悪魔の降誕祭 2024/08/06(p.376)#84
横溝正史『悪魔の降誕祭』を読みおえる。角川文庫。表題作「悪魔の降誕祭」と「女怪」「霧の山荘」の中短篇三つを収録、いずれも金田一耕助の事件簿である。はじめて読む作品ばかりで、読みやすいし結末が気になるしでサクサク読んであっという間に読みおえてしまった。金田一は独特の言い回しが癖になる。
いやそう云いますけど金田一さん、あなた事件を阻止できたこと、ほとんどないじゃありませんか。それどころかたいていは犯人が自殺してしまって、取り逃がしてしまう。
と云うのもどうやら「金田一耕助流のヒューマニズム」とやらを発揮して、自殺を見逃している、どころか唆している節さえあるのである。
それもこれも、私立探偵という職業だからこそできることなのかもしれない。少なくとも金田一本人にはそういう自覚があるらしく、警官だとそうはいかない、てことはわかっているらしい。解決はするけど逮捕はしなくてもいい。ポアロもホームズもガリレオも、そういうとこあるよね。探偵小説の自由で面白い処ではある。
「女怪」は珍しく金田一の恋が描かれる。『獄門島』以来かな。ホームズのアイリーン・アドラーは恋と云うほど発展しないし、ポアロもロサコフ伯爵夫人とのロマンスがあったけれど、ふたりとも自らの恋愛にはほとんど興味がないかんじで、そう考えると金田一はけっこう恋をしていて、人間臭い。美女に弱いし、わりと女好きではあるよね。美女に弱いのはホームズもポアロもいっしょか。いずれにしても、長篇は事件そのものを追いかける面白さがあるのに対して、短篇は探偵の人間性がより垣間見えるようで、愉しい。
それにしても、探偵て行く先々で事件に巻き込まれるよね。金田一は探偵として有名でもあるから、向こうから事件が勝手に引き寄せられる(相談事が舞いこんでくる)というのはあるにしても、ほとんどこのひとこそが犯罪の元凶なんじゃないか、とおもわせるほどである。それもこれも探偵という職業柄なのかもしれないけれど。
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