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くにちゃんオン・ザ・ビーチ

夏が近づいてくると僕たちは、おばあちゃんちにやってくる。

湖の近くにあるおばあちゃんちは、僕の家からは、かなり遠い。だから、去年までは、お父さんの車か、お母さんの自転車で来てたんだ。だけど今年は、自分で自転車に乗ってやってきた。

「おばあちゃん、こんにちは!」

「お帰り。ひろちゃん。」

おばあちゃんは、いつものように玄関を上がってすぐの居間で、火の入っていない冷たい火鉢を前に座って、ほほ笑みながら僕を迎えてくれた。

おばあちゃんちは、僕たちが帰ってくる場所なんだってさ。

 

先にいたのは、いとこのくにちゃんだった。くにちゃんは僕より3つ上の11歳。水泳で灼けたのか少年野球でなのかはわからないけど、とにかく真っ黒で、壁にもたれかかり、本なんて読んでる。

去年までは一緒にゲームしたり鬼ごっこしたりしてたのに、少し不思議な氣分だ。

今日は近くの神社の縁日なんだ。

縁日の楽しみは露店だよね。

僕はぬいぐるみが欲しかった。露店と言えば、えびす講でもなんでもぬいぐるみが欲しくてたまらなくなる。でも正直に欲しいと言える時と言えない時がある。わかるでしょ、だってぬいぐるみだよ。欲しいけど、言いにくいよ。

くにちゃんはヒーローもののお面が欲しいんだって。少し大人に見えたクニちゃんが、まだそんなものを欲しがるなんて意外だけどね。

どちらにしても、それは夜のお楽しみだ。スポンサーが居なければ買えないものね。

昼の内に偵察も兼ね、僕らは子供たちだけで、お宮さんまで遊びに来て、突き当たりのお宮さんには最初にお参りした。露店はもう並んでいる。金魚すくいとかヨーヨー釣り、射的など、やってみたいことがいっぱいあった。でもお小遣いを考えるとひとつしかできない。

すると、そこに、水槽の水の底にグラスがあって、グラスの中にコインが何枚か入っている、そんなヘンテコな露店があった。水槽だけを載せた小さな机の前に座ったおじさんが、しゃがれた声で、みんなのコインが、見事グラスに入ったら、中のお金がもらえるよと誘ってきた。

僕でもわかるよ。これは作戦なんだって。水面からお金を落として、そんな都合よくグラスに入るわけがない。でも、でももし入ったらお小遣いが増えて、もっと遊べる。

おじさんと僕らの心理戦だ。

負ける子もいるだろうけど、きっと勝った子がいるんじゃないか。

くにちゃんは戦わずに行ってしまった。後ではっきりしたけど、おじさんに勝ったんだね。

一方の僕はと言えば、、、勘弁してよ。

ここには縁日の時しか来ないけど、明るくて気持ちのいいところだ。勝っても負けても、とにかく楽しいことはたくさんあった。

おばあちゃんちに戻ったら大人たちがおおぜい裏庭に集まっていた。大事な鶏を絞めるのだそうだ。すぐに意味は分からなかったし、「首をとっても鶏は何歩か走るんだぞー!」とか言って、僕たちを怖がらせ、それ以上は見せてはくれなかった。

読んでくれてる人も、怖がらせてごめんね。

僕たちは裏庭に居られなくなって、トランプで遊ぶことにした。その後ほとんどずっと盛り上がっていたのだろうか、おばあちゃんを囲んでの大宴会がいつの間にか始まって、そして気が付くと、終わっていた。

この日は、くにちゃんちに泊まった。

家に帰ってからのくにちゃんは、やっぱり僕の大好きなくにちゃんだった。帰り道からずっと離さなかったヒーローもののお面をかぶって、僕にタックルしてきて、二人して敷いてある布団に崩れ落ちて笑いあった。

そしてお面をつけたまま寝ると言ってそのまま横になって寝ようとしてるのが、おかしかった。僕は買って貰った小さなひよこのぬいぐるみを抱いてたんだけどね。

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