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インタビュー: くらべない・競わないが心地いい ~「もぐもぐぽけっと」「Grandjour」吉武麻子さん

福岡県宗像市を中心にコミュニティ運営をしている吉武麻子さん。
もぐもぐぽけっと」では、「みんなで食べよう いっしょに笑おう」をコンセプトに低アレルゲンの焼きドーナツを販売。
一般社団法人「Grandjour(以下、グランジュール)」では、フリーランスや個人事業主さんのサポートを行っています。
吉武さんのまわりに広がるあたたかい世界を、ちょっとのぞかせてもらいました。

聞き手:イノウエ エミ(2021年 2月取材)

◆「みんなで食べよう」「何かやりたい、をサポート」

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―――まず、「もぐもぐぽけっと」のドーナツの紹介をお願いできますか。

たまご・乳製品・小麦を使用しないで作った身体にやさしい焼きドーナツです。食物アレルギーのある方や食事に気を使う事情がある方はもちろん、そうでない方も、みんなで一緒におやつの時間を楽しんでほしいという気持ちで作っています。

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―――もともとは、吉武さんが経営していたカフェの人気商品だったそうですね。

はい。靴を脱いで上がってリラックスしてもらえるカフェでした。親子連れのお客様が多かったので三密の対策が難しく、2020年の夏にいったん閉店することになりましたが、ありがたいことにその後も「また食べたい」という声をたくさんいただいて。
今は、もぐもぐぽけっとの店頭や、1月に設置した自動販売機でも販売しています。

―――グランジュールは、フリーランスや個人事業主さんに寄り添う事業とのことですが。

フリーランスや個人事業のはじめの一歩や、事業継続のための支援をしています。ご相談を受けるのはもちろん、各種手続きや、ホームページや動画の制作、SNSを使った発信のサポートなども提供しています。

登録制のコミュニティで、さまざまな職種の方がいますので、お仕事を紹介し合ったり、応援し合えることも多いですね。

◆ お母さんたちの「私」の居場所を

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―――親子カフェの経営、起業サポートや地域コミュニティ‥‥吉武さんの活動は子育て期の女性たちとの結びつきが強いですね。

そうですね。振り返れば、2000年に第一子を出産して、半年後くらいに子育てサークルを作ったのがきっかけでしょうか。

―――産後半年で子育てサークルを?

なんだかやる気にみちあふれているようですがそんなことはなくて(笑)、私すごく怖がりなお母さんだったんです。同じ産院で出産したお母さん同士で集まって、「この小さくて柔らかい人を、いったいどうやって育てたらいいの?」と、話していました。

当時私たちが一番不安だったのは「赤ちゃんが浴槽で溺れてしまったら、どうやって助けたらいいの?」ということ。これはもうプロの話を聞かないと、となって消防署に「教えてください」とお願いしました。

―――おお~、現実的な行動!

消防署が講座をひらいてくださることになったのですが、申し込みは団体でお願いしますといわれたんですね。

それで、「じゃあサークルにしようか」「ほかにも聞きたいお母さんがいるだろうから、声をかけてみようか」と、チラシを配ったり、タウンプレスのようなものに掲載されたりした結果、あれよあれよという間に5、60人集まって。

―――成り行きのようでもあり、必要に迫られていたともいえるサークル結成秘話ですね。

そうなんです。ただただ、「赤ちゃんが浴槽に浮かんでたらどうしよう」という不安を解決したい一心で(笑)。

集まったお母さんたちと話して気づいたのは、「子どもとしっかり向き合いたいけれど、完全にキャリアを捨ててしまうのはつらい」というジレンマや、「一日中 “〇〇ちゃんのママ”  “奥さん” として過ごしていて、自分が透明人間になりそう」という不安感を抱えている人が多いこと。

何より、すごい経歴をもっている方が多かった! 「ここだけで会社ができるんじゃない?」と思うくらいでした。女性のキャリアが途切れてスキルを眠らせておくのは、社会にとっても損失ですよね。

女性にとって、「私」の居場所を確認するのが仕事なんじゃないかな、その手助けができるんじゃないか? そんな気持ちが、グランジュールにつながっています。


◆「ぴょんっ」と飛びます

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2020年8月、惜しまれながら閉店したLinus&Co.Veggy(ライナス アンド コー ベジー)。親子の笑顔があふれる場所でした。

