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タレントスカウトとしてのスタン・ゲッツ(1)〜Talkin' about Stan Getz #1〜

仕事の関係でここのところスタン・ゲッツ(1927〜1991)を集中的に聴いています。「クール・ジャズとボサノヴァの人」というパブリック・イメージが強いゲッツですが、1944年から亡くなった91年までの長いキャリアを俯瞰してみると、さまざまなタイプの音楽に積極的にチャレンジする「進取の人」でもあったのだ、ということがよくわかります。

このシリーズでは、若い世代のミュージシャンをサイドメンとして積極的に起用し、彼らを鍛えつつ自己の音楽の幅を確実に拡げていった「タレントスカウト」としてのスタン・ゲッツについて書いてみることにします。第一回はスコット・ラファロとスティーヴ・キューンです。

1.スコット・ラファロ(1936-1961)とスティーヴ・キューン(b.1938)

天才ベーシスト、スコット・ラファロとゲッツは、1957年12月に初めて共演しました。サンフランシスコのジャズクラブ「ブラックホーク」にゲッツが出演したとき、当時21歳だったラファロがサイドマンを努めたのです。58年2月、ヴァイブ奏者のカル・ジェイダーのアルバムにゲストとして呼ばれたゲッツは、2人の若いミュージシャンを連れてレコーディングに臨みました。一人はラファロ、もう一人はドラマーのビリー・ヒギンズです。やはり21歳のヒギンズは、オーネット・コールマンとの活動の傍ら、さまざまなタイプのジャズをこなせる新人として、アメリカ西海岸で注目を浴び始めたところでした。

Stan Getz With Cal Tjader (rec.Feb.8,1958)

このアルバムでラファロはブルースの「Crow's Nest」でソロを取っていますが、全体としては堅実なリズム隊の役割に徹しています。

ゲッツはラファロを気に入りましたが、58年5月から61年1月半ばまでヨーロッパ(夫人の故郷であるスウェーデンとデンマーク)で活動していたため、ラファロを正式にバンドのメンバーに加えたのは61年2月。ゲッツがヨーロッパに滞在している間に、ラファロはビル・エヴァンス・トリオのベーシストとして革新的な仕事を達成し、オーネット・コールマンのバンドでも活躍するなど、ジャズの新しい流れの中心的な一人に成長していました。

Portrait In Jazz/Bill Evans Trio

Free Jazz/Ornette Coleman

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マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンの「モード・ジャズ」、オーネットの「フリー・ジャズ」、そしてコルトレーンが複雑なコード進行を完璧に吹ききった『ジャイアント・ステップス』などを聴いて、ゲッツは深刻な衝撃を受けたようです。60年にコルトレーンを含むマイルスのバンドがヨーロッパにやってきて、ゲッツと共演したことが直接のきっかけでした。帰国後のカルテットにラファロを誘ったゲッツは、ピアニストにコルトレーンのバンドに短期間在籍したスティーヴ・キューンを起用して、ジャズの新しい潮流を採り入れようとします。

Kind of Blue/Miles Davis


Giant Steps/John Coltrane

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John Coltrane & Stan Getz - Autumn Leaves/What's New/Moonlight in Vermont (Live 1960)


しかし、ラファロに残された時間はごくわずかでした。61年6月25日日曜日、ラファロはビル・エヴァンス・トリオで「ヴィレッジ・ヴァンガード」に出演し、その記録は『サンデイ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』『ワルツ・フォー・デビー』として現在でも広く愛されています。

Sunday at the Village Vanguard /Bill Evans Trio

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Waltz For Debby /Bill Evans Trio


その8日後の7月3日、ラファロを含むゲッツのカルテットは「ニューポート/ニューヨーク・ジャズ・ファスティヴァル」に出演し、見事な演奏を聴かせました。ラファロが自身の運転する自動車事故で亡くなったのは7月6日のこと。25歳という若さでした。ニューポートでのゲッツ・カルテットでのプレイが、ラファロ生前最後の演奏になってしまったのです。

Stan Getz Quartet at the Newport Jazz Festival - Baubles, Bangles and Beads (July 3,1961)

Stan Getz Quartet at the Newport Jazz Festival - Airegin(July 3,1961)


ラファロの死後、ゲッツはベーシストにジョン・ニーヴスを入れてカルテットでの活動を続けました。ピアノはキューン、ドラムスはゲッツと同世代の名手ロイ・ヘインズです。

61年7月、ゲッツはエディ・ソーター作編曲によるオーケストラとの共演作『フォーカス』を録音します。この作品にもカルテットのメンバーが参加していますが、主役はゲッツのサックスとソーターの素晴らしい楽曲、そしてストリングスです。

Focus / Stan Getz, Eddie Sauter

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そして9月、ゲッツはレギュラー・カルテットに、ヴァルヴ・トロンボーンのボブ・ブルックマイヤーを加えた編成でスタジオに入ります。旧友ブルックマイヤーとのコラボレーションは大成功で、キューン、ニーヴス、ヘインズも充実した仕事をしています。

Getz-Brookmeyer 61 / Stan Getz, Bob Brookmeyer


これは2019年にリリースされた1961年11月26日、ニューヨーク「ヴィレッジ・ゲイト」でのライヴ盤。メンバーはゲッツ、キューン、ニーヴス、ヘインズです。

Getz at the Gate / Stan Getz Quartet

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1938年にニューヨークのブルックリンに生まれたスティーヴ・キューンは、5歳のときからクラシック・ピアノを著名な教師であるマーガレット・チャロフに習いました。ちなみにマーガレットの息子はバリトン・サックス奏者のサージ・チャロフ。奇しくもサージは、ウディ・ハーマン楽団でゲッツの同僚でした。

マーガレットから「ロシアン・スタイル」と呼ばれる美しいピアノの響かせ方を学んだキューンの演奏は、しばしば「耽美派」と呼ばれます。ここでは1966年に、編曲家のゲイリー・マクファーランドと組んだ『オクトーバー・スイート』と、74年の『トランス』を紹介します。

The October Suite / Steve Kuhn,Gary McFarland

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Trance / Steve Kuhn


この映像は2013年に、キューンがラファロ、ゲッツ、コルトレーンなどの思い出を語ったインタヴューです・


さて、61年12月、ゲッツはギタリストのチャーリー・バードに「ボサノヴァ」というブラジルの新しい音楽を教えられてその魅力にとりつかれました。62年から63年にかけて、ゲッツはボサノヴァ作品を集中的に録音し、それが大ヒットして彼の人生は大きく変わったのですが、「ボサノヴァとゲッツ」については、他の機会にまとめて述べるつもりです。

「タレントスカウトとしてのスタン・ゲッツ」、次回はゲイリー・バートン(ヴァイブ)を取り上げます。

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