見出し画像

7章:子育て支援に関する政策

現在の子育て世代は社会環境や生活環境において様々な課題がある中で行なっています。
このような状況に対して、政府もいろんな施策を行って、対応していこうと動いていますが、子育ての当事者である時しか関心がないため、全体像を把握している人は少ないと思うので、本章で全体像を説明します。

日本の子育て支援政策の大きな流れ

1989年の合計特殊出生率が1.57となり、過去最低となったことを受け、日本政府は少子化という現象を認識しました。当時は1986年に施行された男女雇用機会均等法によって、子育てと仕事の両立支援に重きを置いた政策が中心で、育児休業制度や低年齢児保育、時間延長型保育などの保育サービスに対して充実が図られました。また少子化の原因は晩婚化だけでなく、夫婦の出生力そのものという現象が見えてきたので、子育てと仕事の両立を目的とする子育て支援政策と、男性を含めた働き方の見直しが必要と考えた働き方改革の2つを柱に、政策が検討されていきました。
これら2つの政策を進める過程で、専業主婦を対象とした地域の子育て支援なども進められるようになり、2003年に少子化社会対策法が施行され、内閣府の中に少子化社会対策会議が設置されて、政府は少子化に対処するための施策の指針を大綱として示し、年次報告書として国会へ提出することになりました。また同年に次世代育児支援対策推進法が公布され、「次世代を担う子どもたちを育成する家庭を社会全体で支援する」という意味から、地方公共団体及び事業主は次世代育児支援に関する行動計画の策定が求められるようになりました。
民主党政権時代には、子ども手当や高校授業料無償化、子ども・子育て新システムの検討は行われましたが、財源の確保が難しかったため、なかなか進みませんでした。
そして、2013年に第二次安倍内閣がスタートし、これまでの子育て支援だけでなく、女性活躍支援と少子化対策を強く打ち出しました。この背景には2008年に日本の総人口はピークを迎え、減少基調に転じたからです。女性活躍の成長戦略では、待機児童解消加速化プラン、3年間抱っこし放題での職場復帰支援、子育て後の再就職・起業支援を打ち出しました。また少子化に関する対策では子育て支援や働き方改革だけでなく、結婚、妊娠、出産支援にも重点が置かれるようになりました。2015年の女性の未婚率は1990年と比較すると20ポイントほど上がっており、結婚に関する課題が指摘されるようになりました。

20代後半 女性の未婚率  40.4%(1990年)→61.3%(2015年)
30代前半 女性の未婚率  13.9%(1990年)→34.6%(2015年)

また生涯未婚という人の割合は、「50歳時」の未婚率(結婚したことがない人の割合)を統計的に導きだした数字で計算された数値です。この数字は生涯を通して未婚である人の割合を示すものではありません。国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2017年)」によると、1970年男性は1.7%、女性は3.3%であることに対し、2015年男性は23.4%、女性は14.1%と上昇しています。晩婚化や未婚化は少子化の問題の原因となっています

図7-1

(図7-1 生涯未婚率の変化) 

2015年からは「子ども・子育て支援新制度」がスタートし、待機児童を解消する目的で、一般事業主から徴収する拠出金率の上限を引き上げ、その財源を活用した企業主導型保育事業をスタートしました。また、若年層の雇用の安定や待遇改善、不妊治療への女性なども対策が進められています。
今年2019年秋には消費税が8%から10%となり、それを財源とした幼児教育無償化が始まり、幼児教育に関しても対策が講じられるようになりました。

**1)子育て支援政策について **
国や地方自治体が提供している子育て支援は手厚く、いろいろサポートしてもらっていると実感している子育て世帯は多いと思いますが、実際はどのような法律や政策と関係しているのかまでわかっている人は少ないのではないでしょうか。

図7-2

(図7-2)現代の課題(少子化対策)

図7-3

(図7-3)現代の課題(ワークライフバランス)

図7-4

(図7-4)現代の課題(子育て支援関連)

図7-5

(図7-5)現代の課題(子育て支援概要)

