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「光る君へ」メモ 第14回「星落ちてなお」強運の星に加護されたゴッドファーザー

藤原家に最高の繁栄をもたらすのは道長なので、兼家は道長の先行者でありアナロジーの対象になる。
脚本の大石静さんは72歳(いま検索したけど、そんなになられるのか!)。
人が力を持ち、やがて老いて死ぬところまでを描く筆致に迫力があり、私も兼家にすっかり引き込まれてしまった。

段田安則もこんなに良い役者さんなんだなーと。
もちろん経験豊富な大ベテランだけど、テレビドラマに限っては、ここまで力量を発揮できる役柄、近年あまりなかったのでは?

権力闘争が主題のひとつになっている作品で権力者を大物らしく憎らしく描くのは必要不可欠だけど、それができない日本のテレビドラマは多い。
そこへいくと、今作の兼家は、野心にあふれ不遜で老獪、冷酷。
最高権力者の必要条件をすべて満たすような人物造形だった。

唸ったのは、「権力を手にするためには手段を選ばない」という描写の中に、リスクをとる姿も描かれたことだ。

花山天皇を出家させる、いってみればクーデターを起こしたとき、兼家は自分(と嫡男道隆)が破滅する可能性も織り込んでいた。危険な賭けに出る胆力がある男だった。
子どもに隠しごとをしたり騙したりに何のためらいもなく、身分の低い者は虫けらとしか思わない。
なぜそこまで、という理由が今回語られる。

「政とは家の存続だ。人はみな、死に腐れて土に還る、しかし家だけは残る。栄光も誉れも死ぬが、家だけは生き続けるのだ」

“人はみな 死に腐れる”というセリフもすごいが、兼家の思想には「なるほど」と思わされた。
いや、思想自体に共感するわけじゃないよ。「そういう思想のもとに生きてきた人なんだね」と思える説得力がある。

ようは「永遠」指向なんだよね。
永遠、それは古今東西、数多くの権力者が欲してきたもの。
古代の皇帝は不老不死を求めた。兼家はそれは望めないと理解する代わり、一族に永遠を託したのだ。現代の経営者なら、それを自分の「会社」に託したりするんだろう。

自分が属するものの「永遠」のために、庶民なんぞ一顧だにしないのはもちろん、帝だろうが我が子だろうが使えるものはとことん使い、使えなくなったら切り捨ててきたってことだ。
花山天皇譲位の陰謀のとき、自分と道隆が破滅しても道長を生き延びさせるというリスクヘッジを講じていたのもそういうこと。

もっとも避けるべきは自分の死より家の死なんだよね。兼家の行動はすべて一貫してる。
でも、私たちは知っている。
兼家が望んだ「永遠」はいったん道長による一家の繁栄に引き継がれてゆくが、やがて藤原の栄光は終わり、むしろ永遠に近いのは、まひろの「源氏物語」のほうなんだよね‥‥!

この歴史の皮肉を踏まえた上での、兼家の「家の存続至上主義」設定なんだよね。ほんとうまい。

老いて衰えてゆく姿も描かれたが、最期は役職を辞し、「今日からわしは亡き者と思って生きよ」と自らの手で俗世の幕引きをする兼家。
そして注目!
死の床の枕頭でまで寧子(財前直見)が「道綱、道綱」と唱えていたのには吹き出したが、ここで兼家が寧子が詠んだ歌を口ずさむわけですよ。

「あれは良かったのう」と兼家が笑って、寧子が泣く。
人生の最期に、妾との間にあたたかなものが通い合う。
老いて衰えてもなお、兼家は体面や尊厳を保ち、それどころか愛されて死んでいったという描かれ方じゃなかったでしょうか。

(道兼からは「とっとと死ね」などクソミソに言われたけど、先に我が子をクソミソに扱ったのは兼家であって同情の余地はない。)

階の下に倒れた兼家を見つけた道長は、その亡骸をかき抱いて慟哭する。
父の政は肯定できなくても、父のことは愛していたんだよね。
この先、兼家以上の富と権力をもつことになる道長は、どんな権力者になり、どんなふうに愛され、憎まれ、どんなふうに老いと死を迎えるのだろう?

父を反面教師にして、父とは違う道を見つけるのか。
父を反面教師にしたにもかかわらず、父と同じ道をたどるのか。
それとも、富と権力では父を超えるが、父よりずっと不幸になるのか。
兼家がここまで力を入れて描かれたからこそ、今後の道長が楽しみになります。

明子ががんばって呪ってたけど、その成果はどうだったんでしょうね?
(がんばって呪ってた、って変な日本語w)

倫子が言ったとおり「摂政様も人の子」、明子が本格的に呪い始める前から老いは始まっていたわけで、呪いの成果は“畳の上で死ねなかった”ぐらいのものだったんじゃないでしょうか。

しかも、明子は道長との間の子を流産してしまう。まるで呪詛が跳ね返ってきたようでもありました。
(念のため書き添えますがこれは平安時代ドラマの描写で、現実の流産死産に母親の責任はありません)

兼家はやはり強運の星のもとに生まれ、最後までその加護を受けていた。
不遜で冷酷で、多くの人間を不幸にしたにもかかわらず。
この世はそういう不条理にみちている。
‥‥という、ゴッドファーザー兼家編だったのではないかと思います。

2024.4.12 wrote

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