こけらいふ vol.9 忘

彼のことが忘れられないと波を流して苦しむ彼女に、彼のことを忘れさせた。忘れたいと言っていた彼は、1年後に彼女のことを思い出して連絡した。忘れられないと今度は彼が言った。彼が今度は彼女を忘れた。彼らはSNSで繋がっていて、なんとなくフォローしたままでいた。ただそれだけで、特に何もなく、お互いの人生を謳歌して、たくさんの後悔とともに死んだ。

そういう風になるかもしれないし、ならないかもしれないが、とにもかくにも、親しい人と別れるというのは悲しいことで、卒業式のときに泣いていた人たちをかつては白い目で見ていたが、今はよく泣くようになった。

大事な時間、大事な居場所が増えたのはそれだけ自分が何かに対して真面目に取り組んだことの証左でもあり、本当に愛おしい時間と場所だったと思う。

ただ学校とかもっとまじめに取り組むべきだった場所との別れが悲しくないのもどうかと思うけれど。

郷愁のままに、立ち去るべき場所に長居しようとしては失敗し、自分が自分でありたいという、わがままだが大切な気持ちをぎゅうと抱えこむ。


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