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『イタリア的』を読む−(1)食にみるイタリア

今回から『イタリア的』を読む。ここまでブローデルの『日常の構造 物質文明』を読んできて、歴史を読み解いていくには、文献も大事だが人の日々の営みの結果である物の動き、技術の進化、それによってもたらされるさらなる人や物の動きを具に追って行くことの大事さを学んだ。今回からはイタリアの文化に特化して、具体的に読み解いていく。

今回の対象は第一章「食にみるイタリア」。ブローデルでもそうだったが、人は食が基本なのである。

【概要】
料理は意味を持つ記号の体系。地域、歴史、季節、階級の違いを表し、特別な行事のときの料理は行事の意味とのつながりもある。ワインには大昔の世界観もある程度反映されていたりする。

イタリア料理という「文化システム」には材料、調理法、道具、伝説、習慣、シンボリズム、文化的価値や雰囲気まで含まれ、観念的だが具体的で人々の生活に強く影響している。

現代イタリア料理の源流は、トスカーナ料理をベースとしており、19世紀以降のイタリア王国の成立とともに体系化されていった。しかし、最初は長い間貧困下にあったイタリアの庶民の食べ物は素朴で乏しかった。

現代イタリア料理の特徴は次の通り。
1.固いパスタ(強力粉)
2.本来の文化的・祝祭的コンテクストから外された料理
3.イタリアンレストランがイタリア全国の料理を提供
4.味付けが標準化

またメニューのそれぞれにも意味がある。
1.第一の品と第二の品=平常対過剰
2.パン/パスタ=歴史的・技術的差異
3.肉料理/魚料理=動物の生命力の対立
4.乾燥パスタ=工業的/柔らかいパスタ=家庭的
5.ソースがけやスープ入りのパスタ=豊穣や創造=病気の時の栄養食


イタリア料理の主食は小麦粉でできたもの、つまりパン、ピッツァ、そしてパスタ。ピッツァは17世紀ごろナポリあたりで作られた平べったいパンであり、インドではナンになり、メキシコではトルティヤとして広がった。ここに塩やニンニク、ラードで味付けされ、高級なものはチーズやバジルがのった。
1850年ごろにトマトソースやモッツァレラがのり、アメリカへの移民増からナポリ以外に広がった。イタリア全土に広がったのは1950年代以降、南部人が北部工業都市に移動してからだった。
パスタは強力粉か薄力粉を練った生地を茹でた食べ物で、BC4千年−3千年には記録があるパンと粥の中間の存在だ。細糸のものと平べったいものがある。細糸のものは13世紀ごろに東地中海で記録され、中世後期から地中海から北フランスやドイツにも広がった。平べったいものは14世紀にパスタ生地を指3本分幅に四角く切ったものであり軟質小麦粉で作られた。中世以降は「パスタのマトリックス」と呼ばれるほどイタリア独特のものとなる。
16−17世紀にはナポリあたりで硬質小麦粉の前工業的製造所ができ、全国的・世界的に輸出されていく。
つまりパスタは段階的に発展し、硬質小麦粉で作られたものは本来中近東のもので、軟質のものはローマ人の主食であり、それらが交差して生まれてきた。

イタリア文化史の研究者であるピエロ・カンポレージの指摘通り、19世紀のイタリア建国により国のイメージ・文化などの体系が作られ、イタリア料理は生まれた。アルトゥージの1891年の『美味しい食生活の芸術』でイタリア半島、事実上トスカーナ料理が基盤としたレシピを集大成して・体系化・近代化させた。これは裕福な階級のためのものであり貧困層のものではなかったが、影響が大きく、その後のイタリア料理の基盤となった。地域によっても味付けなどは大きく異なっていたものが、彼の本により体系化されていったことにより、標準化が進んでいった。
実際の当時の庶民の食生活は悲惨で、1800年代後半の調査によると農業日雇い労働者は毎朝1kgの黒くて粗いパンを雇い主からもらい、10時の休憩で少し食べ、夜になって暖炉に大鍋をかけ、水に塩を入れて沸かし、パンを椀に入れると雇い主が塩湯とオイルを数滴注ぐのが夕食だった。下級階級はレタスやキャベツ、乾燥させた栗などだった。つまり庶民は全国的に悲惨な食生活だった。

【分かったこと】
イタリア料理と我々が知るものは実は最近のものであり、それはまさに国家の成立と深く関連していた。これはまさに人の動き、物の動きとともに歴史が動き、そして文化も変わっていくことの証左とも言える。
今回の内容に強く関連するところで言えば、小麦の動きはとても興味深い。

日本でも世界のどこでもこれは同じことであり、もともとの地域の風土に根付いた料理が移動や物流つまりは交換の働きが低いときに人が生き抜くために知恵を絞ってこだわった食およびそれに関連する儀礼などの体系的な文化的背景を、食を紐解いていくことで、もともとの底流に流れている人々の精神や心、暮らしを読み解いていく一つのきっかけになると思われる。

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