多くの方針や政策が打ち出されているので、少し長くなりますが、それぞれの政策について説明します。

少子化社会対策基本法について(子育て支援)
2003年に少子化社会対策基本法が施行されました。

(厚生労働省 Webサイト引用)
同法の概要の前文にて、
「21世紀の国民生活に深刻かつ多大な影響をもたらす急速な少子化の進展という事態に直面して、家庭や子育てに夢を持ち、かつ、次代の社会を担う子どもを安心して生み育てることができる環境を整備し、子どもがひとしく心身ともに健やかに育ち、子どもを生み育てる者が真に誇りと喜びを感じることのできる社会を実現し、少子化の進展に歯止めをかけることが求められていること等から、少子化社会において講ぜられる施策の基本理念を明らかにし、少子化に的確に対処するための施策を総合的に推進する。」と記載されています。

また同法の基本施策としては8つのテーマをかかげていて、それぞれに対策を行うこととなっています。
1. 雇用環境の整備
2. 保育サービス等の充実
3. 地域社会における子育て支援体制の整備
4. 母子保健医療体制の充実
5. ゆとりある教育の推進等
6. 生活環境の整備
7. 経済的負担の軽減
8. 教育及び啓発

この法律に対して最初の「少子化社会対策大綱」は2004年に発表され、内閣府に少子化社会対策会議が設置され、具体的な施策を検討されてきています。

(内閣府 少子化社会対策大綱より)
少子化の流れを変えるための3つの視点
(1)自立への希望と力
『若者の自立が難しくなっている状況を変えていく。』
(2)不安と障壁の除去
『子育ての不安や負担を軽減し、職場優先の風土を変えていく。』
(3)子育ての新たな支え合いと連帯 ―家族のきずなと地域のきずな―
『生命を次代に伝えはぐくんでいくことや家庭を築くことの大切さの理解を深めていく。』
『子育て・親育て支援社会をつくり、地域や社会全体で変えていく。』

少子化の流れを変えるための4つの重点課題
 (1)若者の自立とたくましい子どもの育ち
 (2)仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し
 (3)生命の大切さ、家庭の役割等についての理解
 (4)子育ての新たな支え合いと連帯

2010年の「少子化社会対策大綱」は、「子ども・子育てビジョン」として発表されました。このビジョンでは、子どもと子育てを応援する社会を実現するために、家族や親に子育てについて過重な負担を強いるのではなく、社会全体で子育てをするようにして、個人の希望を実現できるようにすることを謳い、下記の3つのコンセプトを掲げました。

1. 子どもが主人公(チルドレン・ファースト)
2. 「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へ
3. 生活と仕事と子育ての調和

このビジョンに対する主要な政策は4つの柱で12の施策が提示されました。
1. 子どもの育ちを支え、若者が安心して成長できる社会へ
2. 妊娠、出産、子育ての希望が実現できる社会へ
3. 多様なネットワークで子育て力のある地域社会へ
4. 男性も女性も仕事と生活が調和する社会へ(ワークライフ・バランスの実現)

3回目は2015年に発表されていて、従来の少子化対策の枠組みを超えて、結婚の支援までを含み、5つを重点課題として設定し、長期的な視点に立ち、きめ細かい少子化対策を推進することを発表しました。

1. 子育て支援の一層の充実
2. 若い年齢での結婚・出産の希望の実現
3. 多子世帯への一層の配慮
4. 男女の働き方改革
5. 地域の実情に即した取り組みの強化

現在は、2020年に発表を予定している4回目の大綱に関する検討が始まっていて、議論が進められています。

2)働き方改革について(次世代育成支援対策推進法)
次世代育成支援対策推進法は政府の少子化対策の一環として、2003年に10年の時限立法として施行されました。国、地方自治体だけでなく、企業が、計画的に次世代成育支援対策に取り組むことが求められています。主な目的は、事業者における働き方改革です。
2004年に合計特殊出生率が1.28と過去最低を記録し、その要因は晩婚化や未婚化と考えられていましたが、結婚した夫婦における子供の数の減少も顕著になってきたことを受け、子育てと育児の両立支援が中心であった対策だけでなく、男性を含めた働き方の見直しを検討する必要があると考え、3つのポイントで政策が展開されています。

