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Netflix版「三体」が高濃度でスタート。中国SF事情を踏まえることで、この企画の面白さが見える。

Netflix版「三体」がようやく登場。

とりあえず開けてみたら…なんとも驚きのクオリティで、一気見してしまいました。

とはいえ「三体」はだいぶ前の本だ。急に注目浴びてもナー、と言うのが本音だよ。
そもそも劉慈欣の小説が中国で本になったのが2008年。ケン・リュウによる英訳が2014年で、シリーズを含めバラク・オバマが愛読してるって話が2017年。そこから「なんかすごいSFが中国にあるらしい」と世に響いた。日本語訳は2019年にようやく出て、僕もこの時初めて読んだ。この頃はすでに上海住まいで、現地で「三体読んだよ」って話題にすると、「今頃ですか?」みたいな顔をされたっけ。仕事で会った若い中国人起業家たちは、「学生時分に読んで影響を受けた」とか言ってた。IT技術や経営を勉強して会社起業まで発奮させる刺激があったみたいだ。

2010年以降、中国に於けるSF熱は上がってきていて、17年頃にはSF産業への支援を政府が積極的に展開してた。23年にはワールドコン(世界SF大会)が初めて中国で開催され、コロナ明けもあって世界中から出席者が集まった。劉慈欣ももちろんゲスト。

「三体」はそんな大きなムーブメントのきっかけになったSFなのだ。でもさ、まぁ読んだ人はわかるだろうが、「え?」と思うようなトンデモ小説なのである。映像化のアナウンスがあった時も、「このスケールでできるの?」と思ったのですよ。

最初に出てきたのはbilibiliのアニメ版。これは3Dアニメなんだけど、現地でちょっと見ただけでやめちゃった。かなりつまんないです。アニメだし。

次がテンセント制作の実写版(30話)。23年の初頭に動画配信されてた。これもちょっと見たんだけど、日本語情報はないし、展開がたるいしで投げ出しちゃった。昨年秋にはWOWOWで放映、huluなどでも見られるようになった。日本語字幕がついたけど…さてどうしたものか。原作小説通りにやってるから、とにかくゆっくり進むので体力がいるぞ。

そして発表されてから3年半。Netflix版「三体」=The Three-Body が24年3月に8話配信された。クリエイターはデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス(ゲーム・オブ・スローンズ)、アレクサンダー・ウー(トゥルーブラッド)で、製作にはブラピのプランBの名前もある。主役を中国人だけでなく多国籍にする改変はこの規模のプロジェクトなら当然だが、エクスキューズするかのようにデレク・ツァン(少年の君)を加えることでクリアしているのが、頭いいよなぁ。中国ではそのままだと流せません。裸やショッキングなゴア描写があるからね。冒頭のアレもヒヤヒヤだが。

細かくはネタバレるので記さないが、この「改変」がとにかく巧い。そもそものきっかけ、三体人やVRゲームの設定は守りつつ、人種や性別の多国籍化、中国にとどまらない世界スケールのデカさに目をみはる。“カウンター”の短縮なんて天才的だよ。

きちんと面白く、ハラハラし、そして「ここまでやる?」サービスの盛り込みだ。第5話はとりわけものすごい。

エイザ・ゴンザレス(ゴジラVSコング)、リアム・カニンガム(ゲースロ)、ベネディクト・ウォン、ジェス・ホン(これでブレイクするはず)、ジョン・ブラッドリー(ゲースロ)、そしてジョナサン・プライスと、キャストにあんまりお金かけてないところも賢い。ユニークなプロットで引っ張る自信があったんだろうね。

これだけ反響があるんだから、続きも頼みますよ。マジで。

※余談だが、中国への映画やドラマの輸入、出資や製作の関係は近年厳しくなってきている。
Netflix版「三体」のような幸福なエンゲージはこの先はなかなかないだろう。
中国国内では、ハリウッド映画は派手(で大味)な大作ばかり公開される。劇場でかけてくれりゃまだいい方で、国産映画には興行で敵わなかったする。春節とかの大型連休時は、海外映画を上映しないし。
ハリウッドはストもあって映画が足りなくなっていくから、今後もうまくいかないだろう。幸い日本は、アニメだけは入れてもらえる。需要があるから。昨年も「すずめの戸締り」「スラムダンク」など強いタイトルがいっぱいあった。逆に日本の実写映画は相手にされていない。役者のバリューとクオリティとかであっさり切り捨てられる。漫画実写化も原作知名度でささらない。理由は様々で、歴史文化の捉え方などがうまくはまらないとか、若者が支持するしないってのがあるだろう。
だったらそのまま輸入するのではなく、中国用に翻案しちゃえばいいじゃん、って発想もある。22年は三谷幸喜の「ザ・マジックアワー」が「トゥ・クール・トゥ・キル ~殺せない殺し屋~」(這個殺手不太冷静)改変されて大ヒット。今年の春節では安藤サクラの「百円の恋」が、「热辣滚烫」(YOLO)とリメイクされて特大ヒットとなった。日本で24年に公開された映画「ゴールド・ボーイ」は、中国の小説「壞小孩」をドラマ化した「隠秘之罪」を日本用に翻案した企画である。中国架空の地方を沖縄に置き換えたアイディアはよくできていた。
問題はオリジナルとは“大幅に”改変を覚悟することになるので、調整が大変だってこと。原作者NGとかやってると、多分うまくいかない。本編輸入が困難なら、こういうやり方でうまく進んでほしいもんだわ。

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