見出し画像

介護事業のBCP義務化を保険営業に生かす

はじめに

 どうも、中小企業診断士のそめです。
 今回のテーマは「介護事業のBCP義務化を保険営業に生かす」です。
保険は大手生保の他、JAに代表される共済、ネット保険など今や数十社が顧客を取り合うレッドオーシャンの業界です。さらに、AIの進化により営業マン自体が不必要になるのでは?と言われるようにもなってきました。
 また、商品性についても販売会社で多少の差はあるものの、正直似たり寄ったりで、保障内容で差別化していくことは中々難しいと思います。
 そのような中でいかに他社と差別化し、顧客ニーズを満たした自社商品を販売していくか。その為には、世の中のトレンドを掴み顧客へ訴求・展開していくことが必要と考えます。
 「他社と差別化し、AIに勝つ。」
 これを実現する為に、中小企業診断士の目線で一つのヒントをご紹介したいと思います。 

介護事業のBCP義務化

 令和3年度の「介護報酬改定」において、介護事業者におけるBCP(後述)の策定が義務づけられました。義務化の背景には、新型コロナによるパンデミックで医療・福祉・介護施設など高齢者が集まる施設は大きな危険に晒されましたが、このような事態に陥らないよう、BCPにより事前に危機を想定し、新たな感染症や大規模災害への対応力を強化することを目的としています。
 義務化は既にスタートしていますが、2021年~2024年3月31日まで準備期間が与えられています。従って、2024年4月1日から実質的な義務化が開始となります。
 しかし、実際にBCP策定をしている介護事業所はごくわずかに留まっています。
 BCP策定は現状”努力義務”となっており、期限内に未策定の場合でも法的な罰則はありません。しかし、未策定の事業所が万が一 被災等に遭遇し、従業員や入居者が被害に見舞われたとき、最悪の場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
 利用者・従業員の生命や生活を守るという事は、事業者としての責任責務でありますので、やはりBCPは早急に講じておいた方が良いと思われます。

BCPとは

 BCPとは「事業継続計画」のことで中小企業庁によると次のように定義されています。
「BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」
 超簡単に要約すると、
「原発事故とか大地震が来ても、その時に考えるんじゃなくて前もって計画して、すぐに復帰・復旧できるように準備しておきましょうね」ということです。

BCPの効果

 BCPを策定する効果としては次のようなものがあります。
①ビジネス継続性の確保
 ⇒災害や事故などの予期せぬトラブルが発生しても、組織の重要な機能や 
サービスを維持するための対応策が確保できます。
②リスク軽減
 ⇒BCPを策定することで、リスクの特定と分析が行われ、リスクに対する対応策を立てることができます。これにより、リスクの軽減や回避が可能となります。
③スムーズな復旧作業
 ⇒BCPに基づいた復旧作業は、計画的かつ迅速に行われます。そのため、ビジネス継続に必要な施策が適切に実施され、迅速な復旧が可能となります。
④組織の信頼性向上
 ⇒BCPを策定することで、顧客や取引先、社会において、組織の信頼性が高まるとともに、信頼を失うリスク(サプライチェーン停滞や支払不能など)を低減することができます。
⑤コスト削減
 ⇒早期に事業活動を復帰できることで、事業停止による損失を防ぐことができます。これにより、コスト削減が可能となります。
⑥倒産回避
 ⇒資金確保の手段を計画しておくことで、収入源が停止した場合でも継続的に発生する支出(社員給与、各種支払い等)へ対応可能となり、資金ショートなどが回避可能となります。
⑦各種優遇措置を享受できる
 ⇒中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」の認定を受けることができれば低利融資や補助金の優先採択など優遇措置を受けられます

BCP策定上のハードル

 先のようなメリットがあるにもかかわらず、BCPの策定はあまり進展していません。
 中小企業白書(2021年版)によると、「策定している・現在 策定中」の中小企業は約2割となっています。国内の企業の99%が中小企業であることを鑑みると、国内企業の約8割がBCPの策定ができていないという状況です。この原因としては、中小企業は大企業と比して策定ノウハウや人的余裕が不足していることからBCPの普及が遅れているのではないかと考えられます。
 従って、BCP策定を検討している場合、自社努力では限界があることから、外部の専門家(中小企業診断士、コンサル会社等)に委託することでスムーズかつ制度の高い計画策定が可能となります。
 しかし、外部コンサルが机上の空論のように計画を策定するだけでは実効性の高い計画はできません。また、外部コンサルは通常「稼働日数×〇万円」という報酬体系のため、何も準備していない状態で委託すると日数が膨大になり、多額の費用が必要となる可能性があります。
 そのため、計画策定に必要な項目を事前に確認し、予め自社で計画策定に必要な材料を準備しておくことが必要です。
 計画策定に必要な項目は内閣府HPを参考にして下さい。
内閣府HP:国内の業務継続計画に関する情報 : 防災情報のページ - 内閣府 (bousai.go.jp)

