6μm増加(P = 0.037 ),ATRでは-4±5μm減少(P = 0.011 )した。これらの変化は,垂直方向と水平方向の経線に渡って同様であった(P = 0.22)。ChTの変化は,WTR(+5±5μm,P = 0.002)ではclear vision条件(-1±4μm)より変化が大きかったが,ATR(-4±6μm,P = 0.09)では有意でなかった。

結論:これらの結果は,短期間の乱視性デフォーカスに対するヒトのChT反応に関する洞察を提供し,乱視性ボケの向きに関連する近視関連性シグナルの潜在的な違いを浮き彫りにした。

※コメント
近視性単性直乱視の焦点ずれに応答した脈絡膜の肥厚は,近視性単性倒乱視の焦点ずれでは発生しなかったことから,方向選択性が人間の目の成長を制御する視覚依存メカニズムに存在する可能性があります。

*乱視軸の違いによって結果が異なる理由についての考察
マウスとマカクザルを対象とした研究では,網膜アマクリン細胞と神経節細胞が垂直または水平方向の特徴に対して優先的な感度を示すという有力な証拠が得られており,これらの方位選択的な網膜内ニューロンは網膜輝度の時空間的な増加(ON反応)または減少(OFF反応)にも敏感であることが示されている。網膜ON/OFFシグナル伝達経路は,マウスにおいて眼の成長を制御する視覚依存的メカニズムに寄与すること,最近ではヒトChTにおいてON/OFF刺激による双方向性の変化を示す証拠もある。したがって,球面デフォーカスの兆候の検出に関与する網膜内ニューロンが乱視デフォーカスに関連する方位特異的な手がかりを処理し,ChTの変化につながる信号処理の可能性は考えられないわけではない。


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