ゼロからイチを生み出す難しさ

無から有を生み出す。

よく言うところの、ゼロからイチを生み出すのは本当に難しいです。

日本でもゼロイチを標榜するベンチャー企業は多いですが、GoogleやFacebook級のイノベーションを生んだ企業はほとんどありません。

そもそもゼロイチは理論化することが難しいとも言われています。

一度生み出した価値である「イチ」を伸ばしていく理論はマーケティング理論でも多くの研究がありますが、ゼロイチはアカデミックの世界でもほとんど扱いがありません。

「リーンスタートアップ」は有名ですが、これも理論というより、「こうしたら失敗するよ」という失敗の積み重ねから生まれたHow toの一種であると言えるでしょう。

DropBoxはリーンスタートアップから生まれたと名高いですが、FacebookやGoogleはおそらくリーン的発想から生まれたものではありません。Facebookに関しては、ハーバード大生に閉じたコミュニティとしてスタートしていますからね。

また企業が「ゼロイチ」を掲げていても、どこまでを「ゼロイチ」とするかの問題があります。

・他社のプロダクトをコピーして改善したもの
・市場のスキマ、ニッチに市場を見出したもの
・そのプロダクト自体がまったく新しい市場を形成したもの

おおむねこの3つに分けられるでしょうか。日本のベンチャー企業が掲げているゼロイチは多くの場合、一つ目と二つ目のパターンに収まっています。これを「ゼロイチ」と呼んでいいのかは果たして難しいところでしょう。

UberやAirbnbに見られるシェアリングエコノミーといったトレンドがシリコンバレーで生まれれば、それをビジネスモデルを変えて日本にも導入するといった場合も多いです。GREEEのLespasもその一つの例でしょう。(そこそこ利益も出ているみたいです)

でもこれだとおそらくシリコンバレーのようにGoogleやFacebook級のイノベーションは生まれません。そのプロダクト自体が市場を創り、トレンドを創る。他社のコピーや海外からのトレンドの輸入、市場のスキマを拾うプロダクトで収益は上がるのでしょうが、イノベーションは難しいでしょう。これを「イノベーション」と呼んでいる人もいますが、これではそもそもベンチャー企業の担う役割は何だろうかと考えてしまいます。

さて冒頭の部分に返ります。

やはりゼロイチは理論化が難しいのでしょうか。ゼロイチはマーク・ザッカーバーグやラリー・ペイジといった数人の天才が運もかけつつ生み出す「奇跡」の一種でしょうか。

ピーター・ティールはシリアル・アントレプレナーの例を出しつつ、これを否定します。うまくいく人は何度もうまくいっている、と。

「What important truth do few people agree with you on?」

ピーター・ティールはいつもこう問うそうです。「君だけが信じる真実は何か」と。ピーター・ティールの問いに合わせれば、この回答をビジネスとして事業化したもの、その一部が三つのパターンのうちの三つ目、イノベーション級のプロダクトを生むのでしょうか。どうりで他社のコピーや海外のトレンドの輸入では難しいわけです。

この点でいうと、日本のベンチャー企業の多くはうまくいっていません。

最近はIPOする企業も多いですが、Googleに匹敵する企業に成長したベンチャーはほとんど見当たりません。日本でもサイバーエージェントやDeNAといった企業が「ベンチャー」として取り上げられることは多いですが、売り上げベースで見ても、1000億円〜2000億円とまだまだ小粒です。(楽天が6000億円、Googleが8兆円)

ピーター・ティールが言うところのテクノロジーを武器にイノベーションを生み出すベンチャー、つまり「スタートアップ」がほとんど無いのが現実です。

では日本でこうした「スタートアップ」を生み出すことは不可能でしょうか。

また、ゼロイチの理論化は果たして可能でしょうか。(換言すると、イノベーション級のゼロイチを確実に生み出すことは可能でしょうか。)

ピーター・ティールは二つ目について、ゼロイチが「運」と「奇跡」のみから生まれていることを否定していますが、「リーンスタートアップ」のように、代替のHow toや理論を示しているわけではありません。

ただ答えはやはり、

「What important truth do few people agree with you on?」

の中にあるように感じます。

ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』(NHK出版、2014)を読んでの雑感でした。