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【宇宙の基礎講座・プレイベント】元宇宙飛行士インストラクターが語る宇宙業界で求められる人材

2023年11月10日に第3弾【宇宙の基礎講座プレイベント】を開催しました。
今回は「宇宙飛行士」をテーマに宇宙飛行士訓練インストラクターの経歴もお持ちの田口 優介氏を講師にお招きして、田口氏のこれまでのご経験や宇宙業界で求められている人材、これからの宇宙業界などについてお話しいただきました。

<プロフィール>
田口 優介 氏
Axiom Space アジア太平洋地域担当


兵庫県出身。4歳から10年間アメリカに在住。日立ソリューションズでシステム開発やオセアニア地域での国際営業、Dellで中央省庁の営業、YSI/Nanotechで水質計・流速計の技術営業に従事。有人宇宙システム(JAMSS)では宇宙飛行士・地上管制官の訓練インストラクターを担当し、JAXA出向中は金井宣茂宇宙飛行士をはじめ、JAXA宇宙飛行士の訓練支援を担当。2018年より民間宇宙ベンチャーへと身を転じ、ASTROSCALE JAPAN Inc.で営業とマーケティング、Space BD株式会社で北米・オセアニア地域の宇宙事業開発、GITAI Japan株式会社で宇宙ロボットの事業開発を経た後、2022年11月より、世界初の民間宇宙ステーションを建造しているAxiom Space, Inc.にて、アジア太平洋地域の営業を担当。

神戸大学理学部 地球惑星科学科卒業。神戸大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程修了(天文学専攻)。旧財団法人日産科学振興財団のリーダー養成プログラム、Nissan LPIEの1期生。

宇宙飛行士のインストラクターになるまで

田口氏は父親の仕事の関係で幼少期(1980~1990年)をアメリカで過ごしました。当時アメリカがスペースシャトルの全盛期(1981年から2011年にかけて135回も打ち上げた)だった為、同世代の男子に将来の夢を聞くと、ほとんどが「大統領」か「宇宙飛行士」という答えが返ってくるほど宇宙ブームだったそうです。

田口氏も「なんとなく宇宙に行ってみたい」という夢を持ったまま幼少期を過ごしました。高校生の頃にハッブル宇宙望遠鏡から映し出された宇宙の映像を見た際、その美しさに魅了され「何が映っているのかもっと知りたい!」という探究心から天文学の道へ進みました。その後、神戸大学理学部へ進学された田口氏は、大学院時代にIAC(宇宙関係の海外展示会)の派遣員として選ばれました。

※IAC(国際宇宙会議)とは
国際宇宙会議 IAC(International Astronautical Congress)は、国際宇宙連盟(IAF)が主催する世界最大の宇宙関連会議です。毎年秋季に開催され、各国・機関の宇宙開発計画、学術研究成果の発表の場として、学生や展示参加を含め、全世界から6,500名規模が参加しています。

SPACE WALKER 第73回国際宇宙会議(IAC) 日本宇宙関連企業と共同出展

当時宇宙飛行士としてNASAで訓練していた土井隆雄氏や野口聡一氏と直接お話できたことがきっかけで宇宙をより身近に感じ、宇宙飛行士になるという夢が現実的な目的に変わったそうです。

田口氏は大学院での研究職を経て、日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)に就職し、衛星画像本部のSEとして、ある特定顧客の地上局設備を開発する仕事に従事されました。
その後、宇宙業界とは離れ、パソコンのDell、及び水質計や流速計を販売している会社に転職、学生時代の友人から田口氏へ宇宙飛行士の訓練インストラクターの話が舞い込んだことがきっかけで、再び宇宙業界に携わることを決意されました。
田口氏はISS「きぼう」日本実験棟のサブシステムと呼ばれる管制系、電気系、通信系のインストラクターとして、2年半で約50名の宇宙飛行士を指導しました。
また、宇宙飛行士の訓練を管理する立場としてJAXAに出向し、大西卓哉宇宙飛行士を地上からサポートしたり、ロシアの宇宙船ソユーズにおける金井宣茂宇宙飛行士の水上サバイバル訓練などに同行されたりと、とても貴重な体験もされたようです。

その後、宇宙関連会社を数社経て、民間有人宇宙飛行サービスや民間宇宙ステーションの建設を手がけるAxiom Spaceに入社。
現在は同社のアジア太平洋地域の営業担当として、地球低軌道における経済圏の醸成をされています。
Axiom Spaceは以前から日本にかなり注目していたようで、アジアとの橋渡しを担える人材を探していたところ、田口氏へ声がかかったそうです。
田口氏のお話を聞いていると、個人の能力・技術よりもその都度出会う人とのご縁を大切にすることが巡り巡って自分の幼いころからの夢の実現に繋がっていくんだな、と感じました。

▲ Axiom Spaceが開発中の宇宙ステーション(コスモ女子撮影 ※一部編集)

またAxiomは現在、2025年に予定されている世界初の女性宇宙飛行士による月面着陸ミッション「アルテミス III(Artemis III)」用の宇宙服の開発にも携わっています。デザインや素材に関しては高級ブランドPRADAと協業することを発表し、新たな宇宙服の開発に注目が集まっています。

▲ PRADAと協業開発中の月面宇宙服(コスモ女子撮影・一部編集)

宇宙業界で求められている人材とは?