(厚生労働省 Webサイトから抜粋)
A.すべての働きながら子育てをしている人たちのために
1) 男性を含めた働き方の見直し、多様な働き方の実現
・家庭の子育てを支援するための仕組み
・働き方の選択肢を広げる
・ライフスタイルに応じた多様な働き方
・ITを活用したテレワーク環境の整備
2) 仕事と子育ての両立の推進
・育休取得率の数値目標
・子どもの看護のための休暇制度の普及
・子どもが小学校就学までの勤務時間短縮等の措置
保育サービスの充実
・待機児童ゼロ作戦
・パートタイム労働者等の増大に対応した多様な保育サービス
パートタイム労働者等のための特定保育事業(3歳未満児を対象に週2-3日、あるいは午前か午後のみの保育サービスの利用)の創設・推進
 保育ママ(保育者の自宅で少人数の保育を行う家庭的保育事業)
複数企業間の共同設置を含め、事業所内託児施設の設置の推進
 幼稚園における「預かり保育」の推進
・放課後児童クラブについて、幼稚園等の積極的な活用を含め、その充実を図るとともに、障害児の受け入れ等を推進する
・多様な教育・保育ニーズに応える観点から地域を指定し、総合的な調査研究を行い、幼稚園と保育所の連携や就学前教育と小学校の連携を推進

B.子育てしているすべての家庭のために
1) 地域の様々な子育て支援サービスの充実とネットワーク作り等を推進
2) 家庭教育への支援等の充実
3) 子育てを支援する生活環境の整備
4) 再就職の促進
5) 社会保障における「次世代」支援
6) 教育に伴う経済的負担の軽減

C.次世代を育む親となるために
1) 親になるための出会い、ふれあい
2) 子供の生きる力の育成と子育てに関する理解の促進
3) 若者の安定就労や自立した生活の促進
4) 子どもの健康と安心・安全の確保
5) 不妊治療

3)「一億総活躍社会の実現に向けた取組」について
2015年にこれまでの少子化対策における子育て支援や働き方改革、結婚・妊娠・出産に関する支援、さらには地方創生などを1つにまとめる方針が発信されました。
一億総活躍社会とは(内閣府のWebサイト)
 若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会
 一人ひとりが、個性と多様性を尊重され、家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会
 強い経済の実現に向けた取組を通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム

日本がかかる課題に対して、8つテーマが設定されています。
1. 成長と分配の好循環メカニズムの提示
2. 働き方改革
3. 子育ての環境整備
4. 介護の環境整備
5. すべの子供が希望する教育を受けられる環境の整備
6. 「希望出生率1.8」に向けたその他取組
7. 「介護離職ゼロ」に向けたその他取組
8. 「戦後最大の名目GDP600兆円」に向けた取組

4)子ども・子育て支援法について(子ども・子育て支援新制度)
子ども・子育て支援新制度とは、子ども・子育て支援法(いわゆる児童福祉法)、認定こども園法の一部改正法、児童福祉法の一部改定等関係法律の整備法という2012年に子ども・子育て関連3法が成立したことによってできた制度です。そして子ども・子育て支援新制度は2015年から始まっており、主な財源は消費税を5%から8%に増税することで確保した0.7兆円とそれ以外の追加財源を合わせた1兆円ほどが確保されています。
保護者が子育てについての第一義的な責任を有するという基本的認識の下で、幼児期の学校教育・保育、地域の子ども・子育て支援を総合的に推進することを目的としています。この実施主体は市町村などの自治体で、必要な給付および事業を計画的に実施することになりました。

「子ども・子育て支援新制度」の概要について
2015年4月に子ども・子育て支援新制度が始まり、保育所、幼稚園に関して大きく変わりました。
新制度はもともと経済対策の一環として、民主党政権下で検討がはじまりました。不況の時も、親は子育てや教育にはある一定のお金を使い、それらに関連する塾や習い事などは企業が参入し、事業として成立しています。それと同じように、保育や幼児教育に事業参入の機会を企業に提供することで、行政の負担を軽減し、新規参入により雇用創出ができて、景気を刺激できないかと検討が進められていました。しかしながら、幼稚園は文部科学省の管轄、保育所は厚生労働省の管轄であり、なかなか検討が進みませんでした。
また新しい制度を実施するための財源も確保が難しく、経済界からの反発もあり、結局消費税を5%から8%へ増税することで財源を確保することになりました。

