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坂本龍一を語るなら

私は坂本龍一の良いリスナーではなかった。知っているのは有名なほんの数曲だけだ。

私が彼の名前を見ることが増えたのは震災のあとからで、大河ドラマのオタクとしては2013年『八重の桜』の主題歌でお世話になった。美しい曲でした。今でもすぐ思い出せる。全編、悲愴感に貫かれているから、ラストの穏やかさが沁みるんだよね。

これも、福島が舞台だから受けた仕事だろうと想像する。彼は反原発を掲げたフェスを開催し、首相官邸前でのデモにも参加していた。

とりわけ心に残っているインタビューがある。

「こんなことを言っても生産的ではないかもしれないけれど、やはり犠牲を払って自分たちの力で民主主義を獲得してきた長い歴史をもつ国と、戦争に破れて他の国からそれをいきなり与えられた国とでは、それを守ろうという人々の意識や意志がずいぶん異なると感じます。じゃあ今の日本はどうしたらいいかというと、すぐ答えは出てこないのですが」

「ただ、ここまで憲法がないがしろにされ、民主主義の屋台骨が壊されているのだから、それを復活させる、再構築することが市民の急務で、その行為を通して民主主義が血肉化したものになっていく可能性はある」

(「社会問題や政治に関心があるのに友人と話しにくい」と感じている若者に対して)
「ほんの少しの勇気でいいんじゃないかな。一度しかない人生なんだから、自分に嘘をつかずに生きていきたいね。自分を大切にする気持ちがあればこそ、言いたいことは言わないと」

2018年インタビュー「坂本龍一に聞いた、政治とアート」

先月は、小池都知事らに向けて、明治神宮外苑地区の再開発の見直しを求める手紙を送っていた。
メディアへのインタビューには書面で答えている。それほど体力が衰えながら発した手紙なのだ。

「樹々は差別なく万人に恩恵をもたらすが、開発は一部の既得権者と富裕層だけに恩恵をもたらします」

「厳しい闘病を続けてきたので、再開発について発言する気力も体力もありませんでした。いまはさらに体力が減衰し、開発反対の運動に全面的にコミットする力は残っていません。しかし、未来のことを考えた時、あの美しい場所を守るために何もしなかったのでは禍根を残すことになると思いました。後悔しないように陳情の手紙を出すことにしたのです」

東京新聞 「大切な故郷、東京が美しく魅力的な場所であってほしい」坂本龍一さんインタビュー詳報

世界中のメディアが一斉に彼の死を報じ、世界中のアーティストやジャーナリストたちが悼むツイートを上げている。
日本のメディアは、彼の音楽的功績だけでなく、彼が著名人としての影響力をどのように行使しようとしたか、その発言や行動を報じてほしい。

そして、彼を悼む人は、必ず選挙に行きましょう。

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BTSのRMとシュガは、ごく若いころから坂本龍一の音楽に傾倒していたとたびたび話している。
坂本より40歳以上も若く、「アイドル」と呼ばれる彼らが、そのへんの日本人よりも詳しく慕わしく坂本の音楽を聴いている様子に、ファンになったばかりのころは驚いたものだ。
(まもなく、彼らが世界中のさまざまなアーティストの音楽をよく聴き、影響を受けていることを知るわけだが‥‥)

昨年9月に来日した際、シュガは坂本と対面している。
その前後だろう、東京のホテルでシュガが弾いた「戦場のメリークリスマス」のリール動画には、坂本龍一本人も「いいね」をつけていた。
(坂本はRMとシュガのインスタをフォローしていた)

つい1,2か月前、坂本龍一のサイトに「私が好きな坂本龍一10選」も寄せるなど、あこがれの人と親交を重ねていたシュガ。
訃報が出て間もなく、インスタグラムとファン向けのプラットフォームにコメントを上げた。

「先生の遠い旅が安らかであることを祈ります」

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