―――大学の環境設計学科ご出身で、独身時代は設計事務所などで勤務。その後、焼き菓子の製造販売やカフェの経営、そして起業サポートと、吉武さんのキャリアはとてもユニークですね。

自分でも、人に説明するのが難しくて(笑)。地域コミュニティというものが核にあるのかなと思いますが。

―――焼き菓子の販売やカフェの経営も、子育て期に始めたことですよね。

そうなんです。「やってみない?」「お願いできますか?」とお声がけいただいたのがきっかけですね。

―――そんなふうに、新しいことを始めるときの感覚を音で表すとしたら?

ぴょんっ、って感じですね。

―――軽やか!(笑)

軽いですね。「ダメだったらやめよう」くらいの感じで、けっこう気軽に「ぴょん」といっちゃう。

―――気負わないんですね。

良く言えば、「できるんじゃないか」と思う範囲が一般的な感覚より広いような気がします。どうにかすればできそう、と思うんじゃないかな。
裏返すと、子どもみたいなところがあるのかも。ちゃんと後先を考えてない‥‥。
パン作りにハマって、乳児を置いて広島まで習いに行っていたこともあります。

―――えー!

かげんを知らないタイプなんです(笑)。
当時、白神こだま酵母のパン作りを教えてくれる方が福岡にいなくて、一番近いのが広島で。小さい子がいたら「広島か~」と断念する方も多いですよね。でも、私の中では「東京まで行かなくて済んだ、よかった!」みたいな(笑)。

―――それは、パン作りの仕事のための投資だったんですか?

全然~。ただただ美味しいパンを家で焼いて食べたかったんです。アレルギーのあるうちの子でも食べられるパンだったし。

◆ 「解決したい人」なのかも?

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―――お話を聞いていると、吉武さんは問題を解決する力が卓越していますね。
子育ての不安解消のために消防署に講座をお願いする。食べたいパンを作るために遠くまで習いに行く。「やってみたい」を助けるためのグランジュールのスキーム。みんなが一緒に食べられるおやつ。カフェ閉店後の自動販売機での販売‥‥。

「困るよね」「こうだったらいいのに」と口にするだけであきらめてしまわず、ソリューションまで考えて実行できるのはすごい!

そう言われれば、「どうしたらいいだろう?」と考えるのは得意分野かもしれません。
「設計士になっておしゃれな建物を建てたいな」と環境設計学科に入ったんですが、デザインの才能がまったくないことがわかって。私が描くと、ミッフィーちゃんが住むおうちみたいになっちゃうんですよ(笑)。

―――えーっと、屋根が三角で、下が四角い感じの‥‥。

そうそう(笑)。ほんと、ぞっとするほど向いてなかった(笑)。
でも、ソフト面はとても評価されたんです。

「お母さんは家の中でこんなふうに動くよね」とか、「子どもたちが学校で友だちと仲良くしやすいように」とか。いろんな状況を考えて「こんなとき、ここにこれがあったらいいよね」と提案する。
デザインはともかく(笑)、そういうところはもともと得意だった気がします。「解決したい」という気持ちが強い人間なのかもしれないですね。


◆ 正しさよりやさしさを

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―――リーダーとしてはどういうタイプですか?

アメリカのベンチャー企業の社長のような、ピラミッドの頂点にいてみんなを引き上げてくれるような強いリーダー‥‥ではなくて。

―――ではなくて(笑)。

私は「最前線にいる人」だと思っています。みんなと同じ地平に立っていて、「ちょっと先に見てくる」ってターッと走っていって、「この道行けるよ~」とか「ここはダメそう、別の道がいいかも」とか言う人。これをリーダーと呼ぶのか、よくわからないけど(笑)。
むしろ、「頼りなくて放っておけないから」といろんな人に助けてもらっています。

―――そんな吉武さんが好きだから、コミュニティが続いているのだと思います。

そうでしょうか‥‥。ありがたいです。
私、イヤなことは全然できなくて。子どもの頃から、みんなが普通にできるようなことを続けられなかったりして、自分はダメだなあと思っていたので。

―――人とかかわるうえで、大切にしていることはありますか?

