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【「虎に翼」メモ】第1週「女賢しくて牛売り損なう?」

「朝ドラも10年以上見たし(半分近くは挫折してるけど(笑))、そろそろ引退かな~」と思ってるときにまたおもしろい作品があらわれますよね。

こんなにつかまれた朝ドラ第一週は久しぶり! 
伊藤沙莉の寅子めちゃキュート。
男と女、女同士の溝を描くが、安易に分断として描かないのが素敵である一方、ハレーションの極小化で食い足りなくならないよう願ってます!

「虎に翼」、ロゴデザインのフォントが縦長で、「翼」の字に目がいく。
「異」の上に「羽」をつけて「翼」なんだよなーって。

以下、大きく2つにわけて。

①日本の女性初の弁護士になる(んだよね?たぶん)という人を描くとき、女性差別を描くことから逃げてない

“朝ドラの作品カラーは3話目であらかた見通せる”
というのが朝ドラウォッチャーとしての私の持論なんですが(笑)

今作の3話目で描かれたのは、どうしてもお見合いに胸躍らず、人前での母や父の振る舞いにモヤモヤしてる寅子が「既婚女性は無能力者」という明治の民法を知って衝撃を受ける姿です。

・男女が同じように生きられない世の中
・その根幹に「法」という簡単に動かせない社会構造があった(ある)こと、
・その理不尽にまっとうに驚ける主人公

うーん、期待できる。

上掲3つ、現代にもまだまだスライドできるんだけど、そのことに驚いたり怒ったりすること自体が難しかい面もあるんですよね。

社会構造や社会規範は所与の条件で、人はそれを「当たり前」として育つし、「当たり前」と思っていたほうが生きやすかったりもするから。

それは、5話で母はる(石田ゆり子)が寅子の両腕をつかんで揺さぶりながら説得しようとする言葉にも端的に表れている。

「頭のいい女が確実に幸せになるためには、頭の悪い女のふりをするしかない」

感心するのは
「現実的に、家庭で権力を握ってるのはお母さんじゃん」
という“よくある反論”みたいなことまで一週目に描ききってる点。

兄の披露宴の場面、寅子が歌うのは「カカア天下」の歌で、屈託なく立ち上がって盛り上がる男たちと、控えめに微笑みながら手拍子をするだけの女たち、立ち上がろうとしてたしなめられる女の子(男の子は止められない)‥‥
あの晴れ晴れしい場に漂う欺瞞!

ここ、笑顔で歌いながら、内心怒りのボルテージが徐々に上がっていく寅子のモノローグ最高だったんだけど、このドラマのモノローグ(ナレーション)は伊藤さん本人がつけてるのかと思ったら尾野真千子なんだね! 少し声が似てる。

小林薫がキーパーソンで出てるところといい、「女の抑圧とエネルギッシュな主人公」といい、私たちの名作朝ドラ『カーネーション』を彷彿とさせて胸が熱いです。

②溝を描くが、安易に分断として描かない

寅子の法科進学の道をひらくのは穂高先生(小林薫)だし
最初に応援にまわるのは父(岡部たかし)。

家父長制の理不尽を描くけど、家父長個人を悪者にしない。

「女より男のほうが賢い」というアンコンシャス・バイアスを披歴してしまう桂場(松山ケンイチ)に“無類の甘い物好き”というかわいい(≒男らしくない)設定を与えているところも手練れだな~と思う。
優三(仲野太賀)も優しい。

男と女を分断させてない、
だからといって「女の敵は女」にもしない。

女学校時代に結婚するのが夢で「女はしたたかに生きなきゃ」が信条の花江は親友で、
良妻賢母を絵に描いたような人生を送る母はる(石田ゆり子)も
桂場を相手に「そうやって女の可能性の芽を摘んできたのは誰?」と啖呵を切り、寅子に六法全書を贈る。

この場面の石田ゆり子、かっこよかったね~

主要人物がみんな賢いのもいい。
「賢い人とそうでない人の対立構造」みたいな描き方をしない意思を感じる。

個人的にちょっと肩透かしだったのは

寅子と母はるの関係。

「敵かと思いきや、互いの優秀さを理解し合っている一番の同志」
ってところに落ち着くの、早っ!早すぎ!

相手に対する理解とリスペクトを的確にロジカルに言語化できるのは
寅子の弁護士の適性を表しているし、母はるが同じ資質を持っているのも不思議じゃないとはいえ

「実はお互いに理解し尊敬し合っている」
「がしかし、そう簡単に愛と尊敬だけで回収できないのが母娘関係」
みたいな描き方をしてくれてもいいんだけどな~?

連続ドラマに折々のカタルシスは必要だけど、
「ハレーションを長引かせない」
「視聴ストレスは最低限に」
みたいな方針は、2010年代半ば以降の朝ドラ、ひいては日本のドラマの過剰適応でもあって、それが日本の作品の「薄さ」「食い足りなさ」につながっているところもあると思う。

<おまけ>

・春休み中の息子13歳の反応①

3話目の主題歌を聴きながら「これ、良い歌やな」

うんうん。米津さん相変わらずのメロディメーカー。そしてやっぱり歌うまいよね。
「口の中 はたと血がにじんだ 空に唾を吐く」
の歌い方ぐっとくる。

・息子13歳の反応②

猪爪家での食事会や披露宴を見て「これって何年?」

私 「昭和6年か7年のはず」
息子「昭和の初め、こんなに栄えとったんか」
私 「そう、都会の一部だけどね。ここから戦争が激化してめちゃくちゃ貧しくなり東京は焼け野原になる」
息子「つら」

うんうん。
今後の日本もそうならない保証はないんよね。

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