白杖使用者の冒険―もうちょっと聞いてもいいかな
都バスにて。ありがたかったことなのですが…あとほんのちょっとしたもう一歩が、という出来事。
バスに乗ったとき、運転手さんに私は良く、「空いた席がありますか」と聞くようになりました。
すると、多くの運転手さんは今まで、「ああ、真っ直ぐ行って右側の優先席、その2番目の席が空いていますよ。…はい、あ、もうちょっとです。はい、そこ、そこが空いています」
などと、良く、「何番目の席」と言ってくれた上、私がそろそろ白杖で探りながら進んでいくと恐らくバックミラーで見ていてくれているのか、「そこっ」と声をかけてくれていました。
この日も、運転手さんに同じように聞くと、
「ああはい、空いてますよー、右側の優先席も空いてますし…」と言ってくれたので、そして、後ろから乗ってくる人たちの気配もあったので私もあとは自分で探るか、もしかしたらまた後ろから声かけてくださるかもしれないし、と思い、白杖でそろそろと右側に寄っていきますと、どうやら横掛けの優先席だったようで、そしてどうやら誰かの足に白杖があたってしまった気配!
おっと、優先席の一番端の席には人が座っていたか!
ごめんなさい、と謝りましたが返答はなく静かだったので、あたった感じ恐らく女性のかただと思いますが、どんなかただかはわかりませんでした。
とにかくそのまま白杖でその先を探ろうとそろそろと動かし出すと、後ろから、つまり私の後から乗ってきたかたが私の両肩に後ろからそっと手を添えてくださり、次の優先席まで案内して「ここ、ここ」と教えてくれて無事に座らせていただきました。
バスの運転手さんも、たくさん並んで入ってくると、多分カードを翳したりお金を入れたりするひとたちに集中せねばならない(そうでなくとも結構「残高不足です」とか、払わず中にさささっと入って行って運転手さんが目ざとく見つけて「お客さん、運賃お願いします」というような場面が案外あるのだということを、バスを使うようになってから知りました)。なかなか座席のほうまで見ている余裕もありませんよね。
だからといって、空き席があるところまで教えてくれたのに、「どこの席ですか」と更に聞き返して会話を長引かせるのも、後ろの人も待たせてしまうし運転手さんも大変。
私も、バスの座席のほうへ白杖で探り探り行きながらも、「どなたかどこが空いているのか教えていただけませんか」など声を発するなり、寧ろ後ろの人に自分から「一緒に行って空き席教えてもらえませんか」と頼んでみてしまうなり、してみようかなと思いました。
もしくはバスの運転手さんにもう少し簡潔に聞く方法を、とも思いますが、バスの運転手さんも慣れておられるかたもあれば、あ、どう説明しよう、と焦ってしまうかたもおられますものね。
そして、後ろから手伝ってくださったおじさま、ありがとう。
そして…これは、決して嫌みのつもりではないのですが、嫌みに聞こえたらごめんなさい。
白杖がどなたかにあたってしまったとき、すみません、ごめんなさい、などと声をなるべくはっきり出すのですが、そそくさと気配が消えてしまったり、今回のようにしーんとしたまま何の反応のない場合が多くあります。
そのため、念のため、私は手話でもごめんなさいの表現がすぐ出るようにしておこうかな…と。
片手でできるから、白杖を持っていても何とかできますしね。
というのも、これは本当に嫌みのつもりではなく、マスクが当たり前の社会でとっさに声が相手に届いていなかったり(白杖が当たったのに何も言われなかったと感じてしまったら、やはり気持ちが良くないですよね。)、お年寄りや聴覚障害系統のコミュニケーション困難を抱えておられるかたの可能性も、じゅうぶんにあるわけなのです。私が白杖を使っているのと、そんな私とバスの中でいつ乗り合わせるかわからない頻度・確率と同じように。常に私のほうだけが社会的弱者とは限りません。
それに、ジェスチャーもあれば、例え手話や言語的に日本語がわからないなどの場合であっても、何となく気持ちとして、何かアプローチがあった、ということは伝わってくれる。
また、同時に街中で良く感じることとして、白杖が当たってしまうなどして「ごめんなさい」と言ったとき、突然さっと気配を消してしずーーかにその場を去って行かれたり避けたりするかたがおられます。わざとかというほど突然静かになって気配が消えるのです。
例えばエレベーターのボタン前や、バス停でバスを待つとき、横断歩道の点字ブロックの前端に行こうとしたとき(つまり横断歩道の角度と始まりを白杖で確かめるという大事な作業をしようとしたとき)、電車を待つときなど、白杖でぶつかってしまうと、私はそれ以上先に進んでいいのか、それともそのまま後ろに並んでいる必要があるのか、わかりません。
それを静かに避けられてしまうと、あなたがもうどけてくださって私がそこを通れる状態なのに、中途半端なところで方向を見失う危惧を感じながら不安を感じながら私はそこで立ち止まったままになってしまいます。
あなたがせっかく私の安全を確保しようとしてくれたのに、私はそれに気付かないというもったいない事態が起きてしまうのです。
他によくあるのは、電車に乗り込んですぐ、扉脇の手すりに行こうとしたら人がいたとき。白杖にぶつかられてから気付いて、さっとどけてくださる場合があるようなのですが、静かにこっそりその場を去られても、私は白杖が当たってしまった時点でそこには人がいると判断しているので、せっかくどけてくださってももうその手すりには手を伸ばすことができず、電車の真ん中のほうやらによけてしまい、結果的に扉脇の手すりに誰も捕まることができない…という事態になってしまいます。
白杖使用者の多くは視覚に問題を抱えています。例えそうでなくとも、聴覚障害や平衡機能障害など、街中の移動時に周囲に気付くことが難しいひとが多いです。特に視覚障害者は、「静かに」動かれてしまうと、気付くことができません。
白杖使用者を見かけたり白杖が近づくと、それまで2人か3人でおしゃべりしながら歩いていたような人たちでも突然ぱっと静かになって(避けてくれるのか)、消えてしまう場合がものすごく多いのです。
視覚障害者を見かけたら、ぜひ、寧ろ少し音を立てて存在を知らせてください。そうしたら私も突っ込んでしまう前に止まるなり避けるなりする努力ができますし、避けていただいたときにその音で気付くことができたら、あなたに感謝を伝えることができます。
皆さま、いつも本当にありがとう。
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