自慢の弟は一番最後 23話
5回表終了時 オ1ー1ソ
同点に追いついた後の5回裏
オリックスの打順は、7番の紅林選手
武田:ふぅ....
ビュ
カキーーン
和:くっ....
ツーベースヒット....
今まで好投を続けていた武田さん
だけど、5回に入ってから少しストライクとボールがはっきりわかるようになっていた
そして8番の若月さんにはフォアボール
0アウトの状況で、ランナーが1塁2塁
9番の安達選手はバントフライで何とか1アウト
ただ、ここから....
思い出したくもない....
1番 福田選手の打席
ボールが2球続いた後の3球目
武田:ふぅ....
ビュ
キーーン
○○:(来たっ!)
普通のセカンドゴロだった
何回も何回も...!
ノックで受けてきたゴロだった
でも....
ポロッ
「うわぁあああ!」
「あぁ...」
1塁側のスタンドからは歓声が、3塁側のスタンドからはため息にも似た落胆の声が沸き起こる
和:うそっ....○○が....
"落球した!?"
信じられなかった
なにが起きたのかわからなかったから、すぐに中継の映像を見る
実況:いや~、井上、どうしたんでしょうね?
解説:簡単なセカンドゴロのように見えますが...
実況:スロー映像を見てみましょう
解説:あぁ....これは不運ですね
実況:と言いますと?
解説:福田選手がフルスイングした球は、ものすごいスピンがかかっていたんですよね
それによってバウンドがイレギュラーにバウンドしたんですよ
実況:なるほど....
いずれにしてもオリックスとしてはラッキーですね!
解説:そうですね!
ここで今日ツーベースを打っている宗ですからね....
完璧なんて存在しない
そんなことは知ってる
だから完璧に近づけるために練習することだって...
勉強も青春も遊びに行きたかったであろう時間も、すべて削ってきたことも
莫大な時間をかけて練習してきたことだって....
全部、知ってる
だからこそ、悔しい
守備のミスは、信頼を揺るがすから
和:○○....
○○:すみません....
マウンドに集まって武田さんに謝る
武田:気にすんな、次頼むよ
○○:はい...
今宮さん、晃さんにも頭を叩かれ、切り替えないといけないことだってわかってる
だけど...
頭の中にはあのミスが、ループ映像のように流れている
2番 宗選手
第1打席では、痛烈なツーベースヒットを打っている
1アウト満塁、状況は最悪
しかもそれを自分で作ってしまった...
その罪悪感がプレッシャーとなって、襲ってくる
武田:ふぅ....
ビュ
カキーーン
和:ゲッツー!
単なるショートゴロ
ゲッツーを取るのは容易
○○:フンッ
「あぁ....」
2度目の落胆の声
1アウト満塁でゲッツー
0点で抑えられる最高の結果
....となるはずだったのだが....
セカンドベースを踏んで1アウトは取ったものの、その後の送球がずれた
まさかの自分のエラーだけで2失点
その後、3番の佐野選手は何とかファールフライに打ち取るものの....
5回終了 オ3ー1ソ
これは決して中継には乗らないが....
ホークスの応援席からは....
「井上ー!ひっこめー!」
「お前のせいだぞ!」
など....
もう容赦のない声が響く
和:....
もう....聞きたくない....
一躍ヒーローになったと思えば...
今では罪を犯した大罪人のよう...
まぁでも、わかるよ
点を取られてはいけない場面で、致命的なエラーを2つ
全力で応援しているからわからなくもないんだけど....
たまに聞こえる
「○ね!」とか「く○ばれ!」とか...
怖すぎる...
もう、次の現地に行こうかどうか迷うレベル
だけど....
○○が闘っているから逃げない
さくら:○○君....
あやめ:...○○
どちらも○○のことを想っているからこそ、名前を呼びはするものの
そのあとに言葉が続いてこない
ただただ中継の映像と音声だけが、空間を埋めていく
藤本:....髙田、一応準備しておいて
髙田:はいっ!
5回の守備が終わり、ベンチに戻る
先輩たちは優しいから、「切り替えろ」とか「ドンマイ」とか声をかけてくれる
だけど、今はその優しさが苦しい
ベンチに戻り、自分の荷物からタオルを取り出し汗を拭く
でも....
ポタッ ポタッ
拭いても....
ポタッ ポタッ
拭いても....
ポタッ ポタッ
拭いても....
ポタッ ポタッ
自分の席がどんどんと濡れていく
涙が目からあふれてしょうがない
悔しい....
ただただ悔しい
なんでもっと正確に捕球しにいかなかったのか....
なんでもっと余裕を持って送球できなかったのか
なんでもっと....
自分に対する反省が頭の中を埋めていく
負けず嫌いだけど、今はそれを活力にできるほど自分が出来上がっていないことを実感させられた
中継のカメラはその回で活躍した・目立った選手が抜かれる
が、この時は....
さくら:....ちょっと、今は映さないであげてよ....
あやめ:うん....
どうしても○○がカメラに抜かれてしまう
映らないように背中を向けてはいるけれど....
それでも泣いているのが分かる
和:....グスッ
辛い....ただただ辛い
それがプロ野球選手の定めだとしても....
一つのミスには、これまでの努力をすべて無に帰すような破壊力がある
それは積み上げれば積み上げただけ、その破壊力は大きい
髙田:○○、おいで
髙田さんにロッカーに連れていかれる
あぁ....
今日はもう交代だ....
こんな情けない姿を見せてしまったんだから
そう思ってしまう
髙田:○○、顔洗っておいで
そういって顔を洗って戻ると....
髙田:いいか○○
ここがお前の正念場だ
自分で失ったものは自分で取り返すこと
それができるのは試合に出てこそ、だろ?
○○:髙田さん....
髙田:ちょっと携帯見てみ?
ほんとは試合中の携帯の使用は禁止だけど
スマホを見てみると....
敦L:取り返せ!
通知欄にはこの一通だけ
○○:....ふふっ、うっせぇ
かつての相棒からの言葉
何気ない一言だけど、それが心に響く
髙田:お前の知り合いでお前を責める人はいたか?
○○:...いなかったです
髙田:だろ?
お前の事を本気で応援してくれているやつは、マイナスなこと言わないんだよ
それに、お前のタオルを持って応援してくれているファンの人たちいっぱいいたでしょ?
○○:はい....
髙田:お前がホームラン打った時、泣いてる人いたからね
○○:....
この時、自然と和の顔が浮かんだ
あぁ....また助けられちゃったな
髙田:今日はお前が主役だ
ここにいる意味を見せてやれ!
○○:はいっ!
そういってグラウンドへ戻る
情けない気持ちと顔はロッカーに置いて….
藤本:....髙田、お前コーチ向いてるよ
髙田:そうですかね
でも....俺はあいつに活躍してほしいですから
藤本:ふふっ、わかってるよ
さぁ....手のひらひっくり返しに行きますか!
To Be continued...
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