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成人発達理論に基づくコーチング勉強会って何やってんの?

私が主催している成人発達理論に基づくコーチング勉強会のコンテンツ要旨を掲載します。今後、参加を検討される方のご参考になると思います。
※画像は次女の絵です。以下は講義資料です。

講義を動画にもしました。

■成人発達理論とは

ハーバード大学教育大学院のロバート・キーガン教授をはじめとする数多くの心理学者が、意識構造は段階的に成長すると考えています。そして、成長によって、人は自己の思考・感情・行動の可能性を根本的に変容させることができると主張しています。

意識構造はメンタルモデルを規定するという意味で、発達段階を踏まえたコーチングは不可欠とも言えます。

この勉強会ではケン・ウィルバーが提唱する「インテグラル理論」の一部に組み込まれている自我発達理論(Ego Development Theory)を元に、発達段階を踏まえたコーチング手法を理解することを目的としています。

主要発達段階と色の関係

図1

まだまだ上下に意識の発達段階は観察されているらしいですが、その中で主要な段階のみを切り取っています。勉強会では他者依存段階、自己主導段階、相対主義的段階、統合的段階の4段階を扱っています。

いきなりだが、成人発達理論は虚構である

・勉強するに当たって、皮肉なことだが成人発達理論は虚構であるということを知る必要がある。その前提で学ばないとうまく運用できない。
・発達段階のようなものが実在すると誤解すると、特定の人を特定の発達段階にラベル付けするという歪んだ選民思想が頭をもたげてくる
・これは大きな間違いであるだけでなく、有害な使い方である。
・虚構である所以は、人間の意識は文脈に依存しておりなおかつ「能力」とは多重・多様に入り組む体系だからである。(家庭と仕事では発揮する意識の段階は違うし、空腹とかフィジカルの状態によっても容易に意識は変わりうる。また、意識の発達だけが人間の成熟度を決めるのではなく、無数のスキルが複雑に入り組んでいるのが人間の能力のリアリティである)
・にもかかわらず、成人発達理論を学ぶ意味は千斤の価値がある。人の成長課題を洞察し、処方箋を書いていくにおいて有効な補助線を示してくれるからだ。

発達とは何か?何が成長を引き起こすのか?

・成人発達理論における意識の発達とは自己中心性の減少新たな視点の取得と定義できる。
・成長のトリガーは「困った状況」。基本的に人間は仕方なく、強いられて成長する(少なくとも成人発達理論における意味の成長においては)
・現代社会が直面する問題は複雑さの度合いを増しているので、高度な知性が求められ、研究されてきたという背景がある
・時々、「早くティール段階に行かなくては!」という言説を聞くが、とんでもない間違いである。意識の発達段階が高度になればなるほど、引き受ける苦悩は深刻なものになっていくので、自他に成人発達理論が提唱する形での特に相対主義的段階以降の成長を強要するのは、倫理的な行為とは到底言えない。

他者依存段階

図1

・大多数の大人は他者依存段階に意識の重心がある
・他者依存段階は、自己の考えを他者に依存する
・他者や所属集団の価値観への順応を重視する
・相手の気持ちを察することが強み
・周囲の考え方から抜け出せないのが弱み
・次の段階に誘うコーチの関り方は「自分の考えの言語化」の援助となる。
・他者依存段階の苦悩の源泉は、まさに他者依存の過剰である
・未知の問題に遭遇した時、誰も答えを与えてくれない時、他者依存段階の知性はめっぽう弱い
・役割や立場が高度化してきた際に、具体的な問題に直面するが、これまでの成功パターンである「他者依存」を強化しようともがくとドツボにはまる
・「自分の考えを言語化する」という次のステージの特徴は、他者依存段階の行動特性の対極にあるもの
・だから、その能力はあまりに未成熟であり、踏み出すのにはかなりの恐怖を伴う
・コーチはそれを十二分に理解して、丁寧に寄り添いながら次のステージに誘う必要がある

自己主導段階

図2

・次の段階である自己主導段階は、価値観や規範を他者から仕入れるのではなく。自分の内側から仕入れる
・合理的な思考を駆使して、仮説思考で問題解決を行う
・向学心、成長意欲が強く、上昇志向
・過度になると、自分の価値体系がドグマ化し、独善的になって周囲との関係性に問題が生じる
・自己主導段階は稀有な意識段階であり、有能
・ただ、詭弁を含めて合理的な説明能力が高すぎて、いわゆるコーチャブル問題が発現する段階
・自分の苦痛を左脳的思考でフタをして、強行突破してしまう
・コーチとしては、クライアントが依拠している価値観の相対化を図る必要が出てくる

