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初学者から中級者までおすすめの会計及びファイナンスの本〜決算書ナゾトキトレーニングの前に読む本、後に読む本〜

2021年12月17日に初の著書となる「決算書ナゾトキトレーニング」(以下、本書)を上梓しました。本書は、先輩と後輩による対話式で、メルカリ、ソフトバンクグループ、Slack、Amazonといった企業を題材に会計とファイナンスが学べるエンタメの本となっています。

サブタイトルは「7つのストーリーで学ぶファイナンス入門」となっていますが、こちらを読んだ方からは以下のようなフィードバックを頂戴しました。
・入門と書いているものの最低限の会計の知識はないと読むのは難しい
・参考になる本やこの本のあとに読むべき本があれば教えてほしい
・もっと会計やファイナンスを勉強したいが何を読めばよいのか

実はこういった声はあるだろうと思い、原稿の時点では「さらなる学習のための参考文献」という内容を最後に設けていました。しかしながら、本書は新書ながら288ページもあり、最終的には全体の文量をふまえ残念ながらお蔵入り取りました。

そこで以下では、原稿の時点で書いていた「さらなる学習のための参考文献」に大幅に加筆修正して、「初学者から中級者までおすすめの会計及びファイナンスの本〜決算書ナゾトキトレーニングの前に読む本、後に読む本〜」と題して、本書を読む前もしくは後に読むことを推奨する会計やファイナンスの本をご紹介します。

①本書の前に読むことを推奨する会計初学者向けの本

本書自体は、必ずしも会計の初学者を対象にしているわけではありません。そのため、本書ではP/LやB/Sの基本的な解説や会計用語の定義はそこまで入れていません。そうすることで、対話型の話がスムーズに進むためです。

会計の基本的な説明をあまり入れなかった理由はもう一つあります。その理由はすでに会計の初学者向けの素晴らしい本が多く存在しているからです。これらの本の知識をお持ちの方がさらに学ぶために本書は書かれています。ここでは会計の入門書として特に素晴らしいと思う本を3冊ご紹介します。

一冊目は「『お金の流れ』がたった1つの図法でぜんぶわかる会計の地図」(以下、会計の地図)です。

会計をある程度理解している人は自然とB/SやP/Lを頭の中でイメージできることが多いですが、馴染みのない方はこのイメージが出来ないケースが多いです。会計の地図では、初学者の方も簡単に会計のイメージをできるようになる一冊です。私もこの本を読んだときに、「20年前にこの本に出会っていたかった」と心底感じました。また、決算書ナゾトキトレーニングでは、3章、6章、7章とPBRの説明が出てきますが、会計の地図を読んでおけばPBRの意味するところもスムーズに理解できるかと思います。

2冊目は、「会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方」(以下、世界一楽しい決算書の読み方)です。

こちらは多くのイラストを用いながら、クイズ形式で決算書の読み方を学べる本です。P/L、B/S、そしてキャッシュフロー計算書(C/S)を図解で解説することで、企業のビジネスモデルもわかりやすく解説されています。個人的には、会計の地図とこちらの世界一楽しい決算書の読み方を読み込めば、会計の初学者レベルは十分卒業できるものかと思います。

3冊目は、財務3表一体理解法です。

決算書ナゾトキトレーニングの1章では、メルカリを事例にキャッシュフロー計算書(C/S)の重要性を解説をしていますが、この本が世に出るまではC/S自体、そもそもそれ程注目されていなかった記憶があります。というのも、簿記2級や証券アナリストの資格試験ですらC/Sが出てこないからです。
しかしながら、本書がベストセラーとなったことで、C/Sの重要性が世間に知れ渡ったと思いますし、私自身本書のおかげで、P/L、B/S、そしてC/Sを立体的に理解できたと思っています。財務三表の関係性を手触り感を持ってそれぞれ把握できれば、会計の世界が違って見えるようになります。

②本書の前に読むことを推奨するファイナンス初学者向けの本

会計の次はファイナンスです。ここでも3冊ご紹介します。一冊目は「ざっくり分かるファイナンス」です。

私はこの本を10年以上前に読みましたが、この本を読んで文字通り「ざっくり」ファイナンスを理解することが出来ました。この本のおかげでコーポレート・ファイナンスに関する道標を得ることが出来、その後細かい議論を理解しやすくなりました。具体的な企業の事例はあまりないですが、初学者の方が概念としてファイナンスを理解するためにはこの本がベストだと思います。
この本を卒業したら、同じ著者が書かれた「道具としてのファイナンス」もおすすめです。こちらはエクセルを用いた解説も書かれておりより実践的です。

2冊目は、「ファイナンス思考」です。

ファイナンスという言葉が会計と並び世の中で注目され始めたのはこの本のおかげと言っても過言ではないぐらい影響力があった本だと思います。PL脳とファイナンス思考を対比させながらファイナンス思考では、どのような視点で企業を分析するかを学ぶことが出来ます。具体的な企業の事例も多いので、どういった企業がファイナンス思考を有していることもわかります。

