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選挙活動は民主主義の場 / 『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』和田靜香

フリーライターの和田靜香さんが、香川一区から衆議院議員に立候補した小川淳也さん(現職)の選挙活動をルポタージュした本。日記形式のカジュアルな筆致は、人のブログを読むようで楽しい。毎日「今日食べたもの」も記録されてるよ。

東京都民の和田さんは香川一区ではまったくの「よそ者」であり、政治や選挙の「しろうと」。

「選挙カーなんてうるさいだけ」
「どぶ板選挙って必要なの?」
「選挙期間に活動を休む日がないのはおかしくない?」

など、多くの一般市民と同じ感覚をもっている。
こういった素朴な、そして正解がない問いを「問いっぱなし」で終わらず、知識を増やしたり、いろいろな人と語り合うことが大事だと思う。
現場に密着し、ビラ配りや電話がけなどを自分でもやってみた和田さんの所感は、一読の価値あり。

私は何度か選挙のボランティアをしたことがある。
その経験上、本書でとても共感したのは、「選挙活動は民主主義の場」というところ。

選挙活動では、「どんな活動をすべきか?」と議論しがちだけど、もしかしたら、「どうやって/どれくらい民主的な活動を行うか?」という論点も同じくらい大事かもしれないと思うのです。

ビラ配り、選挙カー、SNS更新‥‥どんな活動をするにしろ、選挙には「人手」が要る。「人手」を差し出すのは人だ。人が集えばいろんなことを語り合い、心を響かせ合う。それが民主主義の力の源泉になる。

同時に、人が集えばトラブルが起きるし、取り残されたり傷ついたりすることもあるだろう。スタッフも、ボランティアも、候補もだ。
そんなとき、話し合ったり、誰かが仲裁したりして、何らかの合意を形成し解決したり、現実的な妥協をしたりできること。
それが民主主義の力であり、政治そのものじゃないだろうか? 
私は、そういうことができるチーム力を持った政治家に政治をやってほしい。

そして実は、「民主的なチーム力が試される」という意味では、職場や地域活動などとも、案外変わらなかったりする。
デキる上司や雇用主なら、チームのパフォーマンスを上げるために面談をしたり心理的安全性を確保したりとあれこれ工夫するだろう。
本当にデキる営業パーソンは押し売りしない。常に顧客に真摯・親身であり、心遣いにあふれている。
それらは結局、民主的なアプローチを大いに含んでいるのだ。

一般人が選挙に距離をおくのは、選挙に非民主的な空気を感じ取るからじゃないか?と私は思う。
だから、「あなたのペースや意思を尊重しますよ。聴きますよ」というメッセージを言動で示し続けることで人を政治に近づけることができるはずなのだが、選挙は短期決戦で、勝つのが至上命題だからいろんなものを看過しながらブルドーザーのように猛進するしかないところがある。

であれば、掲示板にポスターを貼るより前から、民主的な活動ができる素地を作っておくことが大事なのでしょう‥‥
言うは易し、やるは難しだけど、「地盤・看板・カバン」をもっている候補や統一教会など特定の団体を動員できる候補に勝つには、結局それしかないのでは。

さて、チーム小川淳也の民主主義力はどうだったか?
選挙戦最終盤の「タスキ事件」がとても興味深い。

小川淳也の家族は、「妻です」「娘です」というタスキをかけて、選挙活動を手伝っていた。よく見かけるやつですね。
筆者和田さんが投げかけた「そのタスキには家父長制の匂いがする。ジェンダー平等の観点から違和感がある」という疑問が大きな波紋となり、選挙事務所で話し合いがもたれ、候補の妻は泣き、小川さんと和田さんは激論になる。

結果、タスキがどうなったかは、本書のクライマックスのひとつでもあるので伏せることにして、和田さんの所感を、共感しつつ紹介したい。

「「50歳、男性の、国会議員」が、ジェンダーの問題をこんなに怒るほど「我がこと」として考える経験、しかも選挙中に有権者に言われるなんてめったにないことで、とても大事だったのでは?」
「選挙が民主主義や政治、社会を学び実践する場でもあるなら、候補者だってそうであってほしい」
「私自身、ジェンダー問題と同時に、選挙が抱える地域性の問題、選挙運動そのものについて深く考えることになった」
「総括すれば、どっちにしろ「対話」が重要だったと私は思う」

対話はめんどくさい。
時間的にも感情的にも負担になる。
対話をベースにした民主主義は、本質的に手間ひまのかかるものなのだ。

けれど、独裁や人権無視がまかりとおる社会ではなく、民主的な社会を望むなら、手間ひまをかけていくしかない。
より多くの「しろうと」や「よそ者」が選挙や政治にかかわって”自分ごと”にしていく、そのための手がかりが多い本だと思う。
小川候補の日々の選挙活動スケジュールや街頭演説の内容、候補と小泉今日子とのインスタライブ(!)の書き起こしもあり、資料としても有益な一冊。

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