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宝塚星組『RRR』感想

星組『RRR × TAKA"R"AZUKA ~√Bheem~(アールアールアール バイ タカラヅカ ~ルートビーム~)』『VIOLETOPIA(ヴィオレトピア)』を観てきました。宝塚ファン歴はここ2年くらい?です。

感想を書いていたら長くなったので、ここでは『RRR』の話だけします。でも2000字超えてしまった……。

映画は予習で2回だけ観ました。どちらにもそれぞれの良さがあり、ここでは映画と宝塚を見比べて、特に違いを感じた部分を言語化してみようかなと思います。分かりやすい変更点については書いておらず、時間をかけて自分の中で分かってきたことを整理したいという目的です。

個人の感想であり、映画・舞台のネタバレを含みます。


主人公がビームであること、素朴な善性の勝利

映画『RRR』は、前半がビームの話、後半がラーマの話です。ビームの目的は「連れ去られた少女を助ける」で、途中から「捕まった兄貴分を助ける」に変わります。ラーマの目的は「敵から大量の武器を奪い、故郷の仲間に届ける」で、「目的のために、目の前の友人を犠牲にするのか」という葛藤があります。また、何故その目的を持つに至ったのかという過去の背景も語られます。葛藤や過去の重みがある分、どちらかと言えばラーマの方が主人公のような印象を受けます。

宝塚版では、明確にビームを主人公にしています。ビームが主人公であることを強調するために、舞台セット、衣装、歌、宝塚的演出の力が総動員されています。端的に言うと、ビームがより(宝塚的に)格好良くなります。
結果として、ラーマと比較すると素朴で単純、だからこそ力強くもある、ビームの「少女/兄貴分を助ける」という善性が、映画版よりも強く押し出された印象を受けました。

ビームは何故格好いいのか?そして何故あんなに強いのか?
それは、「彼が善い人だから」です。弱きを助け強きを挫く者だからです。

私はこういう、善性がそれ故に勝利する物語が好きです。

ビームの素朴な善性は民衆の心を動かし、また大局観を持つラーマの心を動かし、それはイギリス総督の撃破(=支配からの解放)へと繋がっていきます。
映画版だと若干ラーマの印象が強かったのですが、ビームもまた、紛れもなく英雄たりうるキャラクターなのだと、宝塚版で改めて感じられました。

「これは自分たちの物語である」という誇りの欠落

一般に映画『RRR』は、愛国映画として理解されています。
映画からは全体的に、インドを支配している悪いイギリスを追い出す、それは正当な権利である、というメッセージが強く感じられます。ビームにせよラーマにせよ暴力的手段をとることへの抵抗感は全くなさそうですし、滅多矢鱈に血が出る演出も相まって、「インド人、血の気多いな」というのが最初の感想でした。

宝塚版では主人公をビームにしたため、前述の通り、彼の素朴かつ普遍性のある善性が主軸となります。ビームはインドやイギリスをどうこう、という意識は持っていません。それはラーマが持っているものです。そのラーマのパートが短くなったため、どうしてもこれがインドとイギリスの物語である、という印象は薄くなります。加えて演者はどちら側も日本人、言語は日本語。暴力描写もマイルドになっています。

映画版からは、インドのイギリス支配への抵抗への誇り、ひいては「これは自分たちの物語だ」という誇りを強く感じました。同時に、私自身はその誇りを持っていないという自覚も持ち、これは非常に得難い鑑賞体験でした。

宝塚版ではどうしてもこの「自分たちの物語」である、という感覚が抜け落ちている、と感じます。まあ、インドの話を日本で「自分たちの物語」として語るのは普通に考えて無理なので、当たり前と言えば当たり前なのですが。

その辺に少し空虚さを感じながら観た次のVIOLETOPIA(ヴィオレトピア)は、結構「自分たちの物語」を語ろうとしているな、と感じられました。その話はまた別で書こうと思います。(と言いつつ、飽き性なので書かない可能性もそこそこあります。。。)

「自分たちの文化への誇り」から「他者の文化への敬意」へ

映画版は基本的には暴力的手段による抵抗がストーリーの主軸なのですが、随所で「文化面でもインドはイギリスに決して劣ってはいない」という非言語のメッセージも入ります。

ナートゥのシーンがその代表ですが、他にも音楽、衣装、小道具、食事……等々、豊かなインド文化がふんだんに味わえます。
宝塚版でも、インド文化に関しては非常に丁寧に作られており、映画版と同程度の異文化体験ができたと感じています。特段インド文化には詳しくないので、素人目に見て、という注釈はつきますが。

映画版では「自分たちの文化への誇り」として受け取れたインド文化表現が、宝塚版だと「他者の文化への敬意」と受け取れました。言語化が難しいんですが、そこは鑑賞体験として微妙に違う味わいだなと思っています。それが良い悪いではなく、作り手の立場が変わる(と受け手側が認識している)と、同じ要素でも違って見えるものだな、と思ったのです。

その他雑記

長々書きましたが、映画版も宝塚版も楽しかったです。千秋楽配信はスケジュール的に見れない可能性が高いのですが、AppleMusicでの楽曲配信が始まったら買うと思います。楽曲配信、版権あると時間かかる印象ありますが、早く始まるといいなぁ。


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