3冊目は「会社の値段」です。会計とファイナンスの違いは「過去と未来」、「利益とキャッシュ」等、色々ありますが、それ以外でも重要な点はファイナンスでは「会社の値段」を重視していることがあげられます。

「会社の値段」はタイトルの通り、会社の値段がどのようにして決まるかを詳細に解説をしています。会社の値段といっても、企業価値と時価総額では概念そのものが違います。実務で使うValuationも何の値段を指しているのか人によってはあいまいなようです。本書を読むことで「会社の値段」とは何かを理解できます。

③会計とファイナンスが同時に学べる本

これまで、会計とファイナンスの本をそれぞれ紹介をしてきましたが、このパートでは、会計とファイナンスを同時に学べる本をご紹介します。

一冊目は、「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」です。私の知るかぎり、会計とファイナンスを同時に学べることを謳った本の代表作がこちらだと思っています。こちらは決算書ナゾトキトレーニングの後に読む本かもしれませんが、用語の説明が丁寧なので、こちらを先に呼んでもよいかと思います。

タイトルの通り、会計とファイナンスを同時に学ぶことができる本です。会計的視点を理解しながらファイナンスを学ぶことで、ファイナンスの特徴をより際立って理解できます。決算書ナゾトキトレーニングでは扱わなかったIRR、NPV、DCF、WACCといったファイナンスの基本概念についても「ざっくり分かるファイナンス」を読んだうえで、読むとより理解が進みます。

2冊目は、「決算書&ファイナンスの教科書」です。

決算書ナゾトキトレーニングでは、会計やファイナンスの細かい用語の解説をしていませんが、この本では、それらが詳しく説明されています。EBITDA、自社株買い、ROIC、ROE、最適資本構成等ファイナンス的な視点での解説が重要な役割を果たす解説も丁寧にされています。ストーリー仕立てになっていて、追体験をしながら読めるものよいです。

3冊めは「武器としての会計ファイナンス」です

前2冊に比べて比較的コンパクトに会計とファイナンスについて学べますが、どちらかというとファイナンス寄りの本となっています。2章の「利益とキャッシュフローを読み解く」と3章の「資本コストとは何か?」を読むことで、ファイナンスの肝とも言えるキャッシュフローと資本コストの重要性が学べます。

④本書の後に読むことを推奨するファイナンス中級者向けの本

国内外のMBAのファイナンスの授業でよく使われるのが以下の「コーポレート・ファイナンス」と「企業価値評価」の2冊です。英語に自身がある方は原著で読むことをおすすめします。私も友人たちとの輪読を通じて、これらの2冊を原著で数年掛けて読破したことで、ファイナンスの理解が深まりました。

昔読んだことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、少なくともリーマンショックの後に出た版を読まれていないならば、ともに1章にリーマンショックに対する考えも書かれていることからそこだけでも読むことをおすすめします。両者の内容はかぶっているところが少なく、「コーポレート・ファイナンス」はファイナンスの全般、「企業価値評価」は企業の評価に特化したという特徴を持っています。なので、両方を読むことで、ファイナンスに関する知識の幅も広がりますし、深まりまします。

全部読むのが大変だという場合でも、両方とも第1部だけでも読む価値はあります。コーポレートファイナンスでは第1部を通じて、キャッシュフローと資本コストの組み合わせの色々なパターン(株式、債券、永久債、年金型投資商品)の解説が行われています。これらを読むことでファイナンスのエッセンスは「キャッシュフロー」と「割引率」ということが嫌でもわかります。

また、「企業価値評価」についても第1部を熟読することで企業価値評価のエッセンスを得られることが出来ます。

ただし、上記は2冊とも海外の本であり、日本の企業の事例が少なく馴染みがないということもあります。そういう意味では、以下の2冊の本「コーポレート・ファイナンス戦略と実践」「バリュエーションの教科書」は日本の事例が豊富でおすすめです。

前者は、「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」の著者である田中さんと保田さんのコンビで書かれている本です。こちらでは、大企業だけでなく、スタートアップ企業のファイナンスも扱っているので、スタートアップに関心がある人はその章だけでも読む価値はあります。

後者は、「お金の値段」の著者である森生先生が書かれた本で、M&A、TOB、買収プレミアム、リアルオプションと言った点の解説が特に参考になります。

また先述した「ざっくりわかるファイナンス」の著者の石野さんが書かれた「実況!ビジネス力養成講座」もおすすめです。「ざっくり分かるファイナンス」と「道具としてのファイナンス」を気に入った方は、是非こちらも呼んでみてください。

