005. 暑熱順化トレーニングでシーズンイン!
暑熱順化は“暑さ対策”だけじゃない
暑熱順化トレーニングで得られる耐性・パフォーマンス向上は、何も暑い日のレースだけで発揮されるわけではありません。
中長期的な暑熱順化トレーニングの導入により、血しょう量の増加やLT値でのパワー増加などが既に確認されています。
これが正に世界のトップアスリート達が暑熱順化トレーニングに取組んでいる理由であり、その多くがシーズン前やシーズン序盤から実施して、そのままシーズンを通して暑熱順化トレーニングを行う理由です。
またシーズンの始まりは、数週間の“ヒートトレーニングブロック(集中期)”を行うのに特に都合の良い時期だと考えられています。
特にインドアなど管理された環境で実施する低負荷トレーニングは“集中期”を実践するのに最適なのでオススメしています。
ヒートトレーニングブロックの期間を経て少しずつ強度を上げてトレーニングを行うことで、ヘモグロビン量の増加やパフォーマンス向上が実現されていきます。
これらの効果(暑熱順化で得た耐性など)を維持する為には、ヒートトレーニングセッションを継続する必要がありますが、皆さんの普段のトレーニングスケジュールに組み込むのは簡単です。
最新の研究によると
最新の研究でも、長期的な暑熱順化トレーニングの導入による効果は支持されています。
例えば2022年11月にthe Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sport にて発刊された“High or hot – Perspectives on altitude camps and heat-acclimation training as preparation for prolonged stage races”などが挙げられます。
※この論文は上級サイクリスト向け実践ガイダンスを提供するために既存研究を再検討しています。
この中でも “ヒートトレーニングによるパフォーマンス向上の維持のしやすさ”が報告されています。またヒートトレーニングによるヘモグロビンの増加は、数日間/数週間の“メンテナンス”ヒートトレーニングによって維持できる事も示されています。
これに対して、3~4週間の高地順応を実施して得られる赤血球の増加はとても早く失われ、低地に戻って7日以内に半分が消失し14日以内に全て失われてしまう、とも言われています(*1)。
”すぐ起こる”効果と”続けること”での効果
ヒートトレーニング“集中期”を始めると生理的な変化が2段階で起こります。“すぐに起こる”効果と“長期的に続ける事”で得られるモノがあります
“すぐに起こる”効果は、数日以内に現れはじめ、7~14日でプラトーに達します。この段階では、例えば血しょう量が増加したり汗腺機能が強化されたりします。
最大発汗量を高め、安静時の深部体温を下げ、発汗し始める体温がより低くなる、などが報告されています(1)。
これらの順応により、(暑い季節の)トレーニングやレースでは暑さや体温上昇に伴うパワー低下を大幅に防ぐことが出来ます。
“長期的に続ける事”で得られる効果は、主に赤血球の量を増やし、2週間~のヒートブロックトレーニングを経てその効果を十分に発揮します。
このように暑熱順化トレーニングを継続することで、最大酸素摂取量の向上・閾値でのパワー向上・TTタイムの改善(寒冷・暑熱の両環境でも5~8%)などが研究結果として示されています。
暑熱順化トレーニングを始める
ヒートトレーニング”集中期”に関して、私たちが推奨しているのは2~4週間(6~7セッション/週)という内容です。
各ワークアウト中、自身のヒートトレーニングゾーンまで体温を上昇させ45~60~75分の運動(低~中負荷)を続けて下さい。もし必要な暑熱負荷が足りない場合、ワークアウト後に湯船に浸かったりサウナに入ることで「適当な暑熱負荷」を身体に与える事も出来ます。
当然、頻度が低い・セッション毎の時間が短い場合でも効果を得る事は可能ですが、その分、順化に時間が掛かります。上記で紹介した“High or hot”の研究でも、週5回のヒートワークアウトを5週間実施した結果として赤血球量の増加が確認されています。※残念ながら5週間が終了するまでは分析を行われていません。
<今後の記事>
CORE Body Temp 日本公式 note では今後、トライアスリート・サイクリスト・ランナー向けにシンプルなトレーニング計画“例”も紹介しようと思います。
効果を持続させる為の”メンテナンス”暑熱順化トレーニング
ヘモグロビン増加の効果を維持することは意外とシンプルです。
暑熱順化ワークアウトセッションを週2~3回行うだけです。各セッションでは“ヒートトレーニングゾーン”まで体温を上げた状態を45分~維持します。
上記でも紹介しましたが、暑熱負荷が足りない場合、ワークアウト後に湯船に浸る・サウナに入ることで「適当な暑熱負荷」を身体に与える事も出来ます。
このような“メンテナンス”により、ヘモグロビン増加の効果を維持する事ができます。
もし暑熱への曝露が長期にわたり中断された場合(定期的な暑熱順化ワークアウトセッションを止めた場合)、当然ながら暑熱順化トレーニングで得た耐性は失われるので注意してください。
参考文献
Nybo, L, Rønnestad, B, Lundby, C. High or hot—Perspectives on altitude camps and heat-acclimation training as preparation for prolonged stage races. Scand J Med Sci Sports. 2022; 00: 1-10.
Lorenzo S, Halliwill JR, Sawka MN, Minson CT. Heat acclimation improves exercise performance. J Appl Physiol (1985). 2010 Oct;109(4):1140-7. doi: 10.1152/japplphysiol.00495.2010. Epub 2010 Aug 19. PMID: 20724560; PMCID: PMC2963322.
次回のテーマ
次回のCORE Body Temp 日本公式 noteでは、トライアスリート向け週間トレーニング例をつづろうと思います。
関連リンク
【CORE Body Temp Japan】公式ウェブサイト (日本語)
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