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料理本の今:「身の丈」を知るおとな女性がトレンドを作る

昨年の晩秋あたりから、料理本のトレンドが変わったのを感じていました。よくこちらで書いているように、料理本というのは、企画立案から発売まで8か月程度かかるのが普通なので、昨年後半以降に出た本というのは、2021年の前半に企画された本ということになります。
世の中の動きに敏感な編集者たち、常に1年先のニーズを読みながら動いていますから。

それで2020年から2021年前半は、コロナ禍で急に家ごはん需要が高まったことを受けて、簡単ですぐできてボリュームたっぷりな1品料理、ツヤっと映える飯テロ的なガッツリ献立、レンジ技を駆使した料理本が相次ぎました。
表紙も派手で、上げアゲな帯コピーが大変に目立つので、書店の平台がより一層華やかになっていましたね。

でもね、2022年4月の今は、明らかに落ち着きました。
新年度始まりの4月なので、料理初心者向けの本はわかりやすい大文字コピーが踊る表紙が多いので一見、惑わされそうになりますが、しっかりと選り分けながら見てみると、かなり地に足をつけた主張をテーマにした本が増えているのがわかります。

例えば、ここnoteで前回投稿した料理家の今井真実さんの『毎日のあたらしい料理 いつもの食材に「驚き」をひとさじ』(KADOKAWA)やスープ作家の有賀薫さんの『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)は、当たり前の家庭料理にあらためて光を当てたものでしたし、「読む料理本」とカテゴライズした縦組みレシピで取り上げた3冊も、私達が子どもの頃から慣れ親しんだいわゆる日本の家庭料理を、新たな視点と解釈でレシピを作り直しているものでした。

また、「時短料理、人気に陰り? 若者は映えにこだわり」なんていう記事も出ています。

そんな中、伝説の家政婦タサン志麻さんを名を冠した雑誌『a table SHIMA』が扶桑社から2021年11月に、続く3月には講談社が『栗原はるみ』を出して、また新たな潮流が生まれました。


どちらも大手出版社が手掛けているので販促は大掛かり。それだけに目立ちますから、料理家自身のライフスタイルそのものがよりフォーカスされてきた感がより醸成されているように思います。
そもそもこのような取り上げ方は昔から雑誌が得意とするところ。
主婦と生活社から同じく3月に出たモデルの結城アンナさんによる『Anna's Cookbook 季節の食卓』も書籍ではありますが、編集手法はとても雑誌的です。


志麻さんだけは子育て中のお母さんですが、これらはすべて料理も生活も深めてきた女性たち自身が主役である点が共通しています。決して「キラキラ」「ゴージャス」をウリにしていないこと。
奇しくも宝島社が出した3月に出した雑誌『素敵なあのひと特別編集 身の丈暮らし。』のテーマと重なります。
まるで20年ほど前にロハスやスローライフが流行ったあの頃のようです。雑誌『クウネル』(マガジンハウス)や『天然生活』(地球丸・当時)の世界観といえばわかりやすいでしょうか。

ただ、あの頃と違うのは、堅実な身の丈を標榜しているように見えること。ふわふわとした夢物語でもない、過度に自然派を強調するのでもない、映えを意識したものでもない、発信者個人に寄り添った視点と知恵によってすぐそこにある生活を上質なものに一段引き上げてくれる誌面が展開されているのが特徴です。
何より20年前よりさらにオシャレ感がグレードアップしたよう。

しばらくこの傾向は続くのではないかと予測します。
何より私自身が今取り組んでいる料理本も、上質を知る大人をターゲットにしています。大人が料理するなら…大人の生活シーンのこんなニーズに…大人はこういうおいしさを求めている……と。

一方で、プロの料理人によるレシピ本出版も相次いでいます。
YouTuberデビューしたシェフの本がめちゃくわかりやすいですね。オテル・ドゥ・ミクニの三國清三シェフがぱっちん止めをして料理する姿がかわいいと評判ですね。

個人的には、YouTuberではない、プロシェフの本の誠実さをガツンと推したい気分。この本もいいんです。プロの考え方がきちんと添えられていて、なるほどがいっぱい。

料理も暮らしも生き方も、「身の丈」だけれど「上質」へアップグレードしたい志向を持つ大人女性はたくさんいると思います。
そういうマーケットには、きちんと作られたプロによるレシピと技術の解説は学びが深まりますね。
そう、上質志向な女性は学びにも貪欲ですから。



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