新制度では保育や幼児教育に関する場所(建物)ではなく、提供されるサービスがだれからどのように提供されるのかに重点が置かれて考えられました。

(1)市町村主体とした保育所・幼稚園・認定こども園・小規模保育などに関する支援
(施設型給付)
保育所、幼稚園、認定こども園

※認定こども園とは保育所と幼稚園を一体化させて施設

(地域保育給付)
小規模保育事業、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業

※東京都や横浜市は保育施設に関する設置、運営基準を設け、待機児童に関する対策を実施しています。

(2)市町村主体とする地域の実情に応じた子育て支援
地域のニーズに対応した子育て支援を実施するにあたって、利用者支援と地域連携の2つの機能に分けて、その組み合わせによって、妊娠期から子育て期における様々なニーズに対して支援を行なっています。

・利用者支援事業
・地域子育て支援拠点事業
・一時預かり事業
・乳児家庭全戸訪問事業
・養育支援訪問事業
・子育て短期支援事業
・子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)

・延長保育事業
・病児保育事業
・放課後児童クラブ

・妊婦健診
・実費徴収に係る補足給付を行う事業
・多様な事業者の参入促進・能力活用事業

また子ども・子育て支援新制度では、教育・保育施設を対象に施設給付や委託費に加えて、下記の4つの保育事業を児童福祉法に位置付け、市町村の認可事業(地域型保育事業)としました。

1.小規模保育
2.家庭的保育
3.事業所内保育
4.居宅訪問型保育

地域保育給付の対象として、多様な保育事業を利用者が選択できる仕組みになりました。特に、都市部では認定こども園等の連携施設として、小規模保育等を増やすことで、待機児童の解消を図り、人口減少地域では、隣接の自治体の認定こども園等と連携し、小規模保育等の拠点によって、地域の子育て支援機能を維持することを目指しています。

新制度導入によって、保育所と幼稚園の施設数がどのように推移しているか説明します。(以前は認定こども園について、文部科学省は幼稚園型認定こども園を幼稚園とカウントしていました。また厚生労働省は保育所型認定こども園を保育所としてカウントしていましたが、今回は認定こども保育園として施設を切り出した数字で比較します)

2014年
保育所 23,516
幼稚園 11,775
認定こども園 1,359

2018年
保育所 22,904
幼稚園 9,508
認定こども園 6,160
地域型保育事業 5,814

(図7-6 保育所、幼稚園、認定こども園等の箇所数)

待機児童の問題が話題になっていますが、保育所の数も幼稚園の数も減少傾向にあります。実際は2015年までは幼稚園の数は減少傾向で、保育所の数は増えていましたが、2015年をピークに減少へ転じています。それに変わって、認定こども園と地域型保育事業の数が増加していて、規模が小さい施設が多くなっています。また、2016年からは企業主導型保育事業がスタートし、2018年3月には2,597施設まで増えています。現在の保育、幼児教育の事業主体は、公立から民間へ、大規模から小規模へと変わり、多様な保育サービスが提供されるように変わってきています。

(3)国主体とする仕事と子育ての両立支援
2016年の子ども・子育て支援法の改定により、多様な就労形態に対応する保育サービスを提供するため、国が主導する仕事・子育て両立支援事業が加わり、企業主導型保育事業を行う企業に対して、費用の一部を助成するようになりました。この企業主導型保育事業の設置場所は企業の敷地に限定されるものではなく、従業員や地域の人たちの利便性を考慮した場所で展開できることが特長となっています。その結果、駅に近いところ、オフィスビル内などに保育所が開設されるようになりました。
また、企業主導型ベビーシッター利用者支援事業が始まり、多様な働き方をする人たちを考慮し、ベビーシッターを就労のために利用した場合、利用料金の一部を助成する仕組みができました。


5)医療における産前産後ケアについて(成育基本法)
子育て世帯に対する支援施策は前述の通り、多岐にわたり対応が進んでいますが、2019年は医療分野において子どもとお母さん、そして子育て世帯に対して政策が変わるので、その基となる成育基本法について次は説明します。

