リュートを弾いて紅白歌合戦出場

そんなウソな!と思われるかもしれませんが、この話、実はホントです

それが実現したのは、今から遡ること56年前の、1966年(昭和41年)。
ビートルズが来日して武道館公演を行った年の暮れ、第17回の紅白歌合戦でのことです。もちろん私はまだ生まれてません・・

当時20歳のマイク眞木が、この年のヒット曲『バラが咲いた』を歌ったときに、リュートが登場しました。

私の世代では、マイク眞木といえば、フジテレビのドラマ『ビーチボーイズ』で、民宿の経営者役として渋い演技を魅せていた人、という印象の方が強いかも・・数年前のマイク眞木へのインタビューによると、このドラマのオファーを受けたときは、日本からしばらく離れていたときで、反町隆史も竹ノ内豊も知らなかったそうです。

『バラが咲いた』のシングル・レコードのジャケット。ここで本人が持っているのは、リュートでなく、普通のフォークギター

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ううむ、これでまだ20歳とは・・それより、タイトルの上に「日本のモダン・フォークがうまれた!」との宣伝文句があるのが面白いですね。事実、この曲のヒットが、日本のフォーク・ブームの火付け役となったようです。
もっとも私自身は、リアルタイムで聴いた世代ではなく、子どもの頃に聴いていた童謡のカセットテープに、『山口さんちのツトム君』とかに交じってこの曲が入っていて、歌のほうはなんとなく覚えました。もちろん、歌手の名前など知るはずもありません。

「うだうだ言ってないで早く、紅白にリュートが出てきた証拠を見せてくれ!」

そうでしたね・・はい、分かりました。こちらです! 

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なにぶん、古い映像のスクショなので、画質が悪くてすみません・・でも、この楽器の形は、明らかにギターではありませんよね。

マイク眞木はデビュー当時も、そして最近になって懐メロ番組その他で『バラが咲いた』を弾くときも、ギターを弾いているのに、この紅白の晴れ舞台の時に限って、リュートを持って歌ったみたいなのです。出場が決まる前から、この楽器を持っていたのでしょうか?あるいは、NHKの関係者か誰かから、特別にこのとき用に楽器を渡されたのでしょうか?

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後ろからのアングル。カポをはめている(3カポのようです)ところに、白いバラを取り付けているのが確認できます。歌詞の中では「真赤なバラ」ですが、それだと白黒テレビの画面では映えないと判断したのかも。ちなみに当時はまだ、カラーテレビは普及しつつあったものの、白黒テレビを追い抜くのは、1973年(昭和48年)らしいので、まだしばらく先ですね。

・・と、ここまでご覧になって、

「これはリュートではないぞ!おのれ、騙しやがったな!」

という声が、もしかしたらあるかもしれないので、ありかじめことわっておきます。
それを言うなら、現代の私たちが一般的に「古楽器」として認識しているリュートではない、という意味においてでしょう。

紅白の舞台で使用されたこの楽器は、実は19世紀の後半には、リュートとして受け入れられていました。ドイツのリュート「ドイチェ・ラウテ」と呼ばれる楽器がそれです。

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フレットの取り付け方や弦の材質など、いくつかの点を除けば、モーツァルトやベートーヴェンの時代、遡るとバッハの時代においてさえも、ドイツ語圏ではこれとほぼ同じ形の楽器があり、広く使用されていたことが確認されています。ただし、彼らの時代にはリュートとは呼ばれなかっただけです。調弦もギターとほぼ似たようなもので、マンドーラガリコンなどと呼ばれました。

私のように、普段から古い音楽や楽器を中心にやっていると、この手のいわゆる「モダン・リュート」はあくまで亜流だとか、もっと悪く言えばニセモノだとか思ってしまう傾向がありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。歴史を追っていけば、これはこれで立派にリュート!と言えると、思います。

では、私が普段弾くことの多いルネサンス・リュートから、バロック・リュートを経て、上のドイチェ・ラウテに至るまでの約3世紀ほどの間に、どんな変化があったのか?それはまた、次回以降に書きたいと思います。

最後に余談。『バラが咲いた』には、タモリによる替え歌があるのをみなさんはご存知ですか?

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1981年(昭和56年)にリリースの『タモリ3』のジャケットは、ご覧の通りアングラ感満載。当然内容も過激で、発禁となったレコードです。

B面の最初の曲に、『ハラをサイタ(唄:ダイク真木)』とあるのがそれ。

♪ ハラをサイタ ハラをサイタ 真っ赤なハラを~
♪ 淋しかった 僕の部屋で ハラをサイタ~

そしてタモリのナレーションが続きます。
「4年後、この歌に刺激されて、作家キジマユキオハラをサイタのです」

三島由紀夫の割腹自殺は、たしかに1970年(昭和45年)でした。
内容は不謹慎ですけども、このナレーションでのオチと言い、パロディ芸極まれり、といった感じですかね。


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