建築学生が建設コンサルタントに入社したらどうなるか

建築学生は建設コンサルタントになり得るか

最近、新卒の一次面接の面接官として対応する機会を得ました。中には、土木の業界ではない学生もちらほら。

そんな中でも、気になったのは建築学科在籍の学生。なにを隠そう、僕もまた建築学科に在籍していた学生だったので、とても親近感が湧いてしまいました。

どちらかと言えば土木業界にカテゴライズされる建設コンサルタントは、一般的に建築業界に流れるであろう建築学科からは明らかに認知されづらい立場。認知されても都市計画やまちづくりの文脈が多いです。

ゼネコンと比較したら、建設コンサルタントは土木業界の中でもマイナーな立場とも聞きます。

そんな建設コンサルタントに建築学生が入社するとどうなるか。今回は自分の実体験を基に、建築学生が建設コンサルタントに入社するとどうなるかについて綴ります。

1.モデル・イメージ作成で即戦力

建設コンサルタントでは、3Dやイラスト、パースで表現する人材があまりいません。

図面も2次元が依然主体であるため、立体的にどのように見えるのかは個人のイメージ能力に依存します。必ずしも誰もが図面を見て理解できるとは限らないのです。

そんな環境下で、手書きのパースやコラージュは強烈な効果を発揮します。以下は僕が一年目に遭遇した実例です。

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とある団地の完成全体図を絵にできないかと客先から要望された部長から、簡単でいいからイメージ作って!とお願いされました。

学生時代はPhotoshopをそれなりに使用していた僕は、部長に指名され、試しに作ってみることになりました。

イラストよりもリアリティを求められる内容だったため、photoshopの代打でGimpを使い、Google Earthの画像を背景に設定し、平面図を重ね、工場の素材をその上に載せ…はい、即席コラージュの完成です。

時間の制約もありましたが、正直かなり雑な感じです。部長に「まだ雑なんであれなんですが、こんな感じですけど…どうですか?」と見せると…

部長はじーっと見て、しばらく考え込んで、言いました。

「これは1枚10万円いけるよ!」

流石に過大評価だなとは思いますし、え、だったら独立できるな…なんて頭によぎりましたが、なんにせよ、従前の建設コンサルタントにはないアウトプットだったんだと思います。

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その後もちょこちょこコラージュやパースやイメージの作画を行ったりして来ています。時折業務でも勝負所の時は差し込むようにしています。

今でこそ建設コンサルタント界隈はBIM/CIMが進んできており、3Dモデル作成が浸透しつつありますが、どうしてもポリゴン感が拭えないのが実態です。

この点、パースを描く、モデルを作る、レンダリングする、写真の加工やコラージュ作るなどのスキルは、表現の手段としては競合が少なく、建設コンサルタントの業界ではとても重宝されます。

2.感度の高いビジュアル作成

建築学生から建設コンサルタントになって明らかに差があるなと感じたこと。それは、

デザインやビジュアルの文化があまり浸透していないことです。

建設コンサルタントは文章で勝負、なところが少なからずあり、文章量が多くなりがちです。そのため、報告書、会議資料は文字ぎっしりになったり、概要版でさえも図版がなかったりになりがちです。

その資料にとてもいいことが書かれていても、ただただ文章のみで表現するのは適切に考えが使わらない恐れもあるし、読みづらさは相手の読解するコストも発生するし、とてももったいないことです。

逆に言えば、的確な図版を作成できる、見やすいレイアウトが出来る、効果的に色を使用できるなどなど、コンペや設計課題で身に付けたデザインに関するスキルによって、重宝される人材になります。

その意味では、学生時代に身に付けた上記のスキルが活かされる余地が大いにあります。

3.コンペで鍛えられたロジカル思考の発揮

大学在籍時はコンペを提出したり、学内の設計課題をがむしゃらにやったりと、建築学生らしい生活をしました。その行動自体が、建設コンサルタントになるとそのまま生かされているなと実感します。

コンペで言うと、ただただテーマに沿って自分が考えた提案をするだけでは落選ですよね。

テーマを設定した審査員がいて、何故このテーマなのか、何を本質的に望んでいるかの仮説を立てる、審査員の彼/彼女らがなにに興味を持つか、コンペ自体の過去の受賞傾向、ぶれてはいけないポイントは何か…そのような分析を経て、では、どんなコンセプトとするかをロジカルに考えて進めるプロセス。

このプロセスを建設コンサルタントに置き換えてみます。道路の設計を依頼されたとすると、

何故道路なのか、道路を建設することで何を実現したいのか、発注者はどの点を気にしているか、何を求めているか、受益者や地権者はどう考えているか、工期は短いのか、どこがボトルネックなのか…いろんなことを考えた上で、ではどのような線形の道路を提案するかなどを考えるプロセスに移行します。

このロジカルに考える思考は業務全般であるべき思考だと考えますが、コンペはこのプロセスを図らずとも踏んでいけるのです。

賞を取る必要は必ずしもありません。ロジカルに考える思考の機会をどれだけ多く持てるか、が大事だと考えます(その結果、賞が取れればベスト!)。

勿論、コンペの経験はプロポーザルはそのまま生かされる余地があります。

業務を遂行する、プロポーザルを作成する、いずれにおいても、自分で案を考えて、作り、提案する行為自体のプロセスは変わりません。

その意味で、学生時代にコンペや設計課題で、自分の思考をロジカルに組み立てて説明するプロセスは武器になります。

4.土木でない視点での土木の俯瞰

土木業界に参入する学生さんで多いのは、土木学科や社会デザイン学科等の土木に寄せた学科が多いと思いと思います。これらの学科出身の学生は土木の基礎的な下地がある意味で即戦力になり得ます。

では建築学科の場合はどうでしょうか。

建築学科の学生は、土木の基礎的な下地がないため、力学や材料は多少理解が及んでも、大体にしてかなりキャッチアップしなければいけないのは事実としてあります。これは個人的な経験からも言えることです。

一方で、学生時代から土木業界ガッツリでなかった分、先入観なく土木業界を俯瞰して見れるとも換言できます。

土木学科で学んだから当たり前だと捉えることを、建築的な視点から見ると異なる解釈ができたり、逆に提案の切り口になり得たりします。

周囲が土木学科出身で多く構成されていればいるほど、建築学科出身の立場や視点がより際立ちます。つまり、知識ではなく、視点やモノの見方が武器になりうると言えます。

5.結論:建築学生、活躍できます

今回は、建築学生が建設コンサルタントとして就職したらどうなるかについて綴りました。まとめると、

1.モデル・イメージ作成で即戦力
2.感度の高いビジュアル作成
3.コンペで鍛えられたロジカル思考の発揮
4.土木でない視点での土木の俯瞰

になります。一言で言えば、建築学科で培った経験、スキル、モノの見方、考え方は、建設コンサルタントでも有効に機能するし、活躍できるし、差別化にもつながります

文中にもある通り、建築学科で学んだことがすべて活かされることはなく、土木学科出身の学生と比べれば専門性においてハンディキャップがあることは否めません。

それでも上記の視点は、活躍できる場がある、差別化させるには十分な要素だと考えます。

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