日本の少子高齢化について、日本の人口動態をみると、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年にむけて高齢者人口が急速に増えます。その後は高齢者人口の増加は緩やかになります。一方、少子化は2025年以降もさらに深刻で、出生数の減少から生産年齢人口(15-64歳)の減少へとつながり、問題がより複雑になると考えられています。このような状況に対して、これまでの社会保障に関する政策は高齢化への対策が中心でしたが、これからは少子化に関する対策が本格的に始動するものと思われます。その1つが2018年12月8日に法案が可決された「成育基本法」です。(2019年12月施行)

成育基本法の理念
「次代の社会を担う成育過程にある者の個人としての尊厳が重んぜられ、その心身の健やかな成育が確保されることが重要な課題となっていること等に鑑み、成育過程にある者およびその保護者ならびに妊産婦に対し、必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策を総合的に推進しようとする」

この法律は日本医師会が中心となり、日本小児科医会と日本産婦人科医会を巻き込み、医療従事者が当事者として産前産後に関する子育てに関する課題を解決しようという思いがあり、およそ15年かけて法案を成立させた経緯があります。現在の母子保健行政の縦割りを解消し、子育てを孤立させず、子どもが心身ともに健やかに育つことが保障される社会を実現するために、妊娠期の母親の家庭支援から出産後の成長過程における切れ目のない支援が保障される社会を形成することが重要だと考え、それを実現するために法律を作りました。
私たちが子育ての課題を調査していて、子育て当事者に対する「産前産後ケア」の重要性と子育てにおける社会の「ネットワーク」の必要性の2つを認識しました。成育基本法はそれらの課題を解決する法律であると考えています。

産前産後ケアの重要性

当社で子育て世代を対象にWebアンケートを実施し、子育て中の方々にヒアリングしました。現在の子育てを取り巻く環境は、子育て世代を対象にした家事代行やベビーシッターなどの代行サービスやボランティア、子どもたちを対象とする子ども向けのイベントがたくさん企画されていて、参加できるようになっています。また、行政サービスも子どもの医療費が無償化されていて、共働き世帯にとって重要な保育園や病児保育施設なども、地域によって差はありますが、充実していると感想をもっている人が多いような気がします。しかし多くの子育てをしている人たちはどこか満たされていないという印象を持っています。それが何がと考えたとき、私たちの調査からある仮説が見えてきました。それは、妊娠、出産においてお母さんと医療の専門家の接点が弱く、あまり機能していないということが課題ではないだろうかということです。
当社のアンケート調査では、子育て中のお母さんたちは子育てに関して疑問に思ったこと、悩んでいることを、医療従事者(医師、助産師、保健師、理学療法士など)に聞いたことがあるという人は、5%程度という結果でした。
同様に、産前産後に関わる医療従事者にアンケート調査を行なった結果は、子育て中のお母さんから育児に関する相談を受けた経験がある人は50%で約半分という結果でした。

これが何を意味するかと言うと、妊娠、出産、育児と生命に関わる行動に対して、当事者であるお母さんが第1子であれば未経験のまま、何とかしようと必死で対応し、その結果悩むのは必然のように思います。だから、この領域はたくさんの経験と知識をもつ専門家の支援を受けることができれば、当事者であるお母さんの不安を軽減できる可能性が大いにあると考えています。ただし従来の医療のやり方のままでそれに対応しようとすると、ただでさえ医療現場は人手不足で大変で、さらに相談も対応してほしいとなれば、それは対応が難しいことも理解しています。だから現在のテクノロジー(情報技術、デバイスなど)や考え方(シェアリング、ドネーションなど)を活用することで、新しいアプローチで対応できると考えています。
法律的には矛盾しますが、赤ちゃんは出産した時点で生命が誕生するのではなく、受精して胎児としてお母さんのお腹の中にいるときから生命を受け、成長していくと考えたとき、少子化対策や子育て支援は産前からのケアが大事であることは自明です。また胎児から新生児、妊婦からお母さんと母子ともに、行政サービスの管轄や法律によって分断するのではなく産前産後を生命の誕生と成長を起点に考えることが自然であると感じています。

