『エルピス』6話 真実だった恋、あふれる才能という厄災
合鍵で入った女の部屋でビールを飲んで寝入り、そのソファで後輩男子が寝ていたと聞かされて甘やかに怒って見せながら、そのまま色っぽい戯れにもっていく斎藤! 開始7分で吐き気をもよおしましたw
狡くて魅力的な男を「好きになりすぎてしまった」という浅川(長澤まさみ)のモノローグに震える。そんなに好きなんかい!!
でも、もっと衝撃的だったのは、斎藤のほうも本気で好きだった、ってこと。しかも、浅川の自分に対する懐疑心や怒りまでわかっていて、「そんな君をこそ好きだった」、「きっとこれからも変わらない」とまで書いていたこと。
最後のメッセージを送って大門のところに戻る前、斎藤の貌には確かに痛みがあったと思う。
別れる段になってやっと斎藤から「言葉」が出てきたが、それはメッセージアプリで伝えられるのだった。
浅川は電話をかけて、「声」でやりとりしようとしていたにもかかわらず、斎藤からはLINEで返ってくるのが示唆的。
浅川と斎藤のコミュニケーションはセックスであり、また美食や映画や指輪のようなフォーマット化されたデートで、そこに自分たちの言葉は介在していなかった。
私はふたりのそんな関係に欺瞞を感じていたけれど(そう感じさせる演出だったと思うけど)、ここにきて、そうじゃなかったのかもしれないと思わされた。
ふたりが互いに強く思い合っていたのは確か。
だったら、その関係は真実のものだったといえるのかも。
考えてみれば、政治案件の匂いがぷんぷんする冤罪事件が絡んでいるのが特別なだけで、大切なことを言葉にしないまま続いている恋人や夫婦なんて珍しくもなんともない。
だからって、それを惰性だけで続いている欺瞞的な関係だとはいえない気がする。
「真実」はこのドラマのキーワードのひとつで、浅川も岸本もそれを追いかけ、明らかにしようとしている。
真実は最初からひとつしかなく、疑いようのない形で存在しているのだと、視聴者の私たちも思い込んでいる。
でも、真実ってそういうものなんだろうか?
このドラマが描く「真実」って、そんなに簡単なものじゃないかもしれない。
アナウンサーとか、報道局から政界に進出するってこんな感じなのかな、と興味深いものがありますね、斎藤。
「相剋の関係」とか「生半可な情理では埋められない」とか、令和ジャパンの閣僚が束になっても書けなさそうな知的な文章を見ると「斎藤くんを日本国の総理大臣に任ずる」と言いたくはなるw
もとは斎藤もまっとうな報道人だったらしいのに、心底好きな女をさくっと切ってしまうくらい、政治つまりそれがもつ「権力」とは魅力的なものなんだろうか?
村井プロデューサー
「斎藤って男はな、(政治の)素質がありすぎるんだよ。自分でも気づいてる」
その素質は、浅川のモノローグが的確に言い表してた。
政治の素質って「うまいこと忖度させて相手を支配する能力」だと言っているよう。
そういう能力は、政治の場に限らず、上司が部下を、親が子を、また斎藤と浅川のように恋人同士でも、強い者が弱い者を支配するときに使われているんだろう。
「人は政治からは逃れられない」ってのは、そういう意味でもある…
そして、斎藤のようにその能力に特別に長けた者が、「権力闘争の現場としての政界」に身を投じるってことなんだろうな。
銀座の寿司屋のカウンターで、「株で儲かったから」と言いながらエンゲージリング(的な指輪)を渡し、相手を惑わせる能力‥‥
でも、斎藤のような男は、それしかやり方を知らないんだろうなとも思う。
真摯な言葉を使って上下も裏表もない関係を作れるなんて、想像もできないんだろうなと。あるいは、昔は知っていたのに、忘れてしまったのかな。
こんな非日常なセリフをするっと溶け込ませるこのドラマの世界観が本当にすばらしい。
浅川の答えも最高だった。
これは斎藤のLINEを見る前に出した結論で、ようは二人とも、心から好きな相手よりも、自分の人生を賭けるものが別にあったんだよね。
だから、別れは必然であり、対等だったなと思う。
とはいえ、男は権力の階段をのぼってゆき、女は権力構造を揺さぶるべく、勝ち目の薄い闘いに挑んでいくんだけどね。
愛し合っても、セックスと別れは対等でも、背後には、力のある者とない者という権力構造があることから目をそらさない脚本だ。
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