一級建築士の街歩き08 設計者から見た “こだわり建築” シリーズ「GINZASIX」                “数寄屋建築の精神と再現された路地”     設計:谷口吉生、KAJIMA DESIGN


銀座には銀座の発展を創ってきた有名建築、歴史的建築が数多くあります。
一方で最近の建築の中にも銀座の特長をとらえた個性的な建築も多くあります。
ここではその中で気になる新しい建物にスポットをあててその面白さに迫ってみようと思います。


目次

①巨大なのに繊細

②「銀座ルール」の貢献大

③心地よい街並みのスケール

④建物内にうがたれた路地と街並み

⑤規模感の再認識



①巨大なのに繊細

銀座一番の巨大建物にして6丁目を占めるGINZA SIX
何と言っても興味を引くのは美術館設計の名手 谷口吉生氏が商業ビルをどうデザインしたかです。

それは間違いなく建物上半分各階周囲を巡っているステンレスの庇。
GINZA SIXが掲載されている建築誌「新建築」を見ると庇のディテールが大きく掲載されています。
見た目のシャープさ、路上の人影、クルマの動きを反射。あくまでも長く水平に。
そして庇の先端にはLED照明が仕組まれています。

薄く細く造ることに執念を持ち、現代建築であるGINZA SIXにありながら
数寄屋建築の精神を感じます。

今回谷口氏はゼネコン設計部であるKAJIMA DESIGNと組んでいますが、
もう一つゼネコン設計部と組んだ建物があります。
フォーラムビル 

極限に近い細い柱梁のデザイン。
柱は何と42cm角。
通常の半分です。実はこの細い柱の内部には肉厚の円柱型鉄骨柱が入って構造体を形成しています。
この細く見せながら巧みに繊細な建築を構成している姿は日本の茶室建築を連想させます。

更にファサードを構成する梁の上部はパンチングメタルとなっています。
これは雨水が梁から垂れないよう配慮。
繊細なファサードは綿密に裏付けられたディテールにより達成されています。

この2つの建物、偶然の一致か共にステンレスを使用していますが、
谷口氏のお眼鏡にかなった仕上げ材料がステンレスといえます。

ちなみにGINZA SIXの庇の上には
メンテナンス足場とするためのステンレス製のグレーチングが取付けられていて、
雨は先端の水切りで処理する形になっています。

②「銀座ルール」の貢献大

さてGINZA SIXこの形態に至った経緯はどうだったんでしょうか。

銀座の建物は小さな間口の建物が多く並んでいます。

その中で例外的に大きな間口を占める建物が3つ有ります。
それは3丁目の松屋、4丁目の三越そして6丁目のGINZA SIX(旧松坂屋)です。

面白い事にこれらは全て中央通りの東側にあります。
中でもGINZA SIXは1街区だけでなく
もう一つ東側の街区も含め2街区分のエリアを占めています。

GINZA SIX 公式HPより


広い敷地のため高層ビル案もあったようですが「銀座ルール」のお陰で低層に。
それでも13階建て、銀座4丁目の先にある新歌舞伎座は
銀座ルールの高さ制限が緩い地区のため29階建てなのでGINZA SIXは新歌舞伎座タワーの半分以下。 



「銀座ルール」とは
1998年中央区と銀座通商店連合会協議により策定された地区計画です。
広い空のもと気持ち良く安心して通りを買物出来ることを目指しました。
道路幅員により高さ制限(56m,46m)がされています。
最初の適用建物の一つに東京銀座資生堂ビル(56m)があります。


(以前の建物は 大正8年(1919年)、市街地建築物法によって、建築物の最高高さは百尺(31メートル)に制限されていてこの規制は戦後も続き、銀座にも31メートルの建物が建ち並びました。たとえば三越(旧館)や和光、松屋などの建物が、この高さにあたります。
4丁目交差点付近は、だいたいこの高さで揃っていることがわかります。出典:銀座デザイン協議会)


③心地よい街並みのスケール

街の感覚的なスケール感(道路幅x建物高さ)を東京の有名な通りで比べてみると
表参道 <銀座 <丸の内 <新宿副都心
 ← 小 街のスケール感 大 → 
のように感じます。

そして実際に歩いた感じは街ごとに違い、
スケールの小さい方が歩く速度もゆっくりで気持ちよく感じるのではないでしょうか。

銀座の街並みの特長として道路幅は広いですが、
建物の高さが「銀座ルール」により制限されていて、
そのお陰で建物が連なっている割には空の開放感があります。



GINZA SIXは建物が低層にはなりましたが、一方でその事により建物は敷地一杯に建てられており、
GINZA SIXの規模ではそのまま建てたのでは銀座の街並みに丸の内のスケールのビルを
持ってきたように感じてしまうかも知れません。
そのためいかに銀座らしさを演出するかが次の問題となります。
そこで着目したのが銀座の歴史的な街並み。


