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二日酔いルーティーン

流行病のせいで休肝日が異様に増えた結果、二日酔いの回数も激的に減った。そして規制が解けた今、徐々に増えつつあるお酒の機会に私はまたしても学習しない自分を思い知る。

飲んで帰宅後、コートを着たままソファに腰掛け、あしたのジョーの最終回みたいな格好で目覚めるのは珍しいことではない。暑い夏の日は、全裸監督のごとくあられもない格好にスマホを片手に寝落ち。きちんとパジャマに着替えて歯まで磨いておいて化粧は落とさず寝落ち等、例を挙げれば枚挙にいとまがない。

先日、久しぶりに紳士達と集まり、少し飲みすぎた。こんな時、私は二日酔いの予防をしてから眠るようにしている。

まず、水を飲む。そして、太田胃散を飲むか、ソルマック サキノミ(飲む前に飲んどけや) を飲む。基本的に私の場合、お酒でやられるのは胃なのだ。余裕があって更に嫌な予感がする時には、グルタミン酸の含まれる中華スープを簡単に作って眠る。これで、翌朝(昼)は嘘のように爽やかなものとなる。それでも辛い翌日が来た時は、寝るか何かを食べる。何も食べたくはないが、無理をしてでも食べると魔法みたいに治る。本当だ。

私は基本的に、自宅に帰ってからトイレでキラキラすることに躊躇がない。寝る前に体の負担となるものを体外に出してしまえば翌朝が楽なのだ。自分の中でこれを『計画的キラキラ』と呼んでいる。以前は出先でも「これは酔う」と自覚したらトイレで華麗にキラキラし、テーブルに戻っては飲み続けていた。

しかし、その話を私のネイリストにしたら「それ、巨人の槙原と同じ飲み方ですよ。槙原はそれで吐血してお医者さんにすっごく叱られたんですって」と注意されたので、以来そういう飲み方はしていない。吐血が怖いからではない。医者に叱られるのが怖いからだ。

そんなこんなで目覚めた二日酔い後は、必ず大食いがしたくなる。それは決まって、とんかつやエビフライに大盛り飯、もしくはラーメン、あるいは大盛りチャーハンと相場が決まっている。

この日は予防対策をしようと思ったまま寝落ちをしてしまったようで、ソファで目が覚めた時にはもう二日酔いが始まっていた。

私は心の中で、寝れば治る。今この状態なら、昼前には回復する…と念仏のように唱え、寝室までふらふらと移動した。

翌朝(昼)目が覚めると二日酔いは治っていたが、私の中の小さな巨人が大暴れし「オイ!メシクワセロ!」と叫んでいた。二日酔い明けのアレである。いてもたってもおれず、すぐに身支度をしてラーメン屋に向かった。

私の街には家系ラーメンが三軒ある。
今日の私は太い麺をわしわし食べたい気分だった。もちろんほうれん草マシはマストトッピングだ。私の中の小さな巨人が「ハンライス!ムリョウ!」と叫んでいた。わかった。今日はライスも食べちゃおう。

店の券売機の前で「並盛」を発注するつもりだったのに、巨人の見えざる力で「中盛」のボタンを押してしまう。「無料で半ライス付きますけど」の言葉に間髪入れずに「タベマス!」と返答。ああ、もう引き返せない。

そうして出てきたのがこれ。はい、ドン。

お気づきだろうか…。丼の背後に見える白い茶碗。白いつぶつぶの美味しいものが入っている。

私は箸入れから奪うように箸をとり、ほうれん草をスープに浸して口へ運んだ。ウマイ!巨人が私の中で声をあげる。私はこの時、せっかく無料で頂いた半ライスはお店の多大なる営業努力なので、間違っても残すようなことがあってはならない、とまずは白飯をやっつけることに専念した。

ほうれん草をご飯にのせ、スープに浸した海苔で巻く!チャーシューをご飯にのせ、スープで浸した海苔で巻く!

これを繰り返し、ライスをやっけることに成功。
次は麺だ!

丼に目をやると、信じられない事態が今まさに進行していた。はい、ドン。

宇宙人の襲来か、はたまたこれはオカルト現象か。

以前、急にキクラゲが食べたくなって乾燥キクラゲをボウルに水で浸したまま出掛けて、帰宅したらボウルからふやけたキクラゲが溢れ出ていた光景がフラッシュバックした。あの時私は叫び声を上げ、宇宙人がそこにいる!と震えたのだ。

目の前の光景はまさにそれだった。私が白飯を食べているたった数分の間に…。麺、恐ろしい子…。

そこからの私は試合終盤のMAX鈴木だった。
咀嚼と嚥下を繰り返すモンスターだ。

いつもなら残り3口のところでお酢と辛子味噌で味変をするのだけれど、そんなことも忘れて一心不乱に食べ続けた。

ごくん。
最後の一口が喉を通り、胃に到達する頃、一瞬めまいが起こり、ハッと我に戻る。

あれ、私、なんでここにいんの?なんでこんなにいっぱい食べてんの?腹パンなんだけど。尋常じゃない腹パンなんだけど。バカなの?ねぇ、バカなの?

…これが私の二日酔いルーティーンである。

もういい歳なんだから、そろそろ学習してもいいんじゃないかと思っている。

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