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『ブギウギ』第11週「ワテより十も下や」・第12週「あなたのスズ子」・第13週「今がいっちゃん幸せや」

吉本(劇中は村山)興業の跡取り息子、愛助が登場して3週目。水上恒司がブランクをまったく感じさせない滋味深い演技を見せていますね。

「福来スズ子エモい」が全身から染み出しているオタクであり、女性へのまっすぐな恋情と、国の非常時に役に立てない劣等感に身をやつす若者であり、小柄なスズ子を抱き上げて逃げる逞しさも、結核に苦しむはかなさも、さらには9歳も年上のスズ子を寄りかからせ、前進させる包容力すら持ち合わせて矛盾のないこの演技!この魅力!(ここまでひと息)
そうです、私、水上さん大好きです!!!

岡田健史という名でデビューし、すぐにいくつもの作品で話題になったものの、裁判を起こして事務所と契約を巡って争い、その後和解に至って退社、名前も本名に戻しての再スタート。

岡田さん、もとい水上さんは2021年後半から2022年はほとんど活動できなかったはずですが、能年玲奈さんやSMAPは言うに及ばず、この業界の慣習を思えば、短い期間で地上波しかも朝ドラのようなメジャーな枠に戻ってこられたのは喜ばしい限りです。

閑話休題。
愛助について、「わろてんか」のてんちゃん(葵わかな)と旦那(松坂桃李)の息子だと思うと愛着がひとしおの方もいらっしゃるでしょうが、私は早い段階で「わろてんか」をリタイアしちゃったんだよね‥‥

今回、吉本興業の創業者、”せい”をモチーフにした村山トミは、「こんな小雪が見たかった」という彼女のハマり役。
壮年の部下を震え上がらせる目力や叱咤、ブルースの女王・福来スズ子を呼びつけておいて「今すぐ別れろ」とは言わずに忖度させる交渉慣れした様子(スズ子と愛助がバカップルなので失敗していたがw)。

当時の興行界はほとんど裏稼業、その社長ともなれば、「女丈夫」という言葉が思い浮かぶような、この迫力が必要だったはず。
それでいて、愛助への手紙(「ここ、涙流して笑うとこでっせ」)や「わては〇〇が一番嫌いなんや」の3回連続のたたみかけなど、ユーモアも持ち合わせている様子がいい。法被の色が紫なのは「はな湯」のツヤさんとのリンクが念頭にあるはず。
本当に、女性キャストの魅力を活かした朝ドラだな。

女性キャストといえば、ここまで見て来た小夜ちゃん(富田望生)の人物造型もユニーク。
当初、「弟子になりたい」と押しかけてきたときは、天涯孤独で親の愛情に飢えた気の毒な身の上、スズ子に庇護される役どころかと思いきや、年端もゆかぬ頃から奉公に出たことで、世知に長けている。
それだけでなく、男性に対して強い不信感や抵抗感をもっていて、それをあらわにする(というか隠せない)たちという。

愛助登場時、彼を疑い、さんざっぱら悪態をつく様子はあまりに極端だなとも思ったけれど、今週は出色だった。
防空壕で赤ちゃんが泣きだすと、中高年男性が母親をなじり、母親が怯えて平謝りする‥‥戦時中のドラマによくあるそんなシーンで、
「泣き声が敵機が聞こえるわけないっぺ。本当は泣きたいのはおめえなんじゃねぇのか、怖くて怖くてたまらないんだろう」
と、間髪入れず大声で反駁するのだ。

その後、愛助に促されてスズ子が「アイレかわいや」を歌い、防空壕の中が和んで「スズ子さんの歌でみんなが人間に戻った」となるための前座のようなやりとりだったけれど、私としては小夜ちゃんもスズ子と同じくらいたたえられて欲しい。
ああいう場合、女性(若い女性)がとっさに言い返すのがどれだけ難しいか‥‥

このように、今作の女性に関する描き方や
「歌がどんな役割を果たしうるか」
というテーマとの向き合い方はとても好感がもてるのだけれど、
社会への目線という点ではちょくちょく首をかしげるところがある。
今週もっとも「それでいいんかい」と心の中で突っ込んだのは

「空襲さえ日常になる中、スズ子も愛助も、一日一日を一生懸命生きていました」

というナレーション。
はぁーーーー😩ってなった。

いや確かにそうなんだろうけど、このモヤモヤ感!わかってくれる人います?
「配給これだけや」
「あるだけマシやん」
「お腹空いて寝られん」
「何食べたい? ぜんざい、うどん‥‥」

って、おまえら笑ってる場合かー!!!
投書やデモのひとつくらい、せんでいいんか?!?!

や、笠置シズ子のドラマでやるのは史実に反するだろうし、当時そんなことできる状況になかったのはわかるよ。

でも、一連の戦争描写を見てると、公務員(赤木さん)が自殺しても、多くの疑獄を残して亡くなった元首相の国葬が営まれても、物価が上がりマイナンバーカードを強制され、中東で2カ月半で3万人の市民が殺されその半数近くが子どもでも、

それはすべて、自分の領分の外の話だってことで、何ひとつ抗議せず粛々と受け容れ、自分の一日一日を慎ましく一生懸命生きるんだよね。
「それしかできない」と思ってるんだよね。

と、このドラマの作り手の‥‥というか、現代の日本人の集合意識をまざまざと感じて、この調子じゃ将来は暗いな、と思ってしまう私もいるんだわ。

あと、「アイレかわいや」はのどかなようで、南の島に対する日本人版オリエンタリズム&植民地主義が包含されていますよね。
実際に笠置さんが当時よく歌っていただろうけれども、劇中でここまでフィーチャーするのはどうなの~
「大空の弟」にはとことん批評性をもたせておいて、「アイレかわいや」は単に平和な歌ですよ~って描き方は欺瞞じゃないの?

などと、めんどくさくモヤモヤしつつ、同時に、水上恒司に沸いたり小雪や菊地凛子にみなぎったりしつつ、来年も「ブギウギ」を見る予定です。。。

って、長いね。長ぇーよ。
結核がうつるといけないから、くちづけではなくておでこコッツンなんだろうね。


そういえば、右の坂口を演じてるのはお笑いコンビの人らしいですね?完全に専業の俳優さんだと思いこんでた。うまいよね

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