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Oliver Sim 『Hideous Bastard』(2022)

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3/10
★★★☆☆☆☆☆☆☆☆


歌詞は特徴的だが、サウンド含めた一つの音楽として、どこを目指して何を達成しようとしたのか、今ひとつゴールが分かりにくい作品。

音はインディロックを中心に、ダウナーなソウル/ヒップホップ、つまりトリップホップ的なトラックも耳を引く。細かなシンセやストリングスを配した丁寧な作りは良いが、先進性やインパクトには欠ける。ミックスは意図的にロウでラフに仕上げられており、ここは昨今の潮流に合わせていると思う。全体に、特筆すべきものはない。去年のJordan Rakeiのアルバムと印象が似ている。

であればボーカルと曲自体の出来と歌詞(何をどれだけ歌うか)が重要になってくるが、この人のボーカルはもともと抑揚とは真逆のカラーだし、コードもドラマティックさを排したフラットな進行で構成されている。ボーカルメロディもビターテイスト。飛び抜けた曲も無い。こうなると、この作品をどこを評価すべきなのか、私の中には評価軸/フレームが無い。

一方、エイズであることの辛さを吐露した歌詞からは、彼の気持ちがいやというほど伝わってくる。「私が口にした食べ物を父は食べてくれるだろうか」「ディズニープリンセスなんて嫌いだ」などかなり率直かつ簡単な表現が多いので、歌詞がスッと頭に入ってくる。

ただ、大半の曲が辛い気持ちの吐露であり、最終曲も落ちた歌詞で幕を閉じるので、聴き終わって残るのは暗い気持ちばかり。エイズが一人の人間の精神面に与える影響の大きさ、それを伝えることが本作の目的なのであれば、それは完遂されたと言えるだろう。だが正直に言って、それを感じるために音楽を聴きたいとは私は思わない。

周りの目を恐れず率直に自分の気持ちを表現した勇気。そこから何かを感じ取るリスナーがいれば、音楽的達成の有無は別にして、このアルバムは役割を果たしたと思う。


3曲目の90年代トリップホップ的トラック、4曲目の若干ダブなダウナートラックはカッコいい。6曲目はThe xxの曲と言われても違和感がない。


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