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インタビュー: 心を開いて、今よりほんの少し生きやすい世界へ ~“ナチュ裸リスト” 圭子さん

約2年ぶりに 圭子さんにインタビューさせていただきました! 
「よそじ」を迎えた圭子さんはますますチャレンジング。被写体活動にとどまらず、ライブパフォーマンスやお芝居も?!   最近の活動のこと、表現について思うこと、「#裸は普通」にもちょっとした変化が? ‥‥いろいろ聞かせて、圭子さん! (2019年12月取材)

お写真は、この1年ほどの作品から提供していただきました。
聞き手: イノウエ エミ
トップ画像 撮影 ヨシダライト

◆ 自分のために脱いでいる

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(上2枚とも 撮影 青木英二)

―――初めてヌード写真を見た人や、圭子さんのことをよく知らない人に「なぜ脱ぐんですか?」と聞かれたら、なんて答えますか?

それはやっぱり、人と比べて落ち込んだり、自分だけかもしれないと悩んで隠したりする必要はなくて、「裸は普通だよ」と訴えたいから‥‥って話をしたいけど、時間がなければ「自分のためです」かな。本当に一言で言えば。

―――もともとエロスを表現する活動でないことは存じていますが、自分で作品を見て、エロスを感じることはありますか?

以前は全然なかったですよ。でも最近、作品によっては「あれ? なんかちょっと‥‥」と思うときがあります。私に何が起きたんでしょう(笑)。

―――自分からエロさを出そうとしてるわけじゃないんだ。

全然。現場では同年代の女同士、「生きるってめんどくさいよね~」とか言いながらだらだら撮ったのに、見たら「あれ?」って。

―――私も最近の圭子さんの作品にエロスを感じてるんです。先日の、裸にペインティングされるパフォーマンスもぞくぞくしました。蹂躙されるからこそ表現への欲求が出てくるのかな、と思った。

蹂躙って「踏みにじられる」というような意味ですか? その言葉を使うなら、私を蹂躙していたのは私自身で、そんな自分への怒りをあのパフォーマンスで爆発させた気がしますね。


◆ 表現するって、とてもじゃないけど楽しくはない

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 撮影 寺下史郎
昨年11月の「メレンゲエキスポ」は、パフォーマンスメインのアートイベント。
 圭子(ナチュ裸リスト)
 橘ちひろ(カメラマン)
 寺下史郎(フォトグラファー)
 長野光宏(立体造形作家)
 Yuki Hata(音楽家)
の5人の共催で、3日間にわたって行われました。

―――その昨秋の共催イベント「メレンゲ・エキスポ」では、やりたいことをやれましたか?

私としては、やれました。私は作ることが苦手…というか、作るって何なのかよくわからないけど、壊すのは得意だから。
お客さんの姿はすべて見えているのに、人目がまったく関係ない世界に突入しました。「集中して解放する」ってあれのことだったんだな、と。

―――思いきって、ばーんと壊せましたか?

はい。私にできるのは、その場でちゃんとぶつけることだから。もちろん、見てくださったお客様には、賛否を含めいろんなご感想があると思いますが‥‥。

―――イベントのあと、「喪失感」という言葉を使ったのは?

たぶん、怒りとかあきらめとか絶望とか、私がずっと一緒に生きてきたものを一気に放出しちゃったんですよ。普段は表に出さないけど、そういうものが私の原動力だったと思うから「あー、成仏しちゃったな」みたいな感じがありました。

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撮影、ともに 寺下史郎
「メレンゲエキスポ」でのライブパフォーマンスより
1枚目は怒りを持って生まれたところ。2枚目はすべてが成仏したところ。

―――怒りや絶望が原動力だとしたら、表現することは楽しいばかりではなさそうですね。

楽しくはないですよ。とてもじゃないけど楽しくはないです。
私にとって、表現は自分と向き合うこと。自分は何者なのか、突き止めたうえで発信しないと意味がない気がする。
でも、向き合うってしんどい作業ですよ。いつもは押しやっているネガティブな部分と向き合って掘り下げるのも、自分のいいところを認めるのも‥‥。

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撮影 尾崎千夏


◆ 私にもまだ固定概念がある

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撮影 J
最近は、「動く表現」への取り組みも。動画作品やライブパフォーマンス、そして映画にも出演予定とか‥‥?