通常多くの建物は間口が狭いのですが、
GINZA SIXの間口は何と一街区分の約120Mと桁違いのため大きな街区の建物ならではの工夫が、
銀座の街並みや人通りに沿うように計画されています。
外観は具体的には足元と上部に分けた二層構成にしています。
低層部は連続する外観を分節化してそれぞれの店舗が連続しているヒューマンスケールの街並みを造り出しています。
そして各店舗に相当するファサードは店舗ごとのデザインがなされています。


この部分は店舗の「のれん」をイメージしていて、
各ブランドごとに「のれんルールブック」と呼ばれるファサードデザインに関する
マニュアルに基づいたデザインとなっています。
ちなみに「のれん」部分は後付けの仕様となっています。
従って「のれん」の掛かっている低層部にも
上層部と同じディテールの庇がちゃんと巡っていて、
「のれん」を取付ける前は上から下まで庇の巡るGINZA SIXが見えたことになります。


一方、高層部は店舗の庇をイメージしていて前述したステンレス製の庇が建物周囲を巡っています。
このようにGINZA SIXは上部だけを見ると銀座の街並みを超えたスケールを感じますが、
足元は銀座スケールを尊重したデザインとなっています。




④建物内にうがたれた路地と街並み

さて次にGINZA SIXの中はどのようになっているでしょうか。
昔の銀座では一本道を入るとその先には路地があり以前は奥に広場がありました。
GINZA SIXの中央の入口を入って導かれるように
エスカレーターで2階に上がるとそこには吹き抜けの広場があります。
アートワークのある“ハレ”の場です。

この吹き抜けの周りを回遊し非日常性を堪能する事も出来ます。
2階をさらに進むと建物の外に「三原テラス」と名付けられた屋外テラスが
広場のように展開されています。ここまでの道の両側には店舗が並んでいます。

このデザインは言ってみればGINZA SIXの建物内に
銀座の街のシークエンスが展開されていると言えます。
また建物のヴォリュームの中をくり抜いて造られた形となるGINZA SIXのこの路地は、生成過程は銀座の“地上の”路地がまず路地があり、
次に周りの建物が次第に造られていったものとは逆の順序かも知れませんが、現代版路地と言えるのではないかと思います。



⑤規模感の再認識

ところでGINZA SIXは建築面積(上部からの投影面積)が約9,000㎡と巨大ですが
そうした場合の建築の構成手法は一般的にどのようなものがあるでしょうか。

用途によりますが、通常建物の床面積が大きいと奥行きへの工夫が必要となります。

店舗とオフィスの平面の大きな違いは
外部への眺望の確保でオフィスではその奥行きが関係してきます。
オフィスでは快適性確保の面からも
窓からの奥行きは片側採光の場合は深くとも15m位が限度になります。

それ以上深くなる場合は 奥を採光の気にならないエレベーターやトイレ、
階段のスペースとしたり、またはアトリウムや光庭を設けて採光を確保したりしています。

参考までにオフィスのパターンを一つの建物で複数持つビルとして、
日本電気本社ビル スーパータワーがあります。
低層部が中央にアトリウムを持つタイプ、中層部高層部が両面採光のタイプです。

日本電気本社屋スーパータワー

ちなみにGINZA SIXの構成は中央にアトリウムを持つため
スーパータワーの低層部に似ているとも言えます。
ただし建築面積はGINZA SIX(約9,000㎡)はスーパータワー(約5,000㎡)の1.8倍。
巨大です。

そして何と2つのビルの床面積はほぼ同じ14万㎡です。
GINZA SIXは13階建て、スーパータワーは43階建て。
改めて「銀座ルール」の貢献の大きさを思い知らされます。



ちょっと脇道へ …

GINZA SIXの中央通りの反対側あたりにビルの谷間の大変細い路地があります。

この路地を中程まで進むとそこには豊岩稲荷があってキツネの像が鎮座しています。

時折お参りをしている人がいて今でも現役のお稲荷さんです。
ここを初めて歩いた時はこんな所にお稲荷さんがあると知り大変驚きました。
また、その細い路地は通行を確保できるように
カフェを通り抜けているのがまた楽しいところで銀座で好きな路地の一つです。

さて今回は歴史有る銀座らしさに配慮しつつモダンに建築を解釈して、
かつ建築内路地を面白く創り出した建物を見てみましたがいかがでしたか。

最後までお読み頂きありがとうございます。
まだまだ面白い“こだわり建築”を見ていきたいと思います。


つづく

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