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番外編 2023#64 YAMAHA FZ6の記

自分で乗るために買った。
以前はXJ900Fに乗っていたが、そろそろ乗り換えようか、を考えはじめたころに発売されて、以前から注目していた車両だった。

XJ900F はすごく扱いやすいエンジンとハンドリングで、チェーンドライブでないためにメンテナンスも楽で悪くはなかった。
ただ、日本国内では人気がなく、キャリアなどの便利グッズはいちいち個人輸入をしなければならないところは不便だった。
国内販売されたXJ750E2と部品構成はほぼ同じなので、補修部品の入手は簡単ではあったけれど、初期設計1980年の車体は華奢な印象があり、そのわりには乾燥重量250kgが重たく感じた。
止まっている姿を後ろから見ると、リアタイヤの細さは、まさしく心細さに通じ、バンクさせると横滑りをおこすのではないかと不安になる。

そのころはまだ、専用工具を必要とする修理・メンテナンスはバイク屋に持ち込んでいて、フロントフォークのメンテナンスを依頼したショップに置いてあったカタログに目がとまった。

FZ6 FAZER S2
カミソリの商品名に似たものがあった気がする。
外観の特徴はマフラーがない。
いや、ないわけではない。
サイレンサーはシートの下にあって、スリムな車体を印象づけていた。

サイレンサーは後輪の横に配置する必然性があるのか?
かなり以前から持っていた疑問である。
たしかに重たい部品だったから、上に持ち上げるのは大変なのかもしれない。
けれども、オフロード車は上に持ち上げているし、マフラーの素材は昔に比べて軽くなっている。
すでに市販車で集合管を載せているのが当たり前で、左右のバランスが崩れることはない、か、度外視されているはず。
サイレンサーをシート下に配置すれば、縁石にぶつける心配はないし、パッセンジャーに踏んづけられることもない。
タイヤやチェーンのメンテナンスをするのに邪魔にならないので、メリットのほうが多いのではないか?

XJ900F を乗り換えるのであれば、サイレンサーがシート下に配置された車両にしたい、とは考えはじめていた。
手にしたカタログの車両を買おうとすると、ざっと100万円あまり、と聞かされた。
逆輸入車になるので変動があり、100から120万円の間ではなかろうか、との話だった。
うむ、気に入った、買います。
と、なるはずもなく、その後2・3年はXJ900F を乗り続けた。
カタログはタダだったので貰ってきたが。

年間の走行距離がどんどん短くなっていき、乗るためにはメンテナンスが必要、メンテナンスしてもたいして乗らない、を繰り返していたが、ついにシリンダーベースガスケットからオイルにじみが激しくなって、乗り換えを現実的に検討するようになった。
おそらく10万円超えの修理になるので、これを機会に乗り換えるか、と。

ぼくよりも、メンテナンスのウデも知識も上等で、充実した設備をもつ友人に、四発900ccシリンダーのベースガスケット交換をやってみたいか?と尋ねると、部品代だけでやる、と言う。
いわゆる、腰上オーバーホールになるわけで、それなら買い替えは修理終了後まで待つか、との算段になった。

その友人は、うちから400kmほど離れたところに住んでおり、自走で持ち込んだ。
それが2010年12月。
その家で一緒に有馬記念の中継を観たことをよく覚えている。
到着した翌朝からエンジンを降ろすところまでの作業はぼくも手伝い、完成は急がなくていいよ、と言い残してぼくは帰ってきた。
それでも、年が明けて松飾りが取れないうちから、友人は独りでエンジンの分解にとりかかったらしい。
毎日のようにブログの更新があり、画像を載せていたので状況は伝わってきた。
ところが春先、必要な部品を注文したところで、友人はタイへの長期出張が決まった。
「長期」がどのくらいかは確約されず、いつ帰ってくるかわからない。

友人はもちろん、ぼくのXJ900F も。

ビザ等の手続きで一時帰国するたびに作業を進行させたようだが、ブログに書かれるのは、タイでの出来事ばかりになった。
最終的にタイ出張は9年におよんだ。
しかし帰国してひと月後、今度は地方の支店長を命じられ、やはり家にはとどまれず、現在はぼくのうちから800km離れた北九州に住んでいる。

その間、ぼくの手元に単車がない時期は短くて、くだんの友人がタイに向けて出発したころ、250ccの中古車を買った。
「手元に単車がない」ことは、なにか名状しがたい不愉快感と落ち着かなさがあり、堪らず購入した体だった。
手元にあってもたいして乗らないのに。
が、乗らないことと、乗れないことは大きく違う。

250ccのバイクは車検がないために、手を加えるのにあまり制約がなく、手に入りやすい、扱いやすい部品で「加工」していった結果、カワサキ車なのに、ヤマハのメーター、スズキのハンドル、ホンダのテールランプがついた、正体不明の車両ができあがった。
楽な乗車姿勢だし、燃費がよく、加速力がそこそこ強いので、悪くはなかった。
ただ、長距離、長時間乗ると、疲れた。
それは、年齢的に自分の体力が衰えてきたことも関係はしているが、この車両では1日に200kmを移動することが苦痛なほどだった。

体力・筋力の衰えには抗えない。
もしかしたら、XJ900F が戻ってきたとしても、その車重が苦痛になってしまうのではないか、と考えると、がぜんFZ6 が気になりはじめた。
発表から10年あまりを経て、車体価格も手ごろになってきているのも知っていた。

この2年間くらい、毎日のように中古車市場を確認し、は少しオーバーで、時間ができるとネット上でFZ6 の出物がないか探していた。
そうして、今年9月ヤフオク上で見つけた。
2007年式で走行13000km検無しETCつきノーマル車両30万円。
場所はくしくもXJ900F を預けたところに近い。

出品者は、現状で車検は通る、と説明文を載せていたので、輸送費と車検とで5万円くらいの加算を見込んでおけば良いだろうか、と考えていたが、じっさい届いてみると、あまり良い状態ではなかった。
外装品はキレイに洗って磨いたようではあったけれど、前後ともタイヤが使えそうもない。
前輪は溝の中でヒビ割れが発生している状態なので、車検が通ったところでそのまま乗るには恐怖をともなう。
後輪のヒビ割れは前輪に比べれば浅いが、見た目にも硬化しているのは間違いないので、同時に交換することに決めた。
そういう状態なので、前後タイヤ、エンジンオイルとオイルフィルタ、クーラントを交換し、チェーングリスを吹いて車検に望むことにした。

車検は知人にお願いして、仮ナンバーの取得から車両の登録、車検まで依頼した。
ヤフオクで落札した時点では平日の時間を確保して、自分で試験場に持ち込む想定だったけれど、10月に入って状況が変わりタイヤ交換の時間を確保するのがやっとだった。
月曜日に車検をとる予定で、前週の金曜日に仮ナンバーを取った知人が、土曜日にやってきた。
エンジンの始動は確認していたが、走らせたことはなかったので、仮ナンバーをつけたところでガソリンスタンドの往復を乗ってみた。
エンジンの回転は悪くない。
ブレーキは前後とも効いている。
ハンドルがブレている様子もない。
車検で落とされるとしたら光軸だけだね、と知人に伝えたが、あっさりと車両検査は通ったらしい。
ぼく名義の、新品ナンバーをつけたときには、ヤフオク落札からちょうど1ヵ月が経っていた。

が、今年の秋は暑い。
10月下旬に入っても夏日が続いた週末、うちから200kmあまりの道のりを駆りだした。

速い、恐ろしいくらいに。
3速8000rpmくらいで100km/hに達してしまう。
乗り出しなので、おとなしく乗るつもり、とは考えていたけれど、250ccからの乗り換えでは、驚くような加速力と安定感がある。

ただ、ポジションがよろしくない。
左右のペダルが高すぎて、つま先を持ち上げるよう意識しないと、不用意に踏んでしまう。
そのわりにグリップ位置が低く、停止時には上半身を腕で支えるような格好になってしまう。
どこに座っても、タンクを押さえている感触にならない。
ミラーの位置も気に入らない。
バンクしている最中に見づらいし、車体を正面から見ると昆虫みたいだ。

ペダルの高さは調整するだけなので、部品代はかからない。
乗り出して40kmくらい行った、湖の駐車場で作業した。
ブレーキペダルはそれほど移動させなかったが、チェンジベダルは2回手を入れて、初期状態から20mmくらい下げた。
もの珍しげに数人が作業を見にきたけれど、ペダルの高さって調整できるんだ、と発する声を二人から聞いた。

けっきょく初回は、往復で400kmほど乗って帰ったことになるが、ペダルの高さが変わっても、腕にかける力を抜けずに終わり、最後は左の手首にテーピングを施した。

30mmくらいハンドルを持ち上げたら、楽になりそうなんだけどな。
けど、そうすると、クラッチケーブルやブレーキホースの長さが足りなくなるかもしれない。
ネット上でハンドルバーを持ち上げる部品を探してみると、20mmアップのものが見つかった。
これなら、ケーブル類は換えなくても装着できるであろう。
ついでなので、ミラーもハンドルマウントにする。

けれどもFZ6 は、ハンドルにミラーを受けるネジ穴がなくて、少しめんどくさい。
ブレーキマスターシリンダーにネジ穴を切るか交換、クラッチレバーフォルダーはグリップを外してハンドルから抜かないとならない。
もちろん、ミラーステーを追加するやり方もある。
が、ハンドル周りがごちゃごちゃ、ゴテゴテしているのは好きじゃない。
そこでYAMAHA の大型車で、ハンドルマウントミラーの車両を探し、そのパーツを載せることにした。
結果、ブレーキマスターはXJR1200 用、クラッチレバーフォルダーはMT-07用になった。
ノーマルのミラーを外したところは、プラスチックの板を切り出してカバーを自作した。

ハンドルを持ち上げて乗ってみたところ、以前より疲れかたは軽くはなった。
上体が起きた分、手首・足首の負荷が減ったのだと思う。

では今後、スマホの配置やグリップヒーターを導入可否を考えたいところだけれど、まだまだ問題がある。

ひとつは、熱い。
ハンドル周りのカバーを外しっぱなしにしたせいか、ラジエーターからの熱をかなり感じる。
街中の渋滞では、けっこう苦痛だ。

そして、足つきが悪い。
停止しようと足を降ろすと、ちょうどステップの横に足を出すかっこうになる。
とはいえ、これは対策できないかもしれない。
対策として考えつくのは、バックステップを導入するか、シートの高さを変えるか、脚を伸ばすか、くらい。
リアサスペンションを少し弱めて様子を見ながら、車体に慣れるのが得策だろうか。

さらに、フォークインナーチューブのサビが多い。
すでに左側はフォークオイルが漏れてきている。
オイルシールを交換しても、インナーチューブを換えないとオイル漏れは止まらないであろう。
冬はあまり乗らなくなるので、次の春に修理するとしよう。

とはいえ、YAMAHA 車らしいハンドリングは乗りやすい。
車体を傾けると素直にハンドルが切れていく。
車重のわりにはトルクが細い感じがしなくもないけれど、ツーリングマシンとしては充分だと思う。

あとは、ウデ、だな。
右コーナーはどうも苦手だ。
ポジションが安定してくると少しはマシになるだろうか。


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