もちろん大きな役ではないですよ。田川市のフィルムコミッションと組んでの映画で、監督さんがとても個性的な方で。饒舌ではないけれど、おっしゃることが心に響きます。
印象的だったのは「役者は役を通して、どんな自分もオープンにしていいんだよ」という言葉。私が言っている「裸は普通」はそういう方法で実現することもできるんだなと思いました。

―――監督さんは、お芝居のためのワークショップもしていらっしゃるそうですね。

「こういうふうに演じてください」と指示するのではなくて、自分で考えて表現する役者と一緒にやりたい、そんな役者を育てたいという思いがあるようです。

たとえば、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の冒頭を読むワーク。最初はただ普通に読みます。
そこから、「お釈迦様ってどんなお釈迦様?」「いい匂いと書いてあるけど、どんな匂いだと思う?」「お天気は?」とか細かくかみ砕いていって、それを読み方に反映させていく。たった数行にすごく時間をかけるんです。

―――おもしろそう。

すごく混乱します(笑)。でも、自分に足りない部分と向き合わせていただいてる。
真面目な作品は難しいと思ったけれど、監督が「真面目な作品というのも一種の先入観で、見方によっては『蜘蛛の糸』も喜劇だよ」って。眼から鱗でした。
私の中にもまだ固定概念があると気づかされます。

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撮影 38graph


◆ ほんとは芸人かも?(笑)

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上2枚とも  撮影 Keiko Iwata

―――圭子さんといえば、おもしろい写真も欠かせないですよね。

ほんと、この記事にも載せるかどうか迷ったんですけど~(笑)。おもしろ系のインパクトが強過ぎて他がふっ飛んでしまう気がするんですよねぇ‥‥

―――いやいや、そこはぜひ載せてほしい! おもしろい作品は、圭子さん主導で撮影が進むのですか?

「好きにやっていいよ、こちらも好きに撮るから」という感じで自由にやらせてもらう感じです。

―――私が詳しくないのもあるんでしょうが、インスタとか見てても、綺麗な写真はたくさんあるけどおもしろい写真ってそれほど多くない気がします。

そうかもしれないですね。たいていの方たちと違って、私には綺麗に見られたいとかかっこよく見られたい気持ちがまったくないので、そっち系はどうぞどうぞ、って感じ。
反対に、おもしろ系の撮影では「これ絶対おもしろいやろ!」と確信しながらやってます。次々と降ってくるんですよね。なんだろう‥‥私、ほんとは芸人か?(笑)

―――本質は芸人(笑)

実は怒りや皮肉もこめてたりするんですけどね。
怒りって、ストレートに出すと「何を怒っているか」じゃなくてただ怒っていることしか印象に残らなかったりしませんか? 子どものころ「あー、またおかんが怒ってんな~」って見てるだけで、言ってる内容は右から左に抜けてたみたいに(笑)

―――確かに!

だからおもしろくする。ぱっと見て笑ってもらって全然いいし、じっと見てるからこそ「なんだか不快な気分になった」という人もいます。

でも、怒りをぶつけてたはずなのに、あとから見ると笑っちゃうことも多い。自分で見てもおもしろくて(笑)。

―――いいですね、過去の自分が笑わせてくれるって。

一応、「笑いは時として人の命を救う」という信念もあって続けているんです。

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撮影 Keiko  Iwata


◆ センシティブな存在として消されてゆく

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撮影 寺下史郎
この2月、「私たちは消された展2020」に出展します。東京、神田神保町ギャラリーCORSOにて。
「凍結削除警告センシティブな内容を含みます」‥‥SNSで投稿が削除されたり、アカウント凍結やペナルティーを食らっても全く懲りてない、濃いメンバーが集結しての展示です。

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―――私たちは消された展って、名前が秀逸ですね。

「センシティブ」が昨今の私のキーワード。Twitterに写真を上げると、たびたび「センシティブな内容が含まれている可能性…」と表示されます。

―――私も圭子さんをフォローしていて、その表示を見たことがあります。

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ヌードの写真だけならまだわかるけど、もはや犬の写真を載せても「センシティブ」扱いされたりするんですよ。確かに犬は服着てないけど(笑)

―――犬にも服を着せなきゃ(苦笑)。

確かに、SNSはいろんな人が見るものだからしょうがない部分もあるんだろうけど‥‥

―――でも、本来、何がセンシティブかは人それぞれですよね。

そうなんです。猫が嫌いな人には、猫だってセンシティブですよね。子どもの写真だって、人によっては急に出てきてほしくないかもしれません。だったら「肌色だから何なのさ?」と思ったり。

―――運営側にとっては、最大公約数に合わせて規制したほうが楽なんでしょうね。それでいいのか?という感じはしますが。

肌色だからって何でもかんでも規制していくと、物事を見る力が失われていくような気がする‥‥。
2020年からTwitterのガイドラインはさらに変わるという話があって、そうなったら私はホントに消えると思う。どうしようかなと思ってて。

―――そこで「私たちは消された展」。本当に秀逸な名前ですね。参加はどういう経緯で?