相対主義的段階

図3

・自己主導段階の知性が自身の価値観というドグマの相対化を果たした時、さらに高度な知性としての相対主義的段階へと段階は進む
・これ以降の段階は「実存的段階」と呼ばれる
・肉体の有限性に直面し、いままで追い求めていたもの(例:金)が輝きを失っていく中で人生の意味を探求し始める段階だから
・相対主義的段階は、自分の価値観が絶対的なものではないと肚から気づき、他者の価値観の探求へ拓かれる段階
・自己の価値観を再構成することに熱心で、他方で他者の価値観をありのままに受容できる器ができる
・意味の不安定化による深刻な精神的危機の到来。依るべき価値がないという深刻な不安。想像できないかもしれないが、この不安は数年にわたる絶望的なものになる。しかも、この不安に共感できる他者はほとんど存在しない。
・相対主義的段階の人の課題は、一つにはその時々の局面で重視すべき価値体系の選択を、多様性の中で麻痺することを回避し、丁寧に吟味する力をつけることである。
・もう一つの要素として、世界で唯一無二の自分という存在をどう定義して、その独自性を現実社会の中に具現化していくか。「世界に一つだけの花」を綺麗事だけの話に終わらせるのではなく、その花を多くの人に愛でてもらい、社会に役立てていく方法を探求していく必要がある
(2020年9月22日追記)・主体的真理(自分の生きていく目的)への感度が元来高い人(つまり社会の常識や規範にそこまで呪縛されていない自由な意思を持った人)は、相対主義的段階の苦悩は比較的軽く、すぐに統合的段階が持ち得るような正義・調和を重んじるビジョンに到達し、実践に乗り出していく傾向がある。・また、元来の資質として社会の常識は同調圧力に常に反発し、周囲の批判を浴びながらも信念を持って自我を形成して来た少数の人も、相対主義的段階の苦悩は比較的軽く、短期であるケースが多い。

統合的段階

図4

・自己の依拠する価値観を相対化し、他者の価値観を共感的に理解しながらも、さらにそれら価値観の根底に息づくシステムや構造(例:資本主義システムの構造)に着目し、自分という視点からではなく、世界という視点から巨視的に世界を観察し、自分事としていく段階
・実存的段階の後期をむかえ、「この人生において自分が成すべき使命をどう捉えていくのか?」というように、自分を超えた価値へと意識が拓かれていく稀有なフェーズである
・大局的・本質的な視野から同時代を洞察して、そこに存在する構造的な課題・問題を洞察する。異なる視点を相補的なものとしてとらえて、それらを統合することができる。「光と闇」「陰と陽」「剛と柔」「自律性と関係性」などの対極的な要素を包含・統合した発想をする。
・世の中に対し、根本的な批判を投げかけるのが思考の特徴。物事を分析する上で前提になっている条件(プレ・アナリティスティック・ビジョン)に着目する
・例えば経済学者ハーマン・デイリーは、元々地球はセミクローズドな世界で、地球上の資源の量は限られている。それなのに、現代経済学はこれを無視して無限の成長を指向しているので根っこから間違っているという痛烈な批判をしている。これが統合的段階の発想の真骨頂。

発達段階をどうコーチングに活かす?

こんな感じでマッピングしてクライアントをアセスメントして関わると良い。

図6

図7

図8

・なお、コーチ自身の現段階の発達段階の重心はどうあれ、セッション中は相対主義的段階に入っていられることが良いコーチの条件だと思う。
・相対主義的段階に安定的にいられるためには身体知の涵養が不可欠である。
・人の本質的な苦悩(成長への引き金)は、発達段階の移行期に起きる(気がする)ので、コーチが発達理論に熟達していることはクライアントの助けにおおいになると思う。

■自己主導段階と相対主義的段階の補足説明としてこちらもご参考までに

■なかなか具体的に記述しづらい統合的段階の特質も整理しています

■自己主導段階と相対主義的段階の人生観を対比しました

■統合的段階を生きることの困難と素晴らしさを述べました。

■成人発達理論を含むインテグラル理論に関する考察です


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