⑤その他会計やファイナンスでおすすめする本

最後に会計やファイナンス関連の応用編としてのおすすめ文献をご紹介します。

決算書を分析する際や事業計画の作成にあたっては、エクセルのノウハウが必須です。財務モデルの作成という点では「外資系金融のExcel作成術: 表の見せ方&財務モデルの組み方」がおすすめです。P/LとB/SからC/Sを作る方法、そしてそこから予測財務三表を作る方法も書かれています。財務三表の予測シートを自ら作れるようになれば会計の理解も一層深まることになります。

決算書ナゾトキトレーニングの5章では、決算説明資料の役割や読み方を解説していますが、決算説明資料を詳しく分析をしている本としては、「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」がおすすめです。タイトルの通り「決算を読む」本となっていて、特にテック系の企業の決算説明資料をどう読めばよいかがわかります。
テイクレートやARPU(アープ)といった用語や決算書ナゾトキトレーニングの3章Slackで解説したような用語は普通の会計には出てきませんが、テック系の企業を理解するには不可欠の概念です。テック系のビジネスを理解する上でも必読の一冊です。

決算書ナゾトキトレーニングではメルカリやslack等のメガベンチャーも扱っていますが、スタートアップ企業のファイナンスを理解する上では、次の2冊「起業のファイナンス」「起業のエクイティ・ファイナンス」は必ず読むことをおすすめします。

起業のファイナンスでは、スタートアップ企業におけるファイナンスの考え方は資本政策の基本を学べます。スタートアップ×ファイナンスの分野に関心がある人は必ず読むことをおすすめします。

また、スタートアップ・ファイナンスの実務の多くは「事業計画」、「財務モデル」、「契約書」の3つから構成されますが、これまで紹介してきた本ではあまり「契約書」については書かれていません。そのような中、「起業のエクイティ・ファイナンス」は契約書について雛形のサンプルを含め、重要な論点が多数解説されています。「起業のファイナンス」と合わせて必読ですが、通読するのはそれなりに大変なので、辞書的に使うのでも良かと思います。

ただし、上記2冊はスタートアップ企業の具体的な事例はあまり書かれていません。かたや、すでに上場をした「プレイド」、「Sansan」、「Gunosy」、「スペースマーケット」等のスタートアップ企業の資本政策を振り返っている本が「実践スタートアップ・ファイナンス」です。

スタートアップファイナンスにおいて、最も重要な論点の一つが資本政策です。なぜならば資本政策は後戻りが出来ないためです。ビジネスは後からピボットで来ても資本政策は残念ながらほとんどの場合、ピボット出来ません。
ではどうすればよいのか。実践スタートアップ・ファイナンスでは、上場企業が歩んだ資本政策を解説することで、自社にとってどのような資本政策が望ましいのかを考える切っ掛けを与えてくれます。 
関連で、資本政策といえば資金の調達のイメージが一般的には強いですが、同じぐらい重要なのがストックオプションの扱いです。ストックオプションについても過去上場した起業がどのように発行してきたかをこちらの本を通じて学ぶことが出来ます。

決算書ナゾトキトレーニングの第6章ではエーザイを題材にしてESG投資について解説をしています。ESGについてさらにファイナンス的な観点から理解を深めたい方はエーザイのCFOである柳さんが書かれた「CFOポリシー」がおすすめです。内容としては完全に専門書の部類であり、回帰分析や統計の知識がないときちんと理解することは難しいですが、ESGを計量的に分析をしているという点で、専門用語がわからないとしても読む価値はあります。

決算書ナゾトキトレーニングでは、4章にAmazonを扱っていますが、海外の企業の決算をもっと学びたいという方は「GAFAの決算書」がおすすめです。

こちらの本ではGAFAはもちろんのこと、GAFAと比較する形でソニー(アップルとの比較)、楽天(Amazonとの比較)、Yahoo!Japan(グーグルとの比較)、LINE(Facebookとの比較)等の企業の決算書の分析もしています。

海外の企業の決算書は英語のため、決算書を読める人でもなかなか手が出しにくいという事があるかもしれません。とはいえ、GAFAを筆頭にしたテックジャイアンとの決算書を理解することはビジネスを行う上でも参考になるかと思います。本書の切り口については、非常に学びが多かったです。同時に自分がやりたいことを先にされていたという気持ちもありました。

生きた決算書を読む能力を身につける

以上、「初学者から中級者までおすすめの会計及びファイナンスの本〜決算書ナゾトキトレーニングの前に読む本、後に読む本〜」の紹介及び解説でした。最近も素晴らしい会計やファイナンスの本が続々と出てきているので、適宜更新をしたいと思っています。

決算書ナゾトキトレーニングを読んで難しいと感じた方は、是非初学者向けの会計やファイナンスの本を手にとって見てください。本書を通じて「会計やファイナンスをもっと学びたい!」と思った方は、是非上記で紹介した本を含め、色々な本を通じて学びを深めてもらえればと思います。

VUCAと呼ばれる時代だからこそ、生きた決算書を通じて、最新のビジネスモデルを理解するとともに、常に知識をアップデートし、自分で考えられる能力を高めることが重要だと考えます。

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