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「地中海世界」(フェルナン・ブローデル編)−歴史−

今回で3回目の「文化の読書会」。引き続きこちらの本を読み進めています。今回は「歴史」について。

【「歴史」の要約】
歴史は知識の集積。厚い地中海世界の歴史は世界の安定性の本質を考える上でも有益。
地中海世界には3つの文化的共同体が存在する。
①西ヨーロッパ(キリスト教圏)
 キリストの生誕が原点。
 大西洋・北海、ライン河・ダニューブ河、プロテスタント世界など
②イスラム圏
 622年マホメットのメッカ→メジナ逃避行が原点。
 アラビア世界の一連の文化・経済、科学など大きな遺産を継承している。
 モロッコ〜インド洋〜東南アジア。反西ヨーロッパ。
③ギリシャ世界(正教会圏)
 紀元前8世紀頃が原点。
 バルカン半島全域、ルーマニア、ブルガリア、旧ユーゴスラビアの大部分、ロシア。

文明が持つ空間や時代の中における不動性が、文明の本質の一部となっている。底流で流れている歴史の地下水脈は時に再湧する。
ローマはキリスト教圏の各王朝や分裂時の境界など多大に影響している。イスラム圏でも近東の文化・習俗・歴史と結びついている。
キリスト教圏が①と③の2つになったのも、ローマが成功した地域or屈服はしたが同化されなかった地域という歴史に影響されている。例えば「真理」という宗教キーワードがラテン語では理性にとって確実なことや現実を意味するのに対し、ギリシャ語・古代教会スラヴ語では恒常不変・永遠、理性で把握できる範囲外に存在するものを意味した。

文明とは長期間にわたる現実であり、地理的空間に根を張っている。侵入者に屈服したのは十分に構造化されていなかった文明だった。
従って文明の軋轢を考慮することが歴史を考える上でのヒントになる。ローマ対カルタゴは本質的に農耕民族対海の商人だった。
早くから確立した文明同士は衝突の中に存在理由を見出している。文明は戦争であり憎悪であり、他者への誤解・軽蔑・嫌悪である。また、文化財の犠牲、普及伝播・蓄積・知的遺産でもある。

しかし文明だけでは歴史は語れない。政治や制度、経済も重要である。文明も社会も国家も経済的開発によって成り立つ。そして経済は運送用の水面=海がもたらした。そのため諸貿易中心の都市は地中海を争った。だが15世紀以降は世界の中心が地中海から大西洋に移動し、大きく状況は変わった。艤装や運搬に優れた船と技術を持つ北欧人(イギリス人・オランダ人)が地中海を制し、地中海の富を奪った。そして今なおイギリスはジブラルタルに居座っている。

【わかったこと】
三つ子の魂百まで、ではないがその地域・風土の中で適した形で育まれ、定着している文明、そして人の思考・習慣などは「不動」であり、いくら力で抑え込んでも底流に存在し続ける。表面的に見えている現象などを見ていくのではなく、その底流に流れているものを捉えていくことが人や国を捉えていく上で肝要だ。国際関係や交流を進めていく上でも表面的な違いや共通性を見るだけではなく、その底流のものを捉えていかねばならない。そのためにも自分の底流を客観的に知ることが大事だろう。歴史を紐解く意味はそこにある。

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