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数字は一人歩きするので、目標を課す立場の人は越えてはいけない一線を明確にする:みずほ銀行に勤めている◯年前の私へ(大手町支店編9)

「大丈夫!営業会議で宣言するだけなら、誰にも迷惑をかけない」

「ゼロじゃないよ!!!」

朝会という名の朝の営業会議。

カードローンの獲得強化月間があり、毎朝の会議で「今日はカードローンを何件獲得するのか?」営業担当者が全員宣言させられることがありました。

ある朝、A先輩が「今日はゼロです」と言ったところ、推進担当であるB先輩が怒って冒頭の言葉が発せられました。

一瞬気まずい雰囲気が漂った後、ゼロだと言ったA先輩は「1件です・・・」と修正しました。

初めて営業に上がった時、同じ課の営業成績の良い先輩に教わったのは「ウソでもいいから、営業会議では数字を言え」ということでした(笑)。

つまり、たとえ「今日は外回りができないので、カードローンの獲得は難しそう」という状況であっても、「(頑張って)1件獲得します!」と言った方が良いという訳です。

実際、A先輩は窓口応援の担当か何かで外出できない日だったので、正直に「ゼロです」と言ったら、B先輩の怒りに触れました。

会議の後、B先輩からは「皆で頑張ってカードローンを獲得しようという時に、『ゼロ』なんて士気が下がる」と聞かされました。

皆さんはどのように思われたでしょうか?

「なんだ、ウチでやっている朝会とたいして変わらないなぁ」と思った方もおられるかもしれません。

営業目標については、その目標毎に推進担当者が任命されました。推進担当者は支店全体の目標が達成されるように、旗振り役として進捗管理や数字の取りまとめを行います。

けれども、当時の営業会議や朝会では、「どうすればその目標を達成できるのか?」という方法論に関する議論はなく、単に「文句や言い訳を言わずに数字を上げろ」といったトレースが中心でした。

このため、肝心の「どうすればその目標を達成できるのか?」については、営業成績の良い先輩のやり方を学んだり、飲みに行った席で個別に指導してもらったり、することがほとんどでした。

さて、起業した後、内部監査の仕事をしている際、営業のトレースが厳しいので、社員が数字をごまかして売上を上げるといった事例がありました。

上司の人は「私はそのような指示はしていない」と説明していましたが、月末の夕方になって「あと100万円で今月の目標達成なので、なんとか頑張れ」と言われた社員の人が、来月分として計上する売上を今月分の売上として申告していたのです。

架空の売上ではないのですが、正確に財務情報を把握するという観点からすれば、月次の数字が変わってくるので、問題となった訳です。

社員は自分に課せられた目標を真面目に達成しようと頑張ります。その際、直属の上司なり、組織のトップなりが「これは絶対にやってはダメ」という一線を明確にしていないと、プレッシャーに負けた社員の中には数字をごまかそうとする人が出てきます。

会議で「頑張ってやります」と宣言するだけではまだ問題になりません。けれども、物理的にも達成するのが難しい状況で社員を必要以上に追い詰めると、本人にとっても、引いては会社にとっても、良いことにはなりません。

冒頭でご紹介した「ゼロじゃないよ!!!」については、当時のメンバーが集まると、笑い話になっています。けれども、それはその後、数字のごまかしなどの不正が起こらなかったからです。

その後某上場企業で経営陣からの「チャレンジ」という言葉で、不正会計が行われ、会社に対する信頼性を大きく傷つけました。

たかが目標、されど目標。数字は一人歩きするので、特に数字を課す側の人は細心の注意を払って対応しましょう。

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