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『イタリア的』を読む 第4章イタリア政治の不思議な世界−カーニバルとユートピアのあいだ

【概要】
政治はイタリア人を熱中させるテーマの一つであり、議論も行動も活発。祝祭的にデモにもよく参加する。

■前提知識
社会党系・共産党系=左翼(革新的)、保守的政党=右翼、キリスト教系=中道となり、過激な意味合いはない。
イタリア社会は多様であり、90年代の政界再編前は比例制度のため政党が多く、再編後も不安定な状況が続いている。戦後はキリスト教民主党と共産党の2大政党があり、小さな立憲政党群があった。首相が1年毎に代わったがキリスト教民主党が中心に連立を柔軟に組んで安定していた。
政党員も多く、地域と密接に繋がり、男性中心の社交の場であるバール(店ごとに政党色あり。政党の事務所の1階に立地)で議論してきた。

<政党について>
エミリア・ロマーニャ、トスカーナ、ウンブリア、北中部の都会や工業地帯は共産党、ミラノは社会党、ロマーニャやシチリアは共和党、残りはキリスト教民主党が強かった。

・キリスト教民主党
イタリアの宗教思想が反映されて力を持っている。バチカンと密接でカトリック教会の社会思想を実現しようとした。国政では革新、地方では保守的傾向が強く、なるべく現状維持方針で国を統治したことで、先進国となったが社会の根本的矛盾は解決されていない。

・イタリア共産党
戦前−戦時はレジスタンスの中心、戦後は民主主義の一つとして役割を果たした。バールを作って浸透に成功し、人々の遊び・交流・議論の場としても無料図書館による教育の場としても機能した。近代化の社会運動の中心となり、労働法・家族法・福祉制度への影響を及ぼしたが、連立政府には参加したことがない。キリスト教民主党のモロ党首誘拐事件時に大衆政党として国家当局側として責任を果たしたが、極左テロは社会不安の現れだったので、共産党が社会変革を指導する能力・役割を失わせ、80年代からのグローバリゼーションに抵抗できなかった。
6−9月にフェスタ・デッルニタを各地で開催し、エンタテインメントから政治・文化の講演も行われ、党員以外も参加できた。

・その他の政党
自由党は19世紀自由主義の後継だったが上流階級の一部支持のみ、共和党は19世紀の統一・独立運動の理念に基づき、平等・自由を唱えたことで社会・共産主義系ではない革新的な人々の支持により、キリスト教民主党の偏りを正した。社会党は2大政党の中間として活躍したが汚職により解散した。

80年代に安易に新自由主義のレトリックを古来の伝統的な社会関係に重ねたために矛盾は拡大し、腐敗した。90年代に既存政党が汚職で分裂・再編されて新党ができたが、明確な社会基盤・関係を欠いたことから社会運動等が形成されて、政治・ボランティア・文化グループとの中間で活躍している。

■不信の文化
イタリア社会は「家族」が基盤であり、イタリア人同士の団結や相互信頼が欠如している。イタリア人は陽気が建前で悲観が本音かもしれず、明るさも相手によって使用する武器になる。権力者は不信の対象である。
相手に利用される前に利用するようになる能動的な不信をフルビツィアと呼び、ある意味社会的な両義的知恵である。そこには前近代的な従属感や支配される無力感がある。

イタリア半島の長い歴史の中で西ローマ帝国滅亡以来、国際権力の戦場や侵略の場であったため、交渉や狡猾さが必須の技能となった。結果、不安定な国際状況には合わせられるが長期的には戦略が生めない。

■カーニバルとユートピア
カーニバル:祝祭的時空において現存秩序を停止させ一時的に、また制限された空間内に反秩序を形成させる文化装置であり日常の逆転した世界。解放感やパワーはあるが建設的・継続的ではない。
ユートピア:理想的な社会だが、様々な種類が存在で政治とは異なる次元
→イタリアではこれらのレベルが一致したことが特徴。

これによって様々な政治実験の場となり、ファシズムも生まれた。超人的指導者への憧れは、イタリア人の政治思想/心性にあり、定期的に出てくる。これによってベルルスコーニ人気も理解できる。

【わかったこと】
イタリアは「半島」国家という地政学的な部分から、国際的な権力争いの場となってきた。これは世界中の半島国家の宿命的な部分でもある。そこにさらにローマ帝国の本拠であったこと、崩壊後もカトリックという欧州の精神世界の中心地が存在していることによって、翻弄の波は倍加されていた。こういった多様な人が入り乱れて権力は入れ代わり立ち代わりしていくという歴史背景の中で人々が生きていくために身に付けた知恵が家族単位を中心に狡猾さ・悲観さとその中で前向きに生きていく(武器としての)陽気さだった。
個人的には同じような歴史背景がある京都の人々の似たような心性を感じる。精神・文化の中心でありながら権力に翻弄されていった結果、本音を出さずに穏やかな笑顔と当たり障りのない婉曲的な言葉を用いるが、プライドは高い。底流に流れる歴史背景から生まれている心性は、そう変わらない。それを前提として社会の仕組みをどのようにより良い方向に変えていくのかを考えていくことが大事。

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