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「エドノミー®」の3つの原則(仮)

1970年にオムロン創業者の立石一真氏が国際未来学会で発表した「SINIC理論」、そして1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」でも示されたように、それから50年経った今、不幸なことに予測通りに推移している。SINIC理論が示すような良い形で自然社会を迎えていくためにも、国際社会が議論を重ね続けてようやくMDGs、そしてその発展型で2030年に達成すべき目標ということでSDGsが形になった。

欧州が引っ張る形でこのSDGsを達成しようということで、「サーキュラーエコノミー」の概念が打ち出され、その原則もわかりやすく示されている

1.DESIGN OUT WASTE AND POLLUTION

   廃棄物や汚染を生み出さない設計(デザイン)を行う
2.KEEP PRODUCTS AND MATERIALS IN USE

   製品や原材料を使い続ける
3.REGENERATE NATURAL SYSTEMS

   自然のシステムを再生する

さらにアクセンチュアは、サーキュラーエコノミーについて、このように述べている。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、従来の資源を、調達、製造、利用、廃棄というリニア(直線)型経済システムの中で再活用を前提とせず「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みのこと。
サーキュラーエコノミーへの転換は、世界経済の中で産業革命以来250年間続いてきた「生産と消費」の在り方において、史上最大の革命となる可能性がある。

その上で、サーキュラーエコノミーを実現するための5つのビジネスモデルも発表している。

モデル1. サーキュラー型サプライチェーン
モデル2. シェアリングプラットフォーム
モデル3. PaaS(サービスとしての製品)
モデル4. 製品寿命の延長
モデル5. 回収とリサイクル

ここまで示してきて、少し違和感を持つ。「このままだと地球がえらいこっちゃになるので、なんとかせねば!」というものが「サーキュラーエコノミーへの転換を進めることで、社会課題解決と自社のビジネスを連動させ、持続的な経済成長は享受しよう」という内容に変わっている。つまり根本的に経済成長を前提とした社会の仕組み自体は大きく変えずに新たなビジネスチャンスと捉えていきましょう、ということだ。
確かに既存の企業や社会の仕組みを前提とすると、この方法が妥当なのかもしれない。資本主義の仕組みが大きく変容することもしばらくは無いだろうから、既存の仕組みを前提とせざるを得ない部分は確かにある。

一方で、異なる思いが胸の中でもやもやと広がる。「このモデルやルールに従って利益を追及しつづけることに躍起になっていくことで、果たして人は幸せになれるのだろうか?」と。つまり、企業の利益追求が前提であり、人があくまで資源的な扱い(経営用語で人のことは「人材」(Human Resources)と呼ぶことにも表れている)になっていて、人が幸せに暮らすことが抜けている。

物質資源が限られた中で人がそこそこ幸せに生きる方法はないのだろうか。つまり言い換えると、「自然の恵みの範囲内の中で慎ましく生きながらも、人が心の豊かさを享受できないのだろうか」という問いになる。これを考えていたときに、総務省のこの人口推移のグラフを見つけた。

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見てわかるように戦国時代が終わって日本が鎖国=国内での資源循環のみで社会を構築した江戸時代に、人口は約3300万人で天井を打っている。これは当時の日本国内(北海道を除く)で年間で供給可能な自然の恵みで暮らせる人口を実証実験した結果とも言える。(2019年のデータでは、現在の日本人が必要としているのは日本列島7.7個分なので、人口が3分の1になる22世紀でも今と同じような浪費型の暮らしをしていては全く足りない)
そして現代にも受け継がれ、今も人々の心を豊かにしている日本各地の文化の多くは、この資源が制約されている環境下の江戸時代の社会で成熟されてきた。この時代の日本社会は決して原始的な社会ではなく、世界最初の先物取引市場も生むような高度な近代文明社会だったことを忘れてはいけない。

そこで地球の自然の恵みの範囲内で、人々の心を豊かにしながら高度な文明社会を構築した叡智を江戸時代の日本社会に学び、現代に活かしていけるのではと考えた概念が江戸時代の経済(エコノミー)の仕組み=「エドノミー®」である。

まだまだ言葉の洗練度合いも不十分な状態であるが、現時点で考える「エドノミー®3つの原則(仮)」を考えてみた。

1.地域の自然の恵みの範囲内で循環する仕組みを無理せず回す
2.人と人が交流・共創することを自然に促し、心を豊かにする
3.先祖や子孫が誇りに思うような美しい景観・文化を未来に残す

