急がば回れ、物事の本質を理解するのが問題解決への早道
「いつ、どんな方法を使えば為替差損を出さないで済むのでしょうか?」
銀行に勤めていた時、スイスフラン建ての社債を発行している取引先からこんな問い合わせがありました。
社債の償還期限が近づき、為替リスクをどのようにして回避するかということが喫緊の課題になり、訪問するたびに先方は担当者である私に質問されます。
しかし、当時の私はスワップやオプションについてよく理解していませんでした。このため、問い合わせがあっても、私はその場では上手く回答できません。そして、話をそのまま本部の専門部署につなぎ、直接取引先と対応してもらっていました。
取引先からすれば「何だか頼りない担当者だなぁ」と思われていたことでしょう。
その後、なんとか無事為替リスクも回避でき、ほっとしていた頃、突然支店長から呼ばれて、転勤の辞令。
なんと、転勤先は財務サービス部といういわゆるデリバティブ取引を扱う部署!
支店長から「しっかり勉強するように!」というお言葉をいただいて、私は半年間ほど研修を受けることになりました。
それまでも社内の集合研修でデリバティブ取引について簡単に教わっていましたが、前述のような有り様できちんと身についていなかったのです。
言ってみれば、転勤後に初めてスワップやオプションを基礎から学ぶことになったのです。
そこで最初に教わったことは、いわゆる「現在価値」という考え方。
すなわち、一見複雑に見えるスワップやオプションも元を質せば、「現在価値が等しくなるように数値が決まる」ということに集約できるということが分ったのです。
例えば、今後5年間で変動金利を固定金利に変えるというスワップを組む場合、その固定金利は5年間分の変動金利(見込)をベースにマーケット状況を勘案し、現在に引き直したら何%になるかという形で算出されます。
このため、先行き金利の上昇が予想される時に変動金利を固定金利に変換するスワップを組むと、スワップ後の(固定)金利は現在の実勢金利に比べると少し割高と感じるような数字になるという訳です。
それまで、デリバティブ取引については苦手意識があり、何となく避けていました。
特に取引形態が複雑になると、ますますその意識が高まって、自分で正面から取組もうとせず、単にメッセンジャー・ボーイと化していたのです。
けれども、研修で基礎中の基礎をしっかりと教わったお蔭で苦手意識がいっぺんに払拭されました。
本質的な事をきちんと理解できたために、研修が終って新しい部署に配属された時には、あんなに敬遠していたデリバティブは私の得意分野の一つになっていたのです。
急がば回れではありませんが、個々の細かい事象にとらわれずに物事の本質を理解することで多くの問題が一気に解決することがあります。
この場合、基礎ができているため、たとえ新たな課題や問題が出てきても、論理的に順を追って考えることで、対処できるケースが多いのです。
会社の仕事においても、各業務の細かいやり方を個別に教えることも大切ですが、その業務の本質、背景をきちんと教えることで応用がきき、汎用性が広がります。
一を教えて十を知ってもらうことはなかなか難しいことです。しかしながら、その一が根源的な一であれば、一を教えることで七から八ぐらいの効果を期待できます。
関連する記事は
↓ ↓ ↓