見出し画像

『ニコマコス倫理学』第3巻-<性格の徳>の構造分析、および勇気と節制

哲学初心者の僕がアリストテレスに向き合う。今回は第3巻(第1章〜第12章から成る)を読んでいく。

概要

徳を考察するには行為が「自発的」か「非自発的」かに分類される。非自発的には強制的であったり不本意なものがあり、そこには苦痛や後悔が伴う。無知ゆえに非自発的に行った行為も同様である。
・誰が
・何を
・何に関してあるいはどんな状況で
・何によって
・何のために
・どのように
といった項目について無知な人はいないが、何をしているのかを知らないということはありうる。

あるいは欲望や気概による行為は自発的ではないか、美しいことは自発的だが醜いものは非自発的かというとそうでもない。理知的な思考だと自発的で気概や欲求に基づくものは非自発的とみなすのも不合理である。

行為よりもどういった「選択」(明らかに自発的)によってなされたかが重要である。選択には理性が求められる。抑制できる人は選択に基づく。欲望は快いか苦しいかに関わるが選択はそれに関わらない。
選択は願望でもない。選択が賞賛されるのは、選択の仕方の正しさよりも選択すべきものを選択することにより、思いなしの場合はそれの真理性によって賞賛される。
選択されるものとは、行為に先立って熟慮されたものであり、道理と思考を伴う。選択(プロ・ハイレシス)とは先立って(プロ)選ばれるもの(ハイレトン)という言葉が暗示している。

熟慮は、様々な目的についてではなく「目的のためのものごと」について行われる。目的を実現されるためにはどのようにすべきかを考えていった最後は「第1の原因(プロートン・アイティオン)」に到達する。これは発見においては「終極のもの(エスカトン)」である。
こういった熟慮に基づいて「目的」のために選択される。

徳も悪徳も自発的な選択によって行われる。これまでに述べられたように徳とは
・中庸であること
・状態であり特定の行為から生まれること
・行為を徳そのものに基づいて行わせるものであること
・我々の力の範囲内にあり自発的なもの
・「正しい道理」が規定するような仕方で我々に行為させるもの
ということになる。

このように整理された上で、「徳」の個々の分類について述べる。
■勇気
恐れ(悪への予期)と自信に関わる中庸を勇気とし、勇気ある以上に恐ろしい物事に耐えられる人はいない。危険や苦痛に対して臆することなく、適切な理由に基づいて行動することが求められる。勇気は、内面的なものであり、その行動がどのように外部から見えるかには意味がない。最恐は死という生の限界であり、善いも悪いも何もかもなくなってしまうため。勇気ある人の死は最も美しい状況における死、つまり戦争における死である。戦争は最大にして最も美しい。(←注:あくまでこの時代の価値観)
気概も勇気に似ているが、最も自然的であり、そこに選択と目的が付け加わると勇気になる。その他、感情等によって動かされているのも勇気とは言えない。つまりは「性格の状態」によって行為が決まる。

■節制と放埒
節制は「欲望や快楽に対して、適切な程度に、適切な理由に基づいて抵抗すること」とし、欲望や快楽に支配されることなく、自制心をもって行動することが求められる。また、節制は、人間が自分自身を支配することであり、内面的な美徳として位置づける。
ちなみに放埒は、動物的に備わっている感覚であり、触覚を通じてなされる享楽行為を喜ぶ状態である。

節制ある人の欲望は、理性と調和して、美しい目標を目指していくべきである。理性がそのように命じ、欲すべきものをしかるべき仕方でしかるべき時に欲する。

私見

放っておくと度を越していく欲望を理性と調和していくことが節制ある人の行為というには、今の時代にも通じることだ。一方で、その節制の枠の範囲そのものが理性によって外されてきた今の資本主義の社会において、もう一度、どの枠内に欲望を抑えておくのかを未来志向で見た上での「理性」から考え直すべきなのではということを強く感じた。
「理性」とはなにかというと、個人的な理解ではその時代・社会・背景といった状況における「美意識に裏付けられた高潔な思考軸」とでも言えるのかもしれない。つまり「理性」は状況によって変わりうるということだ。ここで挙げられている「勇気」の概念を始め、今の時代の感覚に当てはめると「ん?」と違和感を持つものが多いのはこのためだ。だからこそここで語られていることを一度抽象化して、落とし込むという「理性」も必要となってくる。また、現代社会における「理性」で判断して突き進むと破滅が見えているような状況においては、例えば100年後の理想的な社会から見た「理性」によって、現代の欲望を節制するといった考え方が応用的に必要になってくると思う。

よろしければサポートお願いします。日本各地のリサーチ、世界への発信活動に活用して参ります。