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『ファイトソング』最終回まで ~ 人生は喪失と回復を繰り返すもの

きっと人生って繰り返し喪失を重ねていくもので、それでも前を向いて生きていくには? ‥‥という、【レジリエンス】をテーマにしたドラマだった気がする。

「花枝は頑な。一度決めたことを絶対に変えない。それは強さだけど、そこから動けない、それしかできない弱さでもあるんじゃないか」 
最終回の春樹(間宮祥太朗)のセリフ。

母の死、父の蒸発、怪我による選手生命の終わり、そして失聴。そのたびに花枝(清原果耶)は強くなろうとしてきた、そうせざるを得なかった。

でも、強さと頑なさは違う。ひとりで考えて、ひとりで決めて、誰かに相談したり、弱いところみっともないところを見せるのは恥ずかしいし申し訳ないと思い込んで‥‥そういう頑なさは、世界に対して閉じている。

「弱さの肯定」「助けてといえる力」。現代のテーマですよね。

で、「頑なだ」というのは花枝に対する正確な指摘なんだけど、春樹は花枝を「強制」「矯正」しようとするんじゃなくて、「50年でもずっと待ってる。待ちたいから、俺が」と言うんだよね。

それに、一発屋ミュージシャンとしてクサッてた春樹が花枝に恋をしたのは、花枝の頑ななまでの強さに惹かれたからというのも大きくて。物語の中で、花枝の気質や特性は決して否定されてはいない。むしろ魅力として描かれている。

もう一人、花枝を一途に思っている慎吾が、近年まれに見るほど最高の「あて馬キャラ」なんだけど(←主観です)、このドラマが2022年だなと思うのは、誰も独りぼっちじゃないところ。

慎吾にも思いを寄せる凛がいて、彼女は花枝の親友でもあり、というか慎吾と凛と花枝は児童養護施設で共に育ったきょうだい以上の間柄で、施設の職員や後輩たちと今でも仲が良くて共生している。

施設長を演じる稲森いずみ。子どもたちを明るくあたたかく育て見守り続ける彼女も決してスーパーウーマンじゃなくて、幼なじみの迫(戸次重幸)に弱音を吐いたり、大人になった花枝たちが施設長を支えている部分もあって、なんか‥‥

チームなんだよね。

特別強い人や、リーダーがいるんじゃなくて、施設長とか社長みたいな「役割」は上下関係を意味するものではなくて、みんながフラットに支え合ってる。ひとつの火や鍋を囲んで車座になったり、牛丼屋のカウンターに一列に座ったりする構図が頻繁に出てきたのも、「序列のない人間関係」を象徴してたと思う。

バーベキューが好きな慎吾が網や鍋を洗う姿や、施設の子たちの洗濯物を干す迫さんの姿が繰り返し描かれていたのもいい。

でもやっぱり稲森いずみが最高で、早くも4話くらいから、彼女が出てくるだけでおいおい泣いてた私です。見てた人、この気持ちわかってくれます~? てか、稲森いずみの若さは何なの? 不老なの? 

本職の俳優じゃない菊池風磨くんと藤原さくらちゃんの良さがすごく活かされていた。ふたりとも唇がぽってりしていて、情の深さを感じさせるので、報われない思いを一途に抱えている役がぴったり。

藤原さくらちゃんは地なのかな?ってぐらいハマってた。低い声とぶっきらぼうなしゃべり方、「自分」がしっかりあるスタイリング。これからもっと人気が出そう。

風磨くんは、実は不器用なのを努力でカバーしてきたアイドルじゃないかと思ってるので、こんなふうに心の優しいおちゃらけ役がめちゃくちゃうれしい。俳優さんとの掛け合いになるとさすがにちょっと厳しいなと思ってたけど、最終回、エレベーターでの3人のシーンや、間宮祥太朗とカウンターに並んでしゃべるシーンは、名優と堂々と渡り合ってて立派だった!!

脚本の岡田さんの「朝ドラヒロイン萌え」と持ち味の「優しいおとぎ話」がうまく結実してて、「カムカムエヴリバディ」で感じてたストレスを浄化してくれるドラマでもありましたw
岡田さんの朝ドラヒロイン萌えは、ヒロインを陰に日なたに抑圧しないし、物語の犠牲にしないからいい。マジで、21th century girlsへのエンパワメントがない朝ドラなんてクソくらえだと思ってる私だ‥‥。(個人の好みです)

「合意」についての描き方もすごくよかった。
合意って、必ずしも言葉が必要なわけじゃない。
‥‥というか、岡田さんは私が好きな「豊かな雑談」を描く脚本家なだけに、花枝が聴力を失ってからの「言葉」の描き方が刺さった。

すみません、ありがとう、がんばります‥‥
すべてを「押忍!」で表す空手。
基本的に無口で、一言、二言での発話が多い春樹。

言葉の少なさが、花枝にとっては楽で、心地よいんだって。

そして、
肩に頬を寄せてギターのビートを感じたり
手をつないだり
気持ちがあふれてきたときにキスをしたり
「体」を通じて伝わる思い、つながる喜びがあるんだってこと。
いっぱいしゃべることだけが「豊かな雑談」じゃない。

「二人なら、いくらでもしゃべれるね」
とニコニコ笑い合う最後の二人が、とてもかわいくて愛おしかった。

あらら、思いがけず長く書いてしまったw

そっか、OPのメインテーマが「ファイトソング」なんだ、ビートが三々七拍子だから「ファイトソング」なんだ!!!って最終回でようやく気付いたわたくしでしたw

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