The Lord of the Contracts Ⅳ ~束の間の安息~
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「故意」がなくなるといことは、意識的に秘密をバラした場合、それは契約上契約違反であると言えなくなることを意味する。こんなことがあるのか?
Non-disclosure agreement。略してDNA。お互いに秘密を守ろうね!という契約。
これは単なるケアレスミスなんだろうか?契約書の、しかも一番肝心な損害賠償の条項でそんなミスがあるのであろか。しかし、それは考えにくい。となれば、結論は1つしかない。私はうちのリーガルのコメントを固唾を呑んで待った。
しかし、この件に関して最期までリーガルからのコメントは無かったのだった。
このNDAを巡る物語の最大の争点は損害賠償の条項ではなかった。実は最初から最後まで別の次元で揉めていたのであった。
御社タイトルの方が本件を統括していることがこちらでは分かりかねます。タイトルの方が本件を統括していることを証明するか、タイトルを御社社長に変えてください。(もちろん、原文ではありません)
そう、契約の契約名のタイトル問題だった。
Mからの吹き出しコメントには当初から書いてあった。特にこのことを重要視していなかった私は契約書のコメントには何も書かず、返信のメール本文で、
「うちは所属している部署の部長が契約者となって契約するので大丈夫ですよ」
と。するとMから契約書の吹き出しコメント以下の内容が戻ってきた。
御社タイトルの方が本件を統括していることは、いち担当者が問題ないといってもこちらではわかりかねます。タイトルの方が本件を統括していることを証明するか、タイトルを御社社長に変えてください。
あれ?なんか変だな。大丈夫だと言っているんだけど、私が大丈夫って言っただけではダメだったのかな。では、リーガルに言ってもらえば良いかと思いリーガルに契約書上にコメントを入れてもらった。
「問題ありません」
シンプルだ。非常にシンプル。誤解のしようがない。リーガルが問題ないと言っているのだら、弊社的には問題ないという公式な回答だ。これでこの件は終わったなと思っていたのだが、、、
御社タイトルの方が本件を統括していることはこちらではわかりかねず、タイトルの方が責任をとれるかどうかがわかりません。タイトルを御社社長に変えてください。
これはもしかすると、、、
「担当事業を担務しており、契約書のタイトル上全く問題ありません」
このリーガルの返答に対する答えがこれである。
タイトルを御社社長に変えてください。
やはりだった。気に入らなかったのだ。Mのタイトルは「代表取締役」でうちのタイトルは「部長」。役員でも、執行役員でもないでも単なる部長。自分のところが社長をだしているんだから、お前も社長を出せよ!っていう話だったのだ。
もしからしたら、さっさとお前も社長を出せば済むだろう!と思う人もいると思うが、うちでは契約の内容で誰をタイトルにするかがはっきりと決まっている。ようは、部長以上のタイトルを出すほどの規模の話でないのである。会社対会社のアライアンスでもなれば、数十億規模になる取引でも、パートナーとして一緒に事業を進める話でもない。
しかも、はじめから社長を出せ!という話ならば、無駄な複数回のやり取りをせず、時間を省けたはずだった。それに、M社が自社のアセットを活用してはじめる新サービスを、うちが使うかどうかを判断するするための見積もりを作成してもらうために結ぶNDAである。それに社長をひっぱり出すなんてこちらも暇ではない。現場でできる仕事は現場ですませばいい。うちもそこそこ大きな会社なのだ。
GWが明けて、こちらから契約書の直しをMに送付した。
損害賠償の条項は1つ前のうちの案に戻し、タイトルは部長のままで。コメントは特に何も付けず、メール本文にも修正版を送りますとしか書かなった。
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契約に違反して、故意または過失により相手方に損害を与えたときは、通常かつ現実の直接損害の範囲において当該損害を賠償する。 ただし、故意または重過失による場合はこの限りでない。
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連絡は6月の足音が聞こえはじめてもこなかった。6月にある案件に合わせ活用できるかなと思い4月から話を進めたつもりだった。しかしNDAすら結べず5月が終わりかけていた。
1通のメールを書いた。だいたいこんな内容だった。
御社に具体的に検討してもらって見積もりを作成してもらうことを目的としてNDAを結ぶはずです。データを開示するのは御社ではなく、弊社です。何故、ここまで締結に時間がかかるのでしょうか?弊社は御社のサービスを使わなくても、別に構いませんので無かったことにしましょう。
Mの担当からすぐに返信がきた。こちらでリーガルを説得します、と。そして、その翌日、こちらからの最終案で押印手続きに入るという連絡がきた。
疲れた、ただ疲れた。なんだったんだろう、と思う。リーガル説得でんじゃねーか!営業がはじめたばかりの新サービスをリーガル問題で顧客獲得チャンスを逃がすの嫌ったと思うとその通りなのだが、どこかのCMではないが、
それ、はやく言ってよ~
の一言につきる。
そして、その後の見積もりで「高い!」という一言でM社のそのサービスを使わないと判断した。
大きな徒労感を感じながら、もうこんなことはないだろうなと思いながら私は日常に戻っていった。
この件が別の形で復活するとは知らずに。。
<NDA編 完>
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