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認知の父、心配の母⑤

自転車で転倒して道路端に倒れてうずくまっていた父を発見し、車を停めて介抱し、なんとか父から自宅の電話番号を聞き出し連絡をくれたのは30代の女性だった。

母が電話をとり、その女性から状況を聞いた。
どうやら父が自転車で転倒し、はずみで眼鏡を壊した上に頭にけがをしているようだが意識ははっきりしているし大事はないようだった。

女性から父のいる場所を詳しく聞いたのだが、車を運転することのない母にはイマイチ場所がピンとこなかった。
母は息子の私か嫁の私の妻に現地へ向かわせるので、直接お話をさせていただくために恐れ入りますがあなた様の携帯電話の番号を教えていただけますか?とお願いをしたのだった。

女性も状況が状況なので、母からのその申し出を了承してくださった。
そのまま父を置いて帰宅するわけにもいかず、とはいえ自宅に子供を残しているのでなるべく早く来て欲しいと母に伝え、携帯電話の番号を教えてくださった。

母はまず妻へと連絡をした。
これは相手の方が女性であることから、妻からの連絡の方がなにかと良いだろうという母なりの配慮だった。
妻もすぐに電話にでることができ、相手の女性から教わった携帯電話へと折り返し連絡をとった。

幸い妻はその大型スーパー近くの酒のディスカウントストアに居た。
父がその店を良く利用することを知っていたからだ。
また女性から聞いた場所の目印となる神社の存在も、地元に精通する妻にはすぐに分かり向かうことができた。


妻が娘を載せた軽自動車の黄色いコペンで現場に到着をすると、その女性と一緒に座り込んだままの父がハンドタオルで頭を押さえていた。
どうやら派手に転倒した際に、頭を切って出血したらしい。
父は壊れた眼鏡とハンドタオルを握りしめ、ただじっと痛みに耐えていた。
そのハンドタオルも女性が貸してくれたものだった。

妻は女性に丁寧にお礼を述べ、後日あらためてお宅にタオルとお礼をもって伺いたいと伝えた。
女性は
『タオルもお礼もいいから気にしないでくださいね』
と妻に言って一緒にいた娘にも
『おじいちゃん大丈夫だからね、ビックリしたよね』
と、やさしい言葉をかけてくださったということだった。

女性は
『コペン良いですね、私も乗ってみたかったけど子供が三人居るのに二人乗りだからムリだなって(笑)』
『でも、お義父様載せられませんよね。私が一緒にご自宅までお連れしましょうか?』
と提案してくれたという。その気遣いがうれしかったと妻は言う。

もちろん妻は女性がお子さんを自宅に残して、帰宅する途中であることも母から聞いていたから、そこは母親同士通じるものがある。
いつもより帰りの遅い母を待つ子供にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。

これから旦那にもここに向かってもらうから大丈夫ですよ、と女性には伝え丁重にお礼を述べて別れたという。

後ほど妻からはそんな顛末を聞き、父がまたしても親切な方に救われたことを心から感謝した。


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