「正しさよりやさしさ」ですね。
私自身はもともと合理的な性格で、無意味だと思ったらあっさり切り捨てたりするようなところがあるんです。でも、人に対して同じことを求めちゃいけないんですよね。若いころに何度か失敗して思うようになりました、やさしさが大切なんだ、って。

―――グランジュールでは、これから個人事業を始める方など、小規模自営業者さんをいろいろな面でサポートされています。

私自身、「起業あるある」な落とし穴にひととおり落ちてきたので(笑)。友だちに言われて安くするとか、夜中でも延々と相談に乗るとか‥‥。これから始める方は同じ穴に落ちる必要ないよねと思って、お伝えしてきた感じですね。

―――デザイナーやイラストレーター、カメラマンや行政書士などが支援してくれるメニューもありますね。そういった専門家はどのように集まってきたのでしょうか?

さまざまですね。グランジュールに登録してお仕事を始め、キャリアを重ねて、今ではチームの主力になっている人。最近は、地域貢献や応援の意味もこめて参加してくださる人も多いです。


◆ やさしい人たちに助けられてきました

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―――もぐもぐぽけっとのドーナツの自動販売機の設置までには、いろいろな人のサポートがあったそうですね。

そうなんです! ただお金を出して場所を借りて契約して‥‥じゃないんです。たくさんの人が「よろしくね」の輪をつなげてくれて実現したこと!

オープンの日にはたくさんの人が来てくれました。カフェをやっていたころは赤ちゃんだった子が、トコトコ歩いて自販機のボタンを押してくれたりして‥‥涙が出そうでした。
オーナーは私だけど、「私のもぐもぐぽけっと」ではなく、地域でかかわってくれたみなさんの力でできているんだなあ、とつくづく思います。

―――もぐもぐぽけっともグランジュールも、吉武さんのまわりにはやさしい空気が流れています。

本当に、やさしい人たちばかりです。不思議なくらい。

―――グランジュールは、登録時に何か審査をしたりは?

しません! 「入りたい」と言ってくれたらウェルカム。
ジャッジしたり、比べたりするのは苦手です。そこは私のこだわりかも。
そういえば、グランジュールのみんなも、比べたり競ったりしないなあ。
たとえば同じデザインチーム内でも、「こういう仕事はあの人が得意だからまかせよう」のように譲り合ってうまくいっています。それがとても心地いいですね。

―――なかなかないことですよね。我先に飛びついて少しでも多く稼ごうという世界のほうが多いかも。

そうやって勝ち取るためには、どうしても他と比較したりされたりになりますよね。
人より秀でたものがなければ仕事がもらえない。それってなんだか息苦しい気がして。人には、スキルが高いとか低いとかじゃない価値があるんじゃないかと思ったり‥‥。

お金を稼ぐのは大切なことで否定するつもりはまったくありませんし、私もビジネスコンテストなどで「選ばれる」ことをめざしたりする機会もあるのですが。

―――吉武さんにとって、働くモチベーションは何ですか?

お話ししたように、気軽に「ぴょんっ」といくタイプなので、崇高な志を掲げて‥‥というよりは、そのときそのときのご縁や課題、「何かできそう」という気持ちで歩んできた感じです。
結果的に何かお役に立ててきたから続けていられるのかなと、ありがたく思います。

―――これからの目標はありますか?

事業を自走持続していくことですね。お客様や社会に対する責任だと思っています。
それから、最近、店番をしてくれたり、「ヨシタケを休ませるために手伝うよ」と言ってくれる方が増えてきて、本当に有難いんです。今は甘えさせてもらっているけど、そういう方たちにも報いることができるようにならなきゃ。これからも前を向いて進みます!

(おわり)

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編集後記

「より稼ぐため」の果てしない競争が人を幸せにするのかな?と最近考えていたので、お話に共感するところが多々ありました。ベーシックインカムのような話にもつながるのかも‥‥?
グランジュールは、フランス語で「特別な日」という意味だそうです。今は大変でも、いつか振り返ったときに「かけがえのない日々だったな」と思えるようにと。それは吉武さんからのメッセージでもあり、吉武さん自身の人生なのかもしれません。
(イノウエ エミ)


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