BCP策定前に準備できること

 先述のように、BCP策定には事前準備が重要です。特に、「自社がどのようなリスクに晒されているかを考えること」は今すぐにでも実行可能です。経営者が自社のリスクを考えることは、「従業員の命と生活を守ること」「取引先や顧客の信用を担保すること」「地域貢献すること」に繋がります。
 特に以下2点はすぐに実行可能なものです。
 ①ハザードマップの確認
  ⇒自社所在地のハザードマップを確認し水災・土砂災害の発生可能性がどの程度あるかを確認します。ハザードマップは地方自治体のHP等から簡単にダウンロードできます。もし、河川や海に近い場合、浸水が最大何m程度になるのか、主要建物や設備は海抜何mの位置にあるのかを確認することで、浸水しない場所へ設備を移動することや防水壁を設置する・サーバーを1階から2階へ移動する などの対策ができます。

 ②資金確保の手段の検討
  ⇒万が一被災した場合、収入が無くなる可能性があります。しかし、従業員の給与や取引先への支払いなどは無くなりません。また、主要設備に大きな損傷が発生した場合には、修復費用や建替費用などが発生します。そのための資金確保の手段はどのようにするか?これをしっかりと考えておきましょう。なお、資金確保の例として次のようなものがあります。
 1)現預金・内部留保の積み増し
   ⇒当期剰余金の中から、毎期一定額を災害準備金等で積み立てます。
 2)融資保証制度
   ⇒商工会の「災害復旧融資保証制度」などを利用します。ただし、審査があるので確実に融資されるかはわかりません。
 3)保険・共済
   ⇒地震保険や火災保険、損害保険を付加することで、万が一の時の資金を準備します。保障内容によっては、営業用什器備品や従業員の保障も可能な商品もあります。

BCPをきっかけにした保険営業の話法

 ここまでで、BCPの必要性・重要性などを説明してきました。
 特に介護事業所は、BCP義務化が迫ってきており、2023年内に策定するところが数多く存在すると想定されます。
 では、保険営業とBCPをどのように結びつけるか。
 以下に私が考える話法を紹介します。

①介護事業所の経営者へのアポ取り
 まずHP等から経営者情報を入手し、介護事業所へ直接訪問または電話・DMなどにより、アポを取ります。アポ取りには「BCPにおける資金確保の手段でご提案がある」旨を必ず伝えます。
 先述した通り、多くの介護事業所はBCP義務化の認識はしつつも、具体的な策定に至っていないところが数多く存在します。そのため、「BCP」というワードはかなり響きます。特に「資金確保」面はBCPの核となる部分ですので、その支援を積極的に行うことに抵抗のある事業者は少ないと思われます。
 ただし、メインバンク等が既に策定支援で動いている場合は話を聞いてくれないかもしれませんので注意が必要です。

②資金確保方法の提案
 アポが取れたら、経営者へ資金確保の手段を提案します。
 訴求点は次の3点です。
 ①主要設備の損害修復費用
 ②従業員のケガ等への保障
 ③保険金の使い道の実例提案
 ④保険料の損金計上
 このような点を訴求することで、現預金積み増し以外の提案を行います。
 現預金の積み増しは業績に左右されることが考えられますし、損金計上できません。また、積み増しには相当期間が必要になりますが天災は突然やってくる為、積立金が貯まる前に被災する可能性もあります。
 保険のメリットは、①契約金額が契約後1日目から支払われること ②損金計上しながら資金確保が可能 という点です。自社努力ではどうにもならない点をカバーできることを確実に訴求していきましょう。
 また、保険金の使い道は商品によっても様々ですが、多くの場合、使用用途の限定はされません。従って、建物修復費用として得た保険金でも、従業員の給与として使用することもできるので非常に流動性の高いものとなっています。

最後に

 アフターコロナが近づき、消費者の行動や情勢が再び大きな変化を見せ始めています。それは、顧客が求めている商品も大きく変化していることを意味しています。このようなトレンドをいち早くキャッチし、自社商品が顧客にどのようにお役立ちできるのか?を考えることで「差別化しにくい商品を差別化する」ことに繋がります。
 よく「アンテナを高くする」と言いますが、法・情勢等の流れを掴めるように情報収集をしていけば、大きく顧客の裾野が拡がっていくのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?