2018年10月公開小説表紙_決定_

『夜の花嫁』第六話


 2012年1月21日。

 荒い呼吸ががらんどうの家に響く。
 外では水っぽい雪が降っていて、窓は中と外との気温差によって結露している。石油ストーブは僕らの呼気と同じくらいの声量で忙しなく部屋に生暖かい空気を吐き出していた。

 曜の真っ白な肢体は、僕に家の前の砂利道に積もる雪を想像させる。触れると汗で微かに滲んでいるのが余計に雪のようだった。

 背中の側から裸の曜を抱きしめて、その長くて黒い艶やかな髪に顔を埋める。曜のにおいはいつでも僕を安心させてくれるんだ。赤い屋根に薄い黄色の壁の、アイコンとしての「家」とか「家庭」を想像させる、奥行きのあるにおい。
 幼稚園児のお絵かきに出てきそうな家のにおい。

 そこに今は、リアルな人のにおいが混じっていた。

 曜のあえぎ声が外に降る雪に溶けていくのを聞きながら、僕は動くに任せて腰を振る。
 右手を控えめな彼女の胸にかぶせてゆっくりと力を込めていく。曜の口から漏れる声が大きくなるに従って、今度は人差し指と親指で、その中心にある筈の薄い桃色の乳首をつねる。また声が大きくなる。

 曜がこちらを振り返った。

 その目は尋常ではない熱を帯びていて、僕はそれに従うようにして曜の下に滑り込んだ。
 口元を左手で隠して、曜が僕の上で器用に僕の一番熱が籠もった部分を刺激した。
 瞼をギュッと閉じた曜が愛おしくて、僕は彼女の腰に手をかけると下から思い切り突き上げた。目を見開いた曜は、小さく身体を痙攣させた。


 そのまま僕の上に力なく倒れる。
 僕たちはいつも、ここからが本番だった。


 倒れてきた曜を強く抱きしめながら、僕は勢いを増して腰を振る。
 最早曜は声を出すこともなく息を鋭く甘く吐くだけだ。その口を僕は僕の口でふさぐ。舌を絡ませる。絡ませていくうちに、曜の唾液が僕の口内に流れ込んできてそれを飲み込む。

 僕はこの瞬間にいつも、たまらない興奮を覚えてしまう。

 そしてそれを理解している曜は、ニッと笑って僕を見つめると、少しだけ唇を離してわざと唾液を垂らす。僕はそれを飲む。段々待っているのが惜しくなって、再び彼女の唇を貪るようにして食む。


 ジュル、とか、グチュ、みたいな音を立てて、僕は曜の唾液を求め続け、その最中でも同じような音を立てながら腰を動かし続けていた。

「あ、ちょっと、……待っ」

 曜が今度は大きく身体を震わせて、僕の頭を羽毛布団みたいに柔らかくて気持ちが良い胸に押しつけた。

「待たない」

 その胸に咲いた小さな蕾を僕は舐めて、吸って、噛んで。

 そして今度は僕が曜の上。抱きしめながらキスをして、耳を、首を舐める。首にかみつく。思い切り首を吸ってやると、曜は特別喜ぶ。それが嬉しくて僕は、何度も何度も首を吸って鬱血の痕を残してやる。

 顔を上げると、曜が両手を僕の首にそっとかけた。
 それを合図にまた曜を抱きしめて、僕はその日三度目の絶頂を迎えた。


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