'19年に一回目が開催されたとき、すごく見に行きたかったけど行けなくて。今回の開催を知って「絶対見に行くぞ」と思ってたら、公募がある! もう、応募しない選択肢がなかったです。

―――主宰者さんや他の参加者さんたちのプロフィールを見ると、すごいですね。すごいチャンスだけどプレッシャーもありそう。

ほんと、楽しみだけど、おそろしいはおそろしいですよ‥‥。
私は他の方たちとは経験値が全然違って、一人で展示できるのかしら?というレベル。「こんな資料を送ってください」と言われても何のことかわからないくらいです。福岡だったら誰かが助けてくれるけど‥‥

―――それでも、東京まで行って参加したいと思ったんですね。

「消される」ってどういうことか、なかなか伝わらないんですよね。
SNSに出せば消される。福岡では、展示できるところはほとんどありません。背中の写真ですらNGだったりするんですよ。
そういうのって「ヌードだからしょうがないよね」ととらえられがちで、私も最初はそう思ってた部分もあるけど、たとえば音楽なら? 自分が作った楽曲が「有害だ」と削除されるって‥‥

―――ほんとだ。相当ありえない話ですよね。

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撮影 橘ちひろ


◆ 見たい人すべてに届けたい

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撮影 ヨシダライト

―――圭子さんは作品を広く発信するタイプですよね。

なるだけ見てもらいたいです、そりゃ。

―――いわゆるアングラ的な思考というか、「好きな人だけでやろう」という人も少なくないと思うけど‥‥

私は、何でも一度は見てから各自で考えるもんだと思ってるんです。嫌いでも全然いい。嫌いだとわかるだけでも大きなこと。最初から見せない・知らないじゃ、何も始まらないじゃないですか。

―――ヌードというとギョッとする人も少なくないでしょうが、自分の表現が届いたと思えるときはありますか?

ありがたいことに、あります。自分が何かを見ても、そこそこ良かったときと、なんて言っていいかわからないくらい心を揺さぶられたときとは、リアクションが全然違うでしょう? そういう反応を感じたときは、やっていてよかったなあと思います。
他にも、知らない方がわざわざメッセージくださったり、今度の「消された展」も関東の方が「見に行きます」と言ってくださったり。

―――前回のインタビューを見てくれた人からも反響は大きかったですね。

私の活動は自分のためにやっているけど、見てくれる人が「自分みたいな人間は自分だけじゃない」と思えたり、少しでも生きるのが楽になるのであれば、それはすばらしいことだと思います。

だから、なるべくいろんな人が見られる状態にしたい。
私は福祉の仕事をしているので、たとえば車いすの方でも入れるところで展示できたらいいなとか。先日の「メレンゲ・エキスポ」イベントでも、子どもさんも見られる高さを意識しました。

見たい人みんなが見られて、私がいつも言ってる「 #裸は普通 」が初めて真実になるんじゃないかな。

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↑ 撮影 橘ちひろ

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↑ 撮影 hagu


◆ 私はどこに向かうのだろう?

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撮影 本多


―――「圭子さんって普段はどんな人なんだろう?」と思ってる人も多いんじゃないでしょうか。

ははは。まず、服は着てます、ちゃんと(笑)。

―――おうちのワンコたちがかわいいですよね。

今、2匹いるんですよ~。「さんた」と「ひな」。寒くなるとふとんに入ってくるから、両脇わんわんハーレム状態です。

―――これだけ被写体活動をしているけど、本業は介護のお仕事。すごく忙しいのでは?

月に一度は「何もせず寝る!」って日を作ってます。年齢の話はしたくないけど、この年で全速力で走り続けるのは疲れますから(笑)。

―――被写体活動を始めたのが10年前。今の自分は想像できましたか?

まさか! 思ってもみないです。
イベントやって、映画に応募して、東京の展示に参加して、相変わらずおもしろい写真も撮って、私はどこに向かっているのか…(笑)。

―――ご自分の活動について「エンターテイメントとアートの間」と言ってましたよね。

形式にとらわれたくないというか。ジャンルを決めてしまえば手っ取り早いのかもしれないけど、私がしたいのはそういうことじゃない。

―――最近では、服を着ている写真にも「#裸は普通」のタグをつけたりしてますね。

発想の転換ですね。私が言ってる「裸」って、見た目や体だけの話じゃない。心を開くこと。表現するほうも、見るほうも。

―――そう考えると、ますます表現の幅は広がりそう。

本当にどこに行くんでしょう(笑)。
実は、昨年の夏に父が大病をしまして。幸い戻ってきたんですが、人間いつまでも好きなことができるわけじゃないですよね。いろんな環境がそろっている今、「よし、やってみよう!」とますます思うようになりました。

―――同世代として、私もすごく共感します。

とりあえずは「消された展」。すごい方たちと同じ土俵に立たせていただくので、戦う気持ちで行ってきます!

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撮影 KTR_CAMERA

(おわり)

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編集後記

圭子さんは「客観的に見た自分の良さを受け入れられるようになった」と言います。「何年か前よりも、自分の年齢を気にしなくなった」とも。
それは、圭子さんがずっと自分と向き合い続けてきたから。また、たくさんの撮り手やクリエイターと一緒に作品をつくり、たくさんの人に見てもらうため発信し続けてきたから。10年。歴史ですよね。
圭子さんの、「自分」と「世界」との向き合い方に、そして写真の数々に、いつも刺激を受けています‥! 
(イノウエエミ)

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撮影 あさかみまきこ


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