これがまさに「成育基本法」で議論されているポイントです。

母子健康手帳、通称「母子手帳」

母子手帳は妊娠がわかると行政に届出を申請することにより、発行されます。国籍や年齢にかかわらず、母子手帳は発行されます。

母子手帳に記載される事項としては、
・届出年月日
・氏名、年齢、個人番号及び職業
・居住地
・妊娠月数
・医師又は助産師の診断又は保健指導を受けたときは、その氏名
・性病及び結核に関する健康診断の有無

となっています。

図7-7

(図7-7 妊娠週数別妊娠届出について)

母子健康手帳は、省令様式と任意様式の2つがあります。
母子健康手帳を交付する地方自治体は、それぞれの自治体の事情にあわせて、必要な内容を追加して対応することができ、子どもの成長記録や外国語での対応など、さまざまな工夫がされています。母子健康手帳の交付をきっかけに、妊婦は妊婦健康診査の受診券や両親学級、出産前育児教室や妊婦訪問など主な母子保健サービスなどの産前産後のケアサービスを行政から受けることができるようになります。また妊娠出産において何か問題がある場合は行政の窓口に相談することができます。一方、行政はこの母子健康手帳を交付するときに、細心の注意を払い、出産にむけて妊婦、その家族、周辺の環境で問題がないかを確認し、リスクが高いと判断したときは早期に行政が介入し、支援することに努めています。

母子健康手帳の使い方として、妊娠、出産、育児において、医師や助産師、保健師などから健康診査や保健指導を受けたとき、母子手帳に記録されていきます。子どもが成人したときに、ワクチン接種歴や基礎疾患などを確認するためにも重要な記録となります。母子健康手帳には赤ちゃんの健康や食事などで注意すべきことが書かれているので、男性も一度目を通しておくべきでしょう。

母子手帳の歴史は、1937年に制定された母子保健法にはじまり、1942年に妊娠した者の届出を義務づけ、その者に妊産婦手帳を交付するという妊産婦手帳制度ができ、妊産婦手帳は戦時下でもそれを見せることで優先配給を受けることができたので、市民に広がりました。戦後、1947年に児童福祉法が施行され、1948年に妊産婦手帳から母子手帳へと名称が変更されました。高度経済成長の時期、1967年に、「母子健康手帳」と名称が変わり、1991年に都道府県交付から地方自治体交付に変更されました。
最近では、母子健康手帳は冊子(紙)ではなく、スマホのアプリで記録を管理することができるようになってきており、記録だけでなく、産前産後ケアをデジタルで連携できる可能性が広がってきています。たとえば、母子健康手帳アプリから医療機関の予約、予防接種のスケジュールおよびアラート、両親学級や親子教室のなどのイベントの告知、さらにはオンラインでのサポートなども可能になっていくと思われます。

なぜ親として子育て支援政策に関する満足が薄いのか?

「少子化対策」からはじまった子育て支援政策は子どもをもつ親たちが実感しづらいように思います。

子育て世代への経済的な支援として、実際、国立社会保障・人口問題研究所がまとめた資料を見ると、児童・家族に関する給付金の推移を見ても、1990年ごろ1.5兆円でしたが、2017年は8.6兆円となっており、確実に充実していると思われます。しかしながら、子育てが大変と思う親が多い本当の理由は、制度や専門家によるサポート体制などを整備するよりも、親になるための教育が足りておらず、直面する課題にストレートに支援してほしいというのが根底にあるからではないでしょうか。

図7-8

(図7-8 子育て支援に関わる社会保障費用の推移)


参考文献

(書籍)
ジャック・ギルバート、ロブ・ナイト、サンドラ・ブレイクスリー 「子どもの人生は「腸」で決まる」東洋経済新報社(2019)
中山徹 「だれのための保育制度改革 無償化・待機児童解消の真実」自治体研究社(2019)
柴田悠「子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析」勁草社(2016)
(論文)
日本総研Viewpoint No.2019-013税・社会保障改革シリーズN.41「平成を振り返る:子育て支援政策の歩みと課題」(調査部主任研究員 池本美香)
大辻香澄:「社会保障と地方自治体(「乳幼児等医療費助成制度」の是非を検討する)」事例研究「現代行政Ⅰ」(2012)
舩橋惠子:「子ども・子育て支援新制度」に見る 子育ての社会化の特徴」大原社会問題研究所雑誌No.72(2018)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?