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ドラマ『大奥』医療編前半 中心と周辺の協働の末…

これこれ、これなのよー! 時代物且つファンタジーだけれど、現代でやるにふさわしい物語。日本でもこういうのができるんだ!という喜び。

男女逆転大奥、つまり江戸城の主は女たち。
将軍も老中も側用人も女が独占して、権力をふるい手腕を発揮する。
意思決定して国を動かすのも、跡目争いに血眼になるのも女。
敵対や協力、陰謀や暗躍、憧憬や紐帯もすべて女たちのもの。
地位にふさわしい能力をもつ女も、そうでない女もいるが、とにかく高い地位には女ばかり。

文章で説明すると奇抜で異様だけれど、女を「男」に、江戸城を「国会」などに変えれば、ほぼそのまま現実だ。
私たちは何の疑いもなくその世界を受け容れてきた。
政治は男の仕事で、女にはできない、向いていないと。
「そんなの思い込みに過ぎなかったんだよ」と教えてくれる、それが物語の力。

「ワクチン編」ともいえる、この「医療編」前半では、大いなる成功と挫折が同時に描かれていく。

大いなる成功は
3代将軍家光の時代に男女逆転が始まる原因となった「赤面疱瘡」なる感染症が、紆余曲折の末、ワクチン(人痘)接種によって克服されること。

(びっくりするよね。このワクチン編は、2012~13年に連載されたもので私が原作で読んだのもコロナ禍の「コ」の字もない頃でした…)

大いなる挫折は、
感染症克服のため、リスクを負って未曽有の大事業に邁進した3人が、
いずれも非業の最期を迎えること。

3人の1人目
田沼意次は智も仁もある政治家で、オランダ人の血を引く青沼や面妖な平賀源内を信頼し、積極果敢に登用するが、主君家治を毒殺で失い、浅間山の大噴火やそれに伴う大凶作も重なって求心力を失い、政敵に追われる。

松下奈緒、貫禄あった。美と落ち着きだけでなくウィットもあるたたずまい。低めの声で話すのが良い。

ちなみに、史実にも原作マンガにもある、嫡子・田沼意知(この物語では女ね)が江戸城内でメッタ刺しにされて亡くなる事件は、ドラマでは省かれていましたね‥‥。

2人目、青沼は、大奥でくすぶる男たちに蘭学を教え、西洋医学で人々の治療にあたる。ワクチン接種にも労多かったが、田沼の失脚とともにすべての責任を負わされ打ち首に。
村雨辰剛、「カムカムエブリバディ」に続いてハマり役だった。

3人目の平賀源内は、
天才的な発想だけでなく足を使った精勤ぶりでワクチン接種実現の立役者となるが、田沼の政敵が差し向けたゴロツキに暴行され、梅毒をうつされて無念の死に至る。

そもそも平賀源内を「男装の女性」に設定した原作に恐れ入るが、鈴木杏のすばらしさよ‥‥!
少年のように闊達で、英雄のように情熱的。
男女逆転大奥という現実から飛躍した物語にあっても、ひときわ異彩を放ち魅力あふれる源内を見事に演じていた。

梅毒だと知らされたシーン
死の床で黒木を迎え、夢が現実になったのだと喜ぶシーン
泣いた、泣いたよ。

「青沼さんに会いたいなあ‥‥」
みずからの命が今にも尽きることを悟りながら、つぶやく源内。
けれど、読者(視聴者)は、すでに青沼が亡き者であり
ほどなく二人が黄泉の国で再会するのを知っているのだ(号泣)

ふう。鈴木杏‥‥どんな作品でも必ず期待以上の演技を見せる役者だ。
安藤サクラと同じくらい、日本を代表する女優として国内外から評価されてほしいんですけど???

黒木を演じた玉置玲央、伊兵衛を演じた岡本圭人もよかったね。
松方は前田公輝。「ちむどんどん」と同じく、ちょっと残念な人物を演じる。

赤面疱瘡は、新型コロナよりずっと激烈な病で、子ども~20代ぐらいまでの若い男子のみ罹患し致死率100%という設定。

能力にも人格にも恵まれた老中(女)
異邦人として差別を受けてきた男
そして型破りな天才(男装の女)

社会の中心にいる者と周辺におかれた者たちの協働で業病の克服が成ったのだが、権力システムとそれにまつわる人間の愛憎、地震や噴火、つまり人災と天災のコンボによって、大事業の代償を当人たちが払うことになるという‥‥。

この容赦のない、しかし説得力のある物語を紡ぐ原作者(よしながふみ)、
また、その名作をドラマにまとめる脚本家(森下佳子)も
そろって女性なんですよね。

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