昨年JAXAが13年ぶりに宇宙飛行士の募集を始めたのがきっかけで、宇宙飛行士になるための門戸が広げられたのはつい最近の出来事です。
このニュースによって、憧れだった宇宙飛行士への夢を実現しようと挑戦された方も少なくないのではないでしょうか。
宇宙業界で多種多様な経験を積まれ、普段から宇宙飛行士と身近に接している田口氏から、宇宙業界ではどんな人材が求められるのかを教えていただきました。

▲宇宙飛行士に必要な要素(コスモ女子撮影・一部編集)

宇宙業界で求められる人材になるための3つの要素として以下をお話してくださいました。
①コミュニケーション能力
②確固たるアイデンティティ
③ダイバーシティ(多様性)
それぞれを具体的に見ていきます。

①コミュニケーション能力

まずコミュニケーション能力についてですが、必須なのが英語
宇宙飛行士には様々な国籍の方がいますが、宇宙空間において円滑にコミュニケーションを取るためには世界共通語である英語(ISSの場合、ロシア語も共通語)が必須となります。
次に必要になるのが、傾聴だそうです。
コミュニケーションは情報発信のことだと思われていることが多いようですが、発信した情報を受け取る相手がいないと、壁に向かって喋っているのと同じ状況になってしまいます。
その為、コミュニケーションを成り立たせる為には、聞くことも必須になります。
そしてその聞くことに対し、日本語には素晴らしい言葉があり、それが「傾聴」です。
身を乗り出して、相手に寄り添って聞く。それくらいやると、情報発信している相手も気持ち良くお話しできますよね。
最後に、前提条件の違いです。
例えば「赤色」を連想した時に何を想像するかは人それぞれです。
この前提条件の違いを意識するだけで、「自分はこう思う」が通じなかった際になぜ通じないのか、どうすれば話が通じるのかがわかってくるそうです。

②確固たるアイデンティティ

これだけは誰にも負けない、これが大好き、という強いアイデンティティも大切な要素の1つ。特に宇宙飛行士になるために有利なアイデンティティは医者とパイロットだそうです。
万が一ケガをしたり病気になった場合、専門家がいないのはとても心細い為、チームに医者がいることは必要です。

また、パイロット達は訓練の一環で状況認識 (Situational Awareness) という能力が身に付きます。これは宇宙飛行士に限らず、特に緊急事態では必須の能力ですので、それを常に実践しているパイロットは重宝されます。

また、自分自身が日本人という意識を持っているかどうかも大切。
アメリカと日本間だけでも文化や考え方は全く違いますから、チームで行動する際に日本人がどんな人種なのか、何を大切にしているのか、更には自分という人物がどんな人間なのかが明確であると、お互いにコミュニケーションが取りやすいですよね。
更には宇宙に出ると地球外生命体に出会う可能性もあるため、地球人として地球がどんな星なのかを伝えられるようになることも大切だとのお話に確かにそうだなと感じました。

▲ ダイバーシティとは(コスモ女子撮影・一部編集)

③ダイバーシティ(多様性)

ダイバーシティというのは、「違うのは当たり前ということを認識できているかどうか」と田口氏はおっしゃっていました。
特に日本人は輪を乱さないことや、みんなと一緒がいい、という考え方が根強い国です。
この考え方は全体をまとめやすくする反面、違う考え方や新しい発想が生まれにくくする原因となり、変化が激しい今の世の中では、組織が衰退していく危険性があるそうです。
組織を健全に成長させていくためには、どのような違いも受け入れられる体制が必要となります。
そして何にでも興味を持ち、様々な経験を積むことがとても大切だそうです。
未知の世界が広がっている宇宙では、恐れずその世界へ飛び込む行動力やチャレンジ精神が求められますね。

▲ ダイバーシティとは(コスモ女子撮影・一部編集)

広がり続ける宇宙業界の人材需要

田口より今後の宇宙業界の展望についてもお話しいただきました。
田口氏が在籍するAxiom Spaceでは様々な民間ミッションが行われており、先日初のサウジアラビアの女性が宇宙飛行を実現されたそうです。
今後は女性のみで宇宙へ行くミッションも計画されているようで、宇宙業界の多様化が進んでいるのが感じられました。

また、今まで狭き門だった宇宙業界への就職も、業界が発展すればするほど様々な職種や職業が必要になるため、理系だけでなく営業職やサービス関係の職種の募集も必ず出てくるとのことでした。
例えば人々が月に移住するようになれば、宿泊施設ができます。
宿泊施設でお客様をおもてなしするコンシェルジュや施設を管理・整備するための技術職、宇宙旅行を宣伝する広報の仕事などもできるはずです。
とても夢がありますよね。
また芸術家やアーティストなどが宇宙に行くことで、新たな作品や楽曲が生まれることにも期待できます。

さいごに

今回は田口氏より、普段なかなか聞けない宇宙飛行士についてのお話を沢山聞かせていただくことができました。
夢を実現させるために一番大切なものは情熱、と仰っていた田口氏のお言葉を胸に、私たちコスモ女子もさらに宇宙業界を盛り上げていくために活動していきます。

▲ 記念撮影の様子(コスモ女子撮影・編集)

【宇宙の基礎講座について】
2023年12月より宇宙の基礎講座を開催中です。
今後の開催日とテーマ、申し込みについてはこちら。

1月19日(金):日本の宇宙ビジネス (peatix掲載あり)
2月16日(金):宇宙旅行 (coming soon)
3月13日(水):人工衛星 (coming soon)
4月19日(金):宇宙エンタメ (coming soon)
5月17日(金):ロケット (coming soon)

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◆コスモ女子とは?

「宇宙業界へのキャリアを身近にすること」をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティ」です。
勉強会やイベントを毎月開催。
星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。
\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げPJを発足中!(2024年度中打ち上げ予定)

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