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視野を奪う集団

近年、「多様性」という言葉をよく聞くようになりました。

人種、性別、年齢などの違いを受け入れて今までとは違う考え方、見かたを取り入れていこうとする動きがあります。
多様性豊かな環境が社会をより良くすると考えられています。

確かにさまざまな意見に触れることで視野が広がっていくようにも感じます。
今までになかったアイデアが生まれることもあるようです。

しかし、残念ながらこういった状況が逆に人の考え方を縛り付けてしまうこともあります。

今回は、多様性がもたらす矛盾した現象について話をしていきます。


【結局、知っている人と集まる】

現代社会の特徴的な問題の一つにエコーチェンバー現象と呼ばれるものがあります。
これは同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返すことで、特定の信念が強化される現象を言います。

多様性が進む中でこの問題が出てくることがあるようです。

でも、「そうならないためにいろんな人たちと交流し多様性というものを進めているのではないのか」と考えたりもしますよね。
偏った意見にならないように、背景の違う人たちと一緒に働いたりするわけです。

ただ、ここに落とし穴があります。

たとえいろんな人達が集まったとしても、私たちは知っている人と固まる傾向があります。
集まる人間が多くなればなるほどその傾向は強くなります。


コロンビア・ビジネス・スクールのポール・イングラム教授が行った実験で、100人のビジネスマンを対象に人がどのように交流するのか調査したものがあります。

参加者のビジネスマンは平均して3分の1の人と顔見知りで、その他の人とは面識がありませんでした。

これはビジネスマンにとって人脈を広げるチャンスです。
実際、事前アンケートでも「ネットワークを広げるために今回の交流イベントに参加した」と答える被験者は多かったそうです。

因みに、会話の内容は記録できませんでしたが、全員が電子タグを付け、誰がどれだけ話をしたか追跡できるようになっていました。


さて、ビジネスマンともなれば積極的に人脈を広げに行きそうですがどうなのか?


調査の結果、被験者たちは人脈をあまり広げることができずにいました。
実験ではすでに面識のある数少ない人たちとばかり話をする傾向があったようです。

結局「いろんな人が入り混じっている状況でも知っている者同士、同じ思想を持つ者同士が集まっている集団が、ポツポツと点在する場になっているのではないか」と研究者たちは考えています。

つまり、いろんな人たちが集まっても結局は知っている者同士で小さな集団を作ります。
この小さな集団が違う集団とお互いに情報交換など積極的にすればいいのですが、なかなかそうはいかないようです。
その結果、この小さな集団内だけで情報が共有されていきます。

たとえば私たちが何か情報を得ようとした場合、家族、学校の先生、職場の人、友達、フォロワーといった人たちの意見に触れます。

しかしSNSから情報を得ようとすれば、フォロワーや友人がシェアする情報をだいたい目にすることになりますよね。

そうすると自分と考え方が合う人や、自分の意見を裏付ける情報に触れる機会が多くなっていきます。
「コイツ嫌だな」「めんどくさいな」と思う人をブロックはしてもフォローはしないはずです。

それにSNSのアルゴリズムも自身の関心のあるものをピックアップしますから、好きな情報やすでに信じている情報ばかり目にすることになります。

研究者たちは、インターネットの繋がりの強さが逆にこうした選り好みをもたらしたと考えています。



【エコーチェンバー現象と意見の対立】

私たちは無意識の内に自分の気に入っている情報を集めていると言いましたが、反対意見に触れるとどうなるのか?

悲しいかな、どんなに証拠を並べたとしても自分の意見を変えることはありません。
しかもそれまで以上に自分の意見に固執するようになります。

ある科学者たちが行なった実験で、アメリカの大学から「死刑を強く支持する学生」と「死刑に強く反対する学生」計48人を選んで、全員に二つの研究結果を見せます。

一つは極刑の有効性に関する証拠、もう一つは効果のなさに関する証拠を示したものです。
(この資料は科学者がでっちあげたものでしたが、その事は伏せられていました。)

学生たちは自身の考えとは違う証拠を見せられたとき、どう反応するのか?


実験の結果、その研究結果がもとの自分の考えを強化する場合に限ってデータを信じました。
つまり、自分にとって都合のいいデータだけを信じたわけです。

死刑を強く支持していた学生は極刑の有効性が立証された資料をよくできた実証研究と評価しています。
しかし、もう一方を説得力のない研究だと主張しました。

そしてもともと死刑に反対していた学生は、全く逆の反応を示しています。

さらに最終的には両者とも、より自身の考えに固執するようになりました。
結局、相手の意見に触れることで両極化が進んだわけです。

このような現象はSNS上でも見られます。
このnoteも例外ではないのかもしれません。

エコーチェンバー現象の怖いところは、情報が特に制限されているわけでもないのに反対意見に触れる度に反発し、集団の「内側」だけで交流を深めその信念を強くしていく事にあります。


【エコーチェンバー現象の害】

自らの信念を強め、エコーチェンバーの内側の人たちの結束を強めていくとどうなるのか?

哲学者C・チ・グエンによれば、反対派の意見を攻撃し、ときには反対派自身にも攻撃を加え、相手の信憑性を貶め、自分達を正当化するようになります。
反対派の意見は新しい情報ではなくフェイクニュースでしかないと考え、見た瞬間にはねつけます。
パレオダイエットが流行したときや母乳育児に関しても同様のことが起こったそうです。

でも、私たちが所属している団体、SNSでのフォロワー同士の繋がりのなかでどうやってこのエコーチェンバー現象を発見できるのかわかりませんよね。

しかしグエンによれば集団の健全度をチェックする簡単な方法があるそうです。
それは「信条に沿わない部外者に対し、その人の信頼度を貶める行為を積極的に行っているか?」と考えてみることだと言います。

もしそうであれば、その集団はほぼ間違いなくエコーチェンバー現象起こっていると考えていいようです。

意見の対立がいつの間にか個人を攻撃し始めているとき、この現象に陥っているのかもしれません。


上の記事でも書きましたが、そこに何かしらの悪意があるとき、もうすでに大きな意識に飲み込まれているのかもしれませんね。


今回はここまで

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最後までお読みいただきありがとうございます。

それではまた次回お会いしましょう。

※この記事は読んだ本をもとに考察し、私の経験したことなども踏まえて書いています。
そのため、参考にした本とは結論が異なる場合があります。
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▼引用元書籍


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