(25)芸風について①/あきれたぼういず活動記
▶︎あきれたぼういず結成まで書いたので、今回は一息つきつつ、彼らの芸風について少し考えてみたい。
※あきれたぼういずの基礎情報は(1)を!
【エンコに拾う人気者】
あきれたぼういずが開拓した新たな芸風とは、どのようなものだったのか?
彼らのレコードは聴くことができるが、当時のステージは見ることができない今、その全貌を掴むことは難しい。
しかし、ステージの様子が伝わる貴重な記事があるので、まずはこれを見てみたい。
1938(昭和13)年夏、都新聞で「エンコに拾う人気者」という連載企画が組まれた。
エンコ(=浅草公園六区)の芸人達を取り上げ紹介していくものだが、その第一回に選ばれたのがあきれたぼういずだ。
いつの公演か不明だが(8月1〜10日公演の吉本ショウ「軍事読本」か)、西部劇ものをやっている。
①ごった煮
あきれたぼういずの芸風で、一番大きな特徴はその「ごった煮」要素にある。
お笑い評論家・芸能史研究家の西条昇は『日本の喜劇人100』(白泉社)の中であきれたぼういずの芸風を「和洋折衷のごった煮パフォーマンス」と表現している。
あきれたぼういずを最も端的に表す言葉として筆者も気に入って使わせていただいている。
では具体的に、何をどう「ごった煮」にしているのか?
ひとつは、「音楽」のごった煮。
あらゆるジャンルの音楽を掛け合わせ、混ぜ合わせる。
例えばオペラ「ある晴れた日に」のメロディで民謡「佐渡おけさ」を歌ったり、浪曲が途中からジャズの流行歌になったりする。
そのミスマッチさ、パロディの面白さこそ、あきれたぼういずの面白さの「核」であるといえる。
この「音楽のごった煮」については、『ギターは日本の歌をどう変えたか』(北中正和)にも面白い考察がある。
この本ではギターに焦点をあてて日本の近代音楽史を考察しているが、「浪曲の三味線のフレーズをギターでストレートに模したレコードを作ったのは、彼ら(=あきれたぼういず)がはじめてだった」というのだ。
しかしそのアイディアは、音楽史的な面から見ても画期的なものだった。
この「ギター浪曲」をトレードマークにしていることにも、彼らの芸風がよく表れている。
(そもそも、ショウの出演者が自分達自身で楽器を演奏するというのも珍しかっただろう。)
また、「新しさ」という点では、あきれたぼういずの面々はジャズ喫茶に通って、新しいレコードで最新の音楽を勉強していたようだ。
それと同時に新内、竹本義太夫、常磐津のような日本の伝統音楽、伝統芸能も熱心に研究した。
ふたつめに、「芸」のごった煮。もっといえば、形式の変化だ。
歌(メンバー個人のソロの場合もあれば、四人のコーラスの場合もある)と漫才、さらにはコント、そして物真似など、あらゆる形式の芸をどんどん繰り出す、そのバリエーションに富んだ演出。
さらにその変化の早さ。
「(17)グラン・テッカールの浅草進出」の回で述べたように、東京吉本興業ではレヴューと色物(漫才や漫談等)を一緒に舞台に出す独自の演出にこだわった。
そして吉本ショウではさらにそれを進化させて、色物陣をレヴューショウの中に入れ込み、一つ一つの演し物の時間を短縮し、全体で一つの筋のある構成となるようにした。
この形式を踏襲し、さらに濃縮して四人で全部やってしまったのが「あきれたぼういず」だといえるだろう。
「エンコに拾う人気者」で紹介された西部劇のステージも、非常に目まぐるしい。
その形式の移り変わりに注目してみると、
主題歌のコーラス→漫才→コーラス→コント→活動弁士の物真似と映画コント→コーラス
のように次々と切り替わり、一つ一つのネタはごく短く、スピーディに展開している様子がわかる。
『コミックソングがJ-POPを作った』(矢野利裕)の著者は批評家であるとともにDJとしても活動しているが、あきれたぼういずのレコード「四人の突撃兵」を例に挙げ
「この連続性と切断性のバランスには本当に、DJ的なミックスのセンスを強く感じる」と述べている。
また、当時日本でも注目されつつあった前衛的表現としてのモンタージュ論とあきれたぼういずの「ごった煮パロディ」とを関連づけて考察されており、非常に興味深い。
(次回に続く)
【参考文献】
『ニッポンの爆笑王100』西条昇/白泉社/2003
『ギターは日本の歌をどう変えたか』北中正和/平凡社/2002
『コミックソングがJ-POPを作った:軽薄の音楽史』矢野利裕/Pヴァイン/2019
『アサヒグラフ』1995年12月1日号/朝日新聞社
『東京人』1989年12月号/都市出版
『東京人』1998年8月号/都市出版
『広告批評』1990年10月号/マドラ出版
都新聞/都新聞社
「あきれたぼういず讃」野口久光/CD「ぼういず伝説」掲載/1993(※CD発売は2005)
▶︎(7/30UP)芸風について・続き
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