見出し画像

6章:男性から見た授乳に関する課題

育児に参画するパパ、母乳は出ない

育児に参画する男性が増えて、赤ちゃんと接する機会が多くなり、パパとかママとかを意識することなく育児をすることができるようになりつつありますが、母乳をあげる行為だけは、男性ができないことです。育児をしていると、赤ちゃんが不機嫌で泣いていても、お母さんのおっぱいを飲むと機嫌が戻り、泣き止み、やがてすやすやと眠ってしまうということはよくあります。こんな時、男性の無力さと赤ちゃんはやはりお父さんより、お母さんなんだなぁと思ったりして、「男性も母乳をあげることができたらなぁ」と思うことがあります。
そこで、実際に男性、オスで乳が出ないものかと調べてみました。「わたしたち哺乳類」という本では、医学的な治療などによる影響を除いて、哺乳類でオスが乳を出したという報告は1990年以降、2例しかありませんと書いてあります。それはコウモリの事例でそれもほんの微量の乳が出ていたったという報告であり、メスに変わって授乳を行なっていたというものではありません。やはり現時点では、動物としても女性に替わって、男性が自分の乳で授乳するということは難しいことのようです。
母乳ではなく、授乳という行為に注目すると、母乳を代替するモノが乏しかった時代と比較して、粉ミルクや液体ミルクが登場したことにより、男性も赤ちゃんを腕に抱き、食事をしている姿を見ることができるようになったことは、とても幸せなことであり、大きな変化だと思います。また、男性も赤ちゃんを抱っこしてふれあい、哺乳瓶で授乳することができるようになったことで、より赤ちゃんとスキンシップし、コミュニケーションをする機会を増やすことができました。

パパはママに授乳について話せない

パパも授乳する機会が増えましたが、ママから哺乳瓶を渡されて赤ちゃんに授乳しているだけで、授乳がどうあるべきかと考えるレベルには至っていません。それはパパ自身が授乳に関して学ぶ機会がこれまでになかったため、知識もないし、それを調べる手段もないことが原因です。
しかし、授乳という行為が育児の1つのタスクではなく、赤ちゃんの食事、The First Diet for Lifeと考え始めると、育児にとってとても大事なことであり、ママだけでなく、パパも一緒に考える必要があることに気づきます。そして、パパがママへ授乳について話し、相談できるようになるためには、いくつかの段階が必要と考えています。

1)授乳に関する知識を得る
現在の授乳や母乳に関する情報は女性を対象に発信されています。男性を対象に発信されているものはほとんどありません。またそれらの情報は、授乳や育児に関して実践的な内容が多く、ハウツーが書かれています。その内容の多くは、誰かの経験に基づくものであり、なぜと言う理由が説明されていません。男性が授乳のことを学ぶには、感覚的な説明や体験談ではなく、メカニズムや論理な説明が必要なのです。男性はサイエンスとして母乳のメカニズムや胎児、子どもの成長のメカニズムなどを知ることで、いろんな不思議を感じることで、自ら考えて、知識を得ようとするようになります。

2)授乳の課題をオープンにする
子育ての課題を夫婦で相談する機会は増えていますが、授乳の課題を男性から話題にすることはまだ難しいことです。また女性も自ら男性(パートナー)へだけでなく、第三者へ相談しづらく、自分でなんとかしなければならないと考えがちです。特に、母乳に関する課題はその傾向が強いようです。しかし、前述の通り、母乳という言葉は社会環境を考慮し、人為的に作られた言葉です。そして、社会環境は大きく変ったのですが、言葉の意味だけが変わらずに残り、その当事者である女性を苦しめる言葉になってしまっています。つまり、それ以前の社会では太古の昔から乳は共同体の課題であり、一個人の課題ではなかったことを思い出してもらい、女性にはちょっと意識を変えてもらって、男性(パートナー)や第三者へ相談してもらいたいと考えています。そのような環境を作るためには、母乳に変わる言葉が必要であると考えているので、人生最初の食事である「The First Diet for Life」という考え方と言葉を作り、そのきっかけを生み出したいと考えています。

3)授乳の課題を共有する
子育てに関わることで、日々起こる変化から喜んだり、悩んだりすることは、女性だけでなく男性も同じです。また自分の子どもが健康に育って欲しいと思う気持ちとゴールも同じです。その1つのテーマが食事であり、その最初の方法が授乳ということになります。
男性が授乳に関する知識を獲得し、女性が授乳に関してオープンに議論するようになれば、夫婦で考えることができます。そして健康の定義は身体的に病気であるかそうでないかということだけでなく、精神的、社会的に良好であることが求められるため、夫婦で解決できない課題は外部を巻き込んで、社会として解決するような流れができればと考えています。

現在、授乳というテーマをオープンに議論しようとすると、「おっぱい右翼」「おっぱい左翼」など妄信的な原理主義者により、感情的な議論となる可能性があります。だから、慎重に議論を始める必要があります。

これまで授乳は社会の課題であり、男性の責任であった

前章で日本の乳母について説明しましたが、乳母を採用するかどうかは家父長である男性が判断していました。またこの意味するところは、生母の乳が出ない場合や、乳を与えることができなかった時、その生母は家長から責められることはありませんでした。つまり、家族の暮らしは家父長である男性の責任であり、何らかの問題が発生した時はそれを解決することも男性の責任であったからです。
また赤ちゃんの生死に関わる乳の確保は代替品が乏しい時代、赤ちゃんとお母さんの当事者に閉じることなく、家族、そして村(共同体)で支え合い、それを支援するための制度を作り、社会で考えていました。それが、乳の代替品が工業的に製造することができるようになり、その工業製品は各国の当局が品質基準を作り、それを遵守した製品が市場で流通し、お金さえ出せば手に入るようになりました。乳をいつでも確保できるようになったことで、生まれたばかりの赤ちゃんの生死に関わるリスクが低減されたということは非常に大きなことだと思います。しかし、いつしか赤ちゃんにとっての食事に関する責任が家父長制も崩壊したこともあり、男性の責任であることも希薄化してしまいました。
また赤ちゃんの食事について、工業製品である人工調整乳(粉ミルク、液体ミルク)の仕様についても疑うことなく、便利さを優先し、国が示した品質基準を受け入れているように感じます。

一度、良い悪いではなく、冷静に考えてみてはどうでしょうか。

これからはみんなで考えよう!

歴史を振り返ると、授乳について男性も社会もしっかり考えてきました。また医学をはじめとするサイエンスの分野でも、きっちりと経験だけでなく、エビデンスに基づいて対応していこうという流れになっています。だから、男性も知識をつけて、周りを巻き込み、授乳に関する課題を女性だけの問題にするのではなく、子どもたちの健康のことを考えて、みんなで解決に向けて活動していく必要があります。

参考文献

(書籍)
松田道雄 「定本 育児の百科(上)」岩波書店(2008)
松田道雄 「定本 育児の百科(中)」岩波書店(2008)
松田道雄 「定本 育児の百科(下)」岩波書店(2008)
内藤寿七郎「新「育児の原理」あたたかい心を育てる 赤ちゃん編」角川文庫(2017)
内藤寿七郎「新「育児の原理」あたたかい心を育てる 幼児編」角川文庫(2017)
斎藤晢「理想のパパになるより育児を楽しむオトコになれ」ギャラクシーブックス(2019)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?