踏切に殴られる
連日、35度を超える暑さが続いている。
コンビニから外に出た瞬間、
むわっとする空気に体当たりをされ、思わずしかめっ面になる。
わたしのフィジカルはそんなに強くない。
その帰り道、駅近くの踏切につかまってしまった。
日光を避ける場所などない。
ジリジリと皮膚を焦がすような感覚が腕や首の後ろから襲ってくる。
「あつい」
と隣にいた老婆から聞こえてきた。
「そうですね」と心の中で返事をする。
停車していた電車がゆっくりと走り出す。
遮断機の矢印も消えた。
もうすぐ開くだろう。
老婆は持っていたショッピングカートをグイグイと遮断機の棒に押し付け、開くのを待っている。
前のめりになり今にも飛び出しそうなその姿はまるでレーサーのようだ。
「踏切が開いた瞬間、一番最初に動いてやる!」という強い意志を感じる。
今もF1のスタート時のような気迫で踏切を睨んでいる。
アクセルをブンブンとふかし、グリッドでシグナルが変わる瞬間を待っているのかもしれない。
老婆がいる場所はまさにポールポジションだ。
良いスタートを決め、誰よりも速く最初のコーナーに入ることを考えているのだろうか。
「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く?」というフレーズを思い出しながら、これだけ暑ければしかたがないと感じる。
もうすぐ向こう側へ渡れそうだ。
手に持っていたビニール袋を握り直す。
ざわざわと人が動き出しそうな気配を感じる。
周りの空気が変わる瞬間だ。
ただ、
この時はいつもより棒が上がる時間がひどく長く感じた。
「ん?」
と思ったのもつかの間、反対側の矢印が点灯した。
「カンカンカンカン」という音が響きわたる。
横を見る。
「往復ビンタもいいところや!」と老婆は毒づいていた。
なんだマシントラブルか?
どうやら殴打されるほどのダメージを負ったらしい。
「メディーック!!」
と心の中で叫ぶ。
ただ「その表現は面白いな」と思いながら
ああ、こんな暑いところで待たされればそんな気持ちにもなるか。
そんなことを考えながら
踏切が開いた瞬間、
お婆さんより早く歩き出した。
こしあん
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