1.地域の自然の恵みの範囲内で循環する仕組みを無理せず回す
交易によって経済が発展すること、交流によって文化が発達していくことはとても大事なことである。その前提として地域の自然の恵みの範囲で循環する社会を構築する。地域の範囲についても、完全とは言えないが江戸時代の藩の範囲が参考になるだろう。一定の規模の人々の集積と活発な交流によるダイナミズムを生む都市と、物資・食料を生産し、人に心のバランスをもたらす農村のセットで考えるのがポイントだ。このあたりのヒントはイタリアのテリトーリオにある。
※同様に世界の他地域においても歴史を踏まえながら、この範囲を設定していくことができるのではないだろうか。
重要なのが、「無理せず」だ。いわゆる「意識高い系」にならないと維持できないようでは破綻する。江戸時代の循環型社会では、誰一人「循環型社会を構築せねば!」と意識高く取り組んでいなかっただろう。つまり資源を無駄なく使い切ることを誰もが当たり前のように実践し、それを前提に仕事も含めた社会の仕組みが構築されていたのである。社会の誰もが当たり前の日常で実践できてこそ仕組みとして成立する。

2.人と人が交流・共創することを自然に促し、心を豊かにする
人が幸福感を感じる条件については、様々な議論がなされている。京都大学の内田 由紀子教授はこう述べている。

周囲との信頼感を強く感じている人が多い地域ほど、幸福感を感じている人が多く、個人が幸福感を感じている状態では、何らかの形でその地域のためになるような行動(向社会行動)が増加傾向に。そして、改めてそこに住んでいて幸せだと感じる。このように、「幸福感」「信頼感」「向社会行動」の3つは循環している。

では信頼関係はどうやったら生まれるのか。人類学者の山極 壽一氏は「チームワークを強める、つまり共感を向ける相手をつくるには、視覚や聴覚ではなく、嗅覚や味覚、触覚をつかって信頼をかたちづくる必要がある」「共感力をつかって信頼関係をつくるには、時間をかけないといけない」と述べており、これはつまり何らかのタスクを力を合わせて乗り越えるといった身体的な協働・共創経験を積み重ねることから信頼関係が生まれると言えるだろう。地域の中で人々がそういった経験を積む場として、祭りや清掃活動などがあるだろう。ただし、これが「強制的」であってはむしろ逆効果で、前向きに、少なくとも自然に、当たり前にこれらの場に参加することを通じて協働・共創経験を時間をかけて積み重ねることで、信頼関係が生まれていき、人の幸福感や地域社会の改善へとつながっていく。

ということで詰まるところ、「修身教授録」でも知られる森信三氏の言葉に集約されているなぁと感じ入る。

幸福とは、
縁ある人々との人間関係を噛みしめて、
それを深く味わうところに生ずる
感謝の念に他なるまい

3.先祖や子孫が誇りに思うような美しい景観・文化を未来に残す
神道には「中今」という概念がある。永遠に流れている時間軸の中において、過去と未来も一体となった中間の「今」を精一杯生き抜くということである。今の命は過去の様々な人たちのおかげで生かされているものであり、未来の命にもつながっている。つまりは自分ひとりのものではなく、長い命の繋がりを考えて、一生懸命生きるということを意味する。
過去と未来と今は一体不可分なのであるから「今の自分の人生だけが良ければそれで良い」「将来世代のことは関係ない」「過去の先祖と自分は関係ない」といった考えではなく、自分の今やっていることが先祖や子孫(の代)から見て誇りに思われることなのかを考えるようになる。言い換えれば(飛躍するようであるが)今の自分や地域の活動の結果として残っていく景観・文化は美しいか?という問いを常に持ち、判断していくことが大事であるということだ。財務諸表の数字がいかに良かろうが、過去や未来から見て美しくないものを残しているなら、「景観・文化資本的には大赤字」なのである。(こういった資本の概念も経営指標に入れていくべきだなと思う。計算の仕方はESGなどが参考になりそう)

この概念は普遍性があり、古代ローマ皇帝のハドリアヌスは「わたしは世界の美に責任を感じた」という言葉を残しており、この言葉を軸にアパレルブランドのBrunello Cucinelliは企業経営と地域を美しくする取り組みなどを展開している。同社のWebサイトに掲載されているこの言葉には、大事なことが詰まっていると感じる。

《美》とは。その対象は物であったり、人であったり、考えであったり、やり方、そして言葉であったりします。そして暮らしの《美》。美しい世界。美しく輝かしい未来。《美》は煌びやかな飾りではなく、うわべだけの表面的な属性でもありません。《美》とは、人や物の内なる特性の一つの形な のです。美しいものは前向きで発展的です。

だいぶ抽象的な3つの原則になっているというのは自覚しているので、今後もっとブラッシュアップしていきたい。サーキュラーエコノミーの原則と同様、このエドノミー®の3つの原則も広がっていけば、少しは未来に美しい景観